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カメラ見本市CP+に見る、2011年のデジカメトレンド

カメラ見本市CP+に見る、2011年のデジカメトレンド

高瀬 文人

フリーランスのライター/編集者/書籍プロデューサー。 月刊総合誌や『東京人』などに事件からまちの話題、マニアックなテーマまで記事を発表。生命保険会社PR誌の企画制作や単行本の編集も行う。著書に鉄道と地方の再生に生きる鉄道マンの半生を描いたヒューマンドキュメント『鉄道技術者 白井昭』(平凡社、第38回交通図書賞奨励賞)、ボランティアで行っているアドバイスの経験から生まれた『1点差で勝ち抜く就活術』(坂田二郎との共著、平凡社新書)、『ひと目でわかる六法入門』(三省堂編修所、三省堂)の企画・制作。

当ブログ「高瀬文人の「精密な空論」」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/bunjin/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


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*ペンタックスは「ファッションカメラ」へ

■カメラ見本市でも日本の地位が低下
日本最大のカメラショーである「CP+」が横浜パシフィコ見本市会場で行われている(12日まで)。
かつて、「カメラショー」と呼ばれたこの催しは、主催団体の統合や分裂を経て、現在のイベント会社が仕切るスタイルになっている。
以前はショーに合わせて、カメラメーカー各社は新製品を発表し、ショーでお披露目がある華やかさがあったが、最近異変が起こっている。各社の主力商品は、ドイツで9月下旬に開かれる見本市フォトキナに合わせて、まずヨーロッパで発表されることが多くなった。日本のカメラ見本市の地位は相対的に下がっているのである。今回のCP+にも、キヤノンのエントリー一眼レフ「EOS Kiss5」「EOS KissX50」が発表されたのみで、そのほかはコンシューマー向けのコンパクトカメラの発表がほとんどだった。

■CP+にみる3つの傾向
とはいえ、CP+の会場を歩けば、デジカメの3つのトレンドがあることがわかる。それを紹介したい。
①新しい撮像素子を使っての動画との融合
ソニーは、昨年発売した一眼カメラα55で、秒10コマをオートフォーカスで確実に追尾しながら撮影できる「連写カメラ」という概念を提案した。これは写真の撮り方が、「一発必中」からたくさん撮った中からベストショットを選ぶ方向に大きく変わる可能性を秘める。ビデオカメラの蓄積が大きなソニーとキャノンが有利なポジションにいる。
α55の面白いところは、高速連写技術を使って、露出を変えた画像を合成し、いままでの写真では影になってつぶれるところや光が強く当たって白く飛んでしまう部分の階調をすべて再現するという方向性を打ち出していることだ。まだ色合いや目で見た光景との違和感から本格的に普及するには時間がかかるだろうが、これも写真の進化の方向性の提案として興味深い。会場ではさらにハイアマチュア向けの新機種のコンセプトモデルがガラスケースに入れられて公開されていたが、機種名、内容ともに不明だ。
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*「連写カメラ」の定着を図るソニーの展示。見学者に自転車のハーフパイプ競技を撮らせる。

また、三原色それぞれに対応する3層のセンサーをもつFOVEONという受光素子を唯一採用しているシグマが、中判フィルムカメラ並の高画質が得られるカメラSD-1の実際に動くパイロット版を展示した。シグマ以外が採用する、1層の受光素子から演算で色を求めるベイヤー配列の素子のカメラにどれだけ伍していけるかが注目される。

②スペック競争の終焉と本格画質の追求
いままでのデジカメ販売の世界は、画素数を多くし、高感度をいかに高めるかの競争であった。
実はさらに爆発的に画素数が増える技術が開発中との話もあるが、現在の技術では頭打ちになってきており、受光素子の面積が同じ場合、画素数を増やすとむしろ画質が低下する問題が指摘されている。
そこで、スペック競争をやめて、画素数は1000〜1200万画素程度に抑え、その分を高画質化に振り向けたり、良質のレンズをおごった高級コンパクトカメラが各社から発表された。
趣味性を前面に打ち出し、メカ好きの男性にアピールするデジカメの新しい需要を掘り起こそうというもので、フジのファインピクスX100、オリンパスのXZ-1などが注目される。フジのブースでは、ライカに似たレトロスタイルとなったX100の試用できる台数が絞られていたため、長い行列ができていた。
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*フジのX100はこんなレトロスタイル。


③女性を意識したファッションカメラの台頭
スペック競争の終焉のもうひとつの側面として、女性に写真の楽しんでもらうための製品が目立った。会場にはオリンパスのPEN-F EP-1にきれいなストラップをつけて首から下げている「カメラ女子」の姿が目立ち、ポーチなどの写真用品メーカーも、女性にターゲットを絞った商品を多数展示していた。ニコンでは雑誌と連携しての「カメラ女子」向けテーブル撮影講座が行われて人気を集めていた。
それとは別の意味でファッションに振るという思い切ったメーカーはペンタックスだ。「120通りの組み合わせ」をうたうK-rの全色展示が来場者の度肝を抜いていた。

■写真家の講演も見逃せない
このほか、CP+の楽しみとしては、写真家がスクリーンに自分の作品を映写しての講演、ワークショップがある。私が見た中では、リコーブースの小澤太一(こざわたいち)氏、ニコンブースの中井精也(なかいせいや)氏の講演が印象的だった。特に中井氏は鉄道写真のカメラマンだが、その写真は鉄道好き以外の人をもうならせる、叙情と論理が混ざった不思議なものだ。撮影にあたって考え抜いたり、シャッターチャンスを求めて苦労する話に、常に会場整理が出るほどの人だかりができていた。
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*リコーブースの小澤太一氏の講演。

■道具として磨かれたカメラがほしい
私個人としては、デジカメは道具として、使い勝手と画質を極めてほしいと思う。もう一度基本機能を見直すという意味で興味深かったのは、10日発売のリコーCX5のパッシブAFの復活だ。
ベストセラーカメラで半年に一度のモデルチェンジを繰り返すこのカメラ、実は私はノーマークであった。しかし、今回は大きな変更がされていた。
かつてのコンパクトデジカメにはAF(オートフォーカス)測距用の素子が搭載されていたが、レンズの光を受けて画像をつくる受光素子に測距素子を埋め込むことでピントを合わせる「コントラストAF」が生まれ、コストも下げられることからほとんどのコンパクトデジカメでAF測距用素子は廃止された。しかし、トレードオフとして、ピント合わせの時間がかかるようになったのである。
CX5をリコーブースで試用してみると、先代CX4よりもAFが圧倒的に早く、道具としての使い勝手が向上している。写真を撮るという目的に対して、カメラが素早く動いて望む写真が得られることが最も気持ちがいいのだ。大変地味だが、リコーのこの方向性は支持したい。

それにしても、展示の中で一番感慨深かったのは、日本カメラ博物館による「デジカメの歴史」だった。ガラスケースの中に、デジカメ世界第一号のソニーのマビカが展示されていたのだ。1981年に作られた、日本で最初のデジタルカメラ。すべては、ここから始まったのである。

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*30年前の、ソニーの新聞広告に「未来が来るなあ」と思った私は中学生であった。
 初めて目にした本物は、意外に小さなカメラであった。


CP+は2月12日まで。パシフィコ横浜で10:00〜18:00(最終日は17:00まで)
10日は入場料1000円だが、事前のweb登録で無料に。11日、12日は無料。