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【テレ朝に学ぶコンサルタント的発想 その1】 アメトーークはなぜ流行る?

【テレ朝に学ぶコンサルタント的発想 その1】 アメトーークはなぜ流行る?

荒木 亨二

ビジネスコンサルタント&執筆業。荒木News Consulting代表。業界をまたいで中小企業経営者のサポートを行う「究極のフリーランス」。2012年より、ビジネス書の執筆ならびに雑誌の連載をスタート。

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この春の新入社員がもっともよく見るテレビ番組のトップは『アメトーーク』だそうだ(マイボイスコム調査)。40歳である私と同じ、私もいつも大笑いしながら見ている。私の精神レベルはその程度か・・・。しかし、若い人とはテレビの見方がまったく異なる。たかがバラエティ、されどバラエティ。見方を少し変えるだけで、いろんな気付きがある・・・。

アメトーークとは?

「家電芸人」「華の昭和47年組芸人」「ガンダム芸人」「中学の時イケてない芸人」・・・。一般人ではおよそ想像つかないトンデモ企画を矢継ぎ早に投入し、<バラエティ不毛の時代>の現在において、ひとり気を吐くバラエティ番組がテレビ朝日の『アメトーーク』である。

この番組の秀逸さに関しては、もはや説明は不要だろう。通常はドラマや報道などマジメ番組が受賞する「ギャラクシー賞」まで獲ってしまったように、勢いだけでなく高い完成度も認められることとなった。いったい何が視聴者を虜にしているのだろうか?

偏見を愛せよ、そこに鉱脈あり

「家電芸人」とは、家電マニアである芸人たちが、自分の愛する家電やこだわりをひたすら熱く語る企画である。大型テレビなど消費者の関心が高い人気カテゴリーから、果ては掃除機、炊飯器といった地味な製品まで、扱う話題は広範囲に及ぶ。芸人たちは好き放題・自分勝手に、オススメ家電のメリットをアピールしていくというもの。

視聴者にとっては彼らの豊富な知識が役立つ。芸人たちが面白おかしく紹介することにより、家電量販店でお馴染みの"分かりづらいマニアックな説明"と異なり、欲しい情報や不必要な知識がすんなり耳に入ってくる。

芸人が家電を語る・・・、見たことのないバラエティである。

「華の昭和47年組芸人」とは、昭和47年生まれの芸人たちが、子どもの頃に流行った音楽や当時のカルチャーなどを楽しく回顧するという企画である。エリマキトカゲ、おニャン子クラブ・・・、キーワードをヒントに当時の想い出を語り合いながら、過去の体験を共有する。もちろん笑いのプロなので、当然ながら話はどんどん脱線して思わぬ笑いを生み出すが、これが狙いである。

「同時代」を「同年齢」で生きていないと、しっかり理解することが難しいのが"世代の会話"の特徴である。昭和37年の人々には分からず、昭和57年にも理解できない。昭和47年前後の同世代のみ、大笑いしたり、懐かしんだり、共感することができる。芸人たちが子どものように嬉々として語る姿、それはまるで"同窓会のようなノリ"であり、知らない人は楽しみが少ない。

内輪ウケが主眼・・・、見たことのないバラエティである。

「中学の時イケてない芸人」・・・、これまたシュールなくくりである。女の子と一度も話すことがなかった、友達がひとりもいなかった、ヘンなあだ名をつけられた・・・。異様に暗い学生時代を過ごした芸人たちばかりが集まり、自分はどれだけ悲惨であったかを自慢し、ユーモラスに傷をなめ合う企画である。

辛い過去であり、本来なら笑いに不似合いなヘビー話である。普通のオトナが飲み屋で語っても一銭の価値にもならないし、封印したい過去だろう。ところがそんな辛い体験の数々も、芸人たちに預けてみればとたんに"珠玉のエピソード"に生まれ変わる。何せ、彼らは笑いのプロフェッショナルなのだから。

暗い過去を楽しく語り合う・・・、見たことのないバラエティである。

アメトーークは基本、企画が命の番組である。どこも手をつけていないテーマで勝負をしている。たまにコケるがそれまたご愛敬とばかりに、企画の斬新さにこだわるスタイルは変わらず、そのチャレンジ精神が高い関心を集めているのだ。

偏見を愛することで、鉱脈を探り当てる・・・。人間は偏見の塊だ。誰にも理解されない価値感、自慢できない趣味、隠しておきたい想いがあり、それらは社会性を持たないぶんエッジがきいており、いわば人間の本性がたっぷり詰まっている。自分が抱く偏見と、他人に抱かれるであろう偏見、このギャップに笑いの鉱脈を見つけたのがアメトーークである。

このように書くと<企画の秀逸さ>、言うなれば発想のユニークさだけで勝負しているように思えてしまうが、人気の秘密はこれだけでは説明ができない。企画が優れていても、きちんと回すオペレーションが成立していなければ、決して成功することはない。実は、相当に緻密に練られた戦略こそ、アメトーークの人気を支えている。

仕掛け満載の先進的バラエティ? 

1)笑いが消費のモチベーションを上げる

笑いのプロフェッショナルである芸人が、普通の家電を偏屈なまでに愛して語る・・・。家電芸人という一風変わった趣向が大きな反響を呼んだことは、記憶に新しい。チュートリアルの徳井さんが番組内で褒めちぎったマニアック商品「YAMAHA YSP1100」が、Yahoo検索ランキングで4位になったという衝撃の事実からも、その独特の影響力をはかり知ることができる。

今や家電=芸人という新たなマーケット、新たなアプローチが生まれつつあり、高い影響力を持つようになった家電芸人はCMに起用される事態にまで発展している。これまで家電の宣伝といえば、有名俳優が定番であった。ここに新たな道を拓いた効果は大きい(ここには失敗もあり、次回書く予定)。

たったひとつのバラエティ番組が、新たな消費モチベーションを喚起することになった。バラエティは楽しむだけのものでなく、日本経済にも影響を与える、それがアメトーークの底力のひとつである。

2)売れない芸人を活躍させるインキュベーション

「家電芸人」然り、「47年組芸人」然り、「中学の時・・・」然り、アメトーークは売れていない芸人を起用することに長けている。普通のバラエティなら売れっ子、旬の有名人ばかりを集めて作っていくが、視聴者としてみれば予定調和的であり、ほかの局でも似たような番組を見ることはできる。

芸人としては漫才やコントが面白くなくても、ニッチなテーマであれば、トークで個性を発揮することができるかもしれない・・・。とある分野に限って言えば彼の右に出る芸人はおらず、視聴者ウケはしなくても芸人ウケするディープな笑いが生まれるかもしれない・・・。

売れていない芸人も使いよう、素人ではないから"魅せる話術"や"落とせるコツ"は心得ており、テレビに出してみると想像以上に面白かったりする。すると、視聴者はあれ? この人テレビであまり見たことないけど、笑いのセンスとか話し方とか上手いじゃん! との評価につながる。

売れてない芸人の評価が高まると、次の別企画に呼ばれることもあり、そこでまたまた個性を発揮して笑いを生み出すと、次第に名前が売れていくサイクルに入る。数多の芸人がしのぎを削るなかで"芸だけでない個性"を発見し、育てていくインキュベーション機能も備えている。

アメトーークはリアルな番組を通じて埋もれた芸人を発掘し、視聴者にプレゼンさせる"芸人の夢舞台"でもある。視聴者はそんなお宝も期待している。

3)タブーを思いっきり笑う

「徹子の部屋芸人」という、訳のわからない企画も秀逸だ。テレ朝の長寿番組「徹子の部屋」に出演し、彼女の独特の切りまわしにコテンパンにやられた芸人は数知れず・・・。そんな芸人たちを集め、徹子の部屋でどれだけやっつけられたかを大いに語り合い、笑い合う企画である。

徹子さんって笑いが分かってないし、空気読めないし、出演するのは名誉だけど正直厳しいよね・・・。芸人たちが何となく思っていた"共通の空気感"を集め、それならいっそのこと徹子さんについて語ってしまおう! ついでにパロっちゃおう! という大胆企画である。

「徹子の部屋」はテレ朝の看板番組のひとつ、いたって真面目なトーク番組であり貴重なコンテンツである。そして、黒柳徹子さんは芸能界の超大物、イジるのはタブーであった。ところが「徹子の部屋」を放映しているテレ朝みずからがパロることで、シュールなリアリティーが生まれる。

芸人たちが体験したさんざんな話は、単純に笑える。そうしたエピソードを集めることで、ややお堅いイメージがあった「徹子の部屋」に新たな価値観を持たせたことは、それだけでもバラエティの魅力として十分である。

さらに感心したのは、徹子さんのモノマネが得意な女芸人・友近さんを呼んだこと。「徹子の部屋」に出演が決まっている芸人を呼び、徹子さんに扮した友近さんが、過激なフリやテーマでお笑いシュミレーションを行ってから「徹子の部屋」に送り込むというもの。当然、徹子の部屋のプロモーションともなるわけだ。

一見、黒柳徹子さんをバカにしているような企画でありながら、出演者は彼女に対してきちんと尊敬の念を表明しているため笑いが不快にならず、同時に徹子さん独特の人格をあぶり出す効果もあり、彼女の新たな一面を発掘もしている(最近マンネリ化しており、こちらも次回書く予定)。

今回例に挙げたものに限らず、アメトーークが過去に放った数々の企画は、社会に何らかのインパクトをもたらしているものが多い。巧妙な仕掛けがあり、サブカル的なようでありながら実益的であり、もはやバラエティの枠を超えた存在ではなかろうかとさえ感じている。

アメトーークはすべてがニッチな話題である。ガンダムなんて知らない、じゃあ、見なければいい。昭和47年なんて関係ない、じゃあ、笑わなければいいという発想である。ターゲットを最大限にまで最小化し、その変わりに絞り込んだレイヤーを純粋に楽しませるためだけに作り込んでいる。マスマーケティングとは対極の考え方であるが、むしろこれは正攻法である。

もはや万人から愛されるような番組は作れない。雑誌が売れず、いたずらにセグメント化して新雑誌を作ってみては廃刊していく出版業界を見れば明らかなように、ライフスタイルが進化し価値感が多様化した現在は、消費も楽しみ方もバラバラなのだ。

バラバラの時代、どこに共通項があるのかというと、それは「世代という昔」であったり「ニッチな精神世界」であったり、「個人的体験の集積」かも知れないし「社会の片隅の現実感」かも知れないし、普通の発想では見えてこないものばかりである。掴めないそんなココロを的確に掘り起こし、番組として成立させているのがアメトーークなのだ。

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アメトーークでマーケティングを学ぶ?

・・・こんな感じで、私はいつもアメトーークに大笑いし、感心しながら見ている。あまりの企画の面白さに悔しくてたまらず「自分ならこんな企画をやりたいなあ」「こんな風に膨らませたら面白いだろうなあ」などと、テレビを見つつも同時に自分のビジネス発想のトレーニングとして利用している。

「消費者をファン化し、次に固定化させる」。これは商売の鉄則であるが、アメトーークは特にファン化に優れており、同世代に的を絞ったことでバイラル効果も著しく、翌日の職場、友人との会話、ネット上での波及効果を見るにつけ、その戦略性は参考にせずにはいられない番組なのだ。

アメトーークに限らず、近年バラエティに個性と勢いのあるテレ朝。制作にあまりお金をかけられない時代背景を逆手にとってマーケティングに磨きをかけており、私個人的にはいろんな芽を感じている企業のひとつなのだ。 

コストをかけないで消費者にインパクトを与える方法、ファンの創出から固定化までの流れ、外さないテーマ選定・・・、テレ朝の戦略とは、実はテレビ業界にとどまらず他のビジネスにも十分通用あるいは応用できるものであると、コンサルタント的な視点でずっとウォッチしているのだ。(残念なことも多く、次回に)。

最近、私の周囲ではマーケティングに関する非常に根本的な話題が多い。「マーケティングを学ぶにはどんな本を読んだらいいんですか?」とか、「荒木さんのマーケティングは大企業に通用するんですか?」とか。そんな言葉を聞くたびに思うことがあり、それは昔からずっと感じ続けていること。それは・・・。

マーケティングを本で学ぶ前に【マーケティングとは何か?】を知らなければ始まらない。大企業で通用するマーケティング? それは知らない。大企業で通用するかどうかを知る前に【消費者に通用するかどうか?】を徹底的に考えることの方が、先である。

大企業や有名企業のマーケティングの内実についてはいろいろ耳にするが、『マーケティングを高度化することが目的化』していたり、『社内プレゼンスを高めるための部署として形骸化』していたり、いかに売るかという本筋を忘れているケースがけっこう多い。

先日、40歳の大学の同級生から電話がかかってきた。会社の部署異動でマーケティング部門に配属されることになり、私にマーケティングを教えてくれないか? というものだった。

「マーケティングって何? どうすればいいの?」

ずっと総務・人事畑を歩いてきており、もちろんマーケティングの知識も経験もなく、想像したこともなかった異動であるという。ちなみに彼はとある業界のトップ企業に勤めており、極端な一例に過ぎないが、これもまたニッポン企業のマーケティングの一例である・・・。彼が発したマーケッ!ティングという初々しい発音には、思わず笑みがもれてしまった・・・。

本で学んでもいいし、大企業で通用するような理論を学んでもいいが、基本的に正解はない。正解がない、ということを知らないままでは、何も始まらない。私はマーケティングという概念をきちんと学んだ経験はなく、コンサルタントとして企業が必要であろう"売れるコト"を真剣に考え抜いているだけであり、そもそも自分がコンサルタントかどうかも定かでない。

身近なテレビを題材に書いた今回の記事は、以前に同じような雰囲気で書いた『光GENJIは不運だった。ジャニーズから学ぶマーケティング的発想』と対をなしている。

さて、今回褒めちぎったテレ朝だが、やり過ぎると必ず綻びが出てくるもので、そこに気付いたならいち早く修正をしなければいけない。テレ朝は本当は気付いているのに、売れてしまったために戦略が変えられないのか? 次回はそんなお話を・・・。

(荒木News Consulting 荒木亨二)

*イオンの新規ビジネス花屋『ルポゼ・フルール』、ブランドプロデュース中

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