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続・F1から撤退したホンダが得たものと失ったもの
誠編集長ヨシオカが日々考えていること
続・F1から撤退したホンダが得たものと失ったもの
Business Media 誠で編集長をしています。本ブログ&Twitterでは、Webメディアや紙メディア、ネットビジネス、携帯電話、非接触ICなどについての話題が中心になる予定。
ブログではお久しぶりです。先日誠のランキングを眺めていたら、2009年の5月に書いたコラム「F1から撤退したホンダが得たものと失ったもの」が1位に上がってきていて、懐かしいやらびっくりするやら。おそらく先週、ホンダがF1復帰を認めているというニュースがあり、Yahoo! ニュースの関連記事としてこのコラムが紹介されていたからだと思うのですが、それにしてもびっくりしました。
実はこのコラムには、誠メルマガにだけ載せた「続き」がありました。こちらも2009年6月と3年前のものですが、せっかくなのでブログで公開しようと思います。
2012年日本GP、鈴鹿サーキットで展示されていた歴代のホンダF1マシン。キャメルのロゴがついた黄色いボディは懐かしい人も多いのでは?(私自身は当時F1見てなかったんですが......)
========= こ こ か ら 転 載 ==========
訳あって4月から誠の記事をほとんど書いていません。久しぶりに誠に書いたコラムが「F1から撤退したホンダが得たものと失ったもの 」。土曜日に載せたせいもあり、掲載直後はほとんど読まれていなかったようなのですが、その後mixiニュースに配信されたところ、ずいぶん反応がありました。
F1、好きな人は好きですが、興味ない人はまったく興味ないですよね。この記事ではF1を見ていない人でも分かるように、ホンダが撤退したあとのチームの価値を、後継チームの成績の良さと、広告価値という2点で説明しています。それは、この2つが数字で表せるものなので、F1に興味がない人にも客観的に評価できるだろうと考えたからでした。
ところが、この記事を書いた結果私が言われたことと言えば「吉岡さん、ホントにF1好きなんだね~」ばっかり......。いや、そういうつもりで書いたのではなかったのですが。このまま黙っていようかとも思ったのですが、せっかくのメルマガコラム。読者も限定されているということで、今回は私はF1ファンですとカミングアウト(?)した上で本コラムについて加筆したいと思います。
今回、私は普段の記事なら必ず行うことをしていません。それは「関係者のコメントを取る」こと。ホンダ広報部などにF1撤退についてコメントを取るのが記事のセオリーだと思いつつ、今回はあえてそうしませんでした。なぜかといえば、「撤退して一番悔しい思いをしているのはホンダの人に決まっているから」。
撤退会見の直後にホンダの社員とお話する機会もあったのですが、みなレース好き、F1好きでホンダに入社した人ばかり。会話の端々でレースの話になってしまっては「あっ......」と口を濁すのです。「そりゃぁ悔しいですよ。でも、社長が交代でもしない限り、復帰はないでしょう」と悔しげに話していた社員の人たちの姿を見ていただけに、あえてコメントを取らずに記事を書いたのでした。
撤退するのは悪いことだとは思いません。でも、撤退の仕方が悪かった。ホンダでF1のことを口にしてはいけないような雰囲気、逆にF1の世界でホンダの名前を口にしてはいけないような雰囲気で撤退してしまったのは、今まで築いてきたことを放り出すようで、やってはいけない選択だったと思うのです。シーズン途中で撤退するよりはマシとしても、なぜもう少し良い形でやめられなかったのか。
F1ファンとして何より悔しかったのは、佐藤琢磨選手の進路を絶ってしまったこと。記事でもちょっと触れましたが、ホンダのドライバー育成プログラムを受けてF1ドライバーになった佐藤選手が、トヨタチームで走ることはまずあり得ません。日本人だから、という理由ではなく、彼は本当に才能のあるF1ドライバーだと思います。あの希有な才能をつぶしてしまうなんて......それが何より惜しいし、悔しいのです。
もっと言えば、もともとB.A.R.という英国のチームと組む形でF1参戦したホンダは、自社のワークスチームであるはずなのに(大金も使っているのに)英国スタッフにいいようにされ、自社系列のドライバー1人チームに押し込むこともできずに撤退したのか、そう思うと情けなさ過ぎる。ホンダの名前が消え、ブラウンGPとして再生したとたん、ミハエル・シューマッハー全盛期のフェラーリ並みの好成績(先日のトルコGPもバトン選手が圧勝しました)。「英国人ドライバーをエースに据えた英国人チームとして結束力を固めた結果がこれ? ホンダが(日本が?)そんなに邪魔だったの?」と、嫌味の一つも言いたくなろうというものです。
ちなみにあのコラムで私は最後に、「ホンダはその潔すぎる撤退劇のおかげで、経済誌や著名評論家が『英断』と評するいう"名"を得るとともに、多大な広告効果という"実"を失ってしまったのではないか?」と書きました。ファンの本音としては、名と実は逆です。ホンダは撤退によって、会社を守るという実を取り、F1に挑戦し続けるチームという名誉を失ったのでしょう。
失ったものはあまりに大きかった――コラムに対する賛同も批判もたくさん見ましたが、私の思いは今も変わりません。
========== 転 載 こ こ ま で =========
この翌年、トヨタもF1からの撤退を発表し、日本の自動車メーカーは完全にF1から撤退する形になりました。そして2012年。ホンダ・トヨタという二大スポンサーが居なくなった今年は、ついにフジテレビのF1地上波放送が終了。BS・CSでないとF1中継は見られなくなりました。
日本のF1人気もここまでか......と思いきや、なんと今年の日本GPでは、鈴鹿サーキットの10万人の観衆の前でザウバーの小林可夢偉選手が3位を獲得。日本人3人目となる快挙を成し遂げました。ちなみにこれまでF1で3位になったことがある3人の日本人とは誰かというと......、1人目が鈴木亜久里、2人目がコラムで触れている佐藤琢磨、これだけしかいないのです。
それなのに可夢偉選手は現在(というか、ちょうど日本GPの頃から)、来年ザウバーに残れるかどうかという崖っぷちにあります。来年も彼がF1で走るためには、どこかの日本企業が彼の大口スポンサーになるか、チームが5位になるか、2つに1つと言われています。彼ほどのずば抜けた才能があっても、母国の企業スポンサーなしで、ヨーロッパのスポーツであるF1で日本人選手が走るというのは、とてもとても難しいことなのです......。
ホンダ・トヨタの撤退によって、F1での存在感がかなり薄れてしまった日本。ホンダには本当にF1に復帰してほしいなあ、そして、どこかヨーロッパに進出したいメーカーがザウバーのスポンサーになってくれないものだろうか......心からそう思っている私です。
【お知らせ】誠では、ホンダ、トヨタのF1撤退、スバルのWRC撤退会見の詳しい様子をまとめて読めるPDFを公開しています。ご興味がある方はこちらからどうぞ。→「レースからの撤退会見――ほぼ全文で」