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大企業で働くことは、実績と能力にたくさんの「利息」が付くという事

大企業で働くことは、実績と能力にたくさんの「利息」が付くという事

波多野 謙介

コラボリズム株式会社 代表取締役で文系プログラマー。超朝型へのスイッチで、仕事と家庭の両立を目指す二児の父。

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最近、「大企業で働くことはデメリットが多い」といった主張の記事を見る機会が多くなってきました。

これらの主張の主旨は次のようなものです。「大企業に入ると、多くの事を学べるフレッシュな時間を、ビジネスと関係ない社内業務(社内調整とか、各種許可を得るための仕事とか)の習得に費やすことになり、気づけば社内業務には長けていても、本当のビジネススキルを持たない人間になってしまう」

Tower of Babel
Tower of Babel / papalars

世の中に閉塞感があって、多くの人が踏み出す道を見失っている今のような状況ですから、これまで無条件で良いとされてきたものを考えなおしてみる、という事は必要だと思います。

しかし逆に「大企業で働いたことの無い」立場から見ると、この主張からは大企業で働くことで得られる大きなメリットが抜けてしまっていると感じます。大企業に入って少しの間はいろいろと大変かもしれませんが、後になってみると大企業で働いたことはその人にとっての大きなメリットとして返ってくるはずです。それは特に、大企業を辞めて自分の会社を立ち上げた時に、強い効果をもたらすように思います。

大企業で働くことのメリット

例えば、ある人が会社を辞めて自分の会社を立ち上げる事になり、知り合いに「俺の会社で働かないか?」と話を持ちかけたとき、その起業家がこれまで働いていた会社が、IBMやSONY、野村證券である場合と、普通の中小企業である場合では、相手が協力してくれる確率は変わってくるでしょう。

誘われた側が起業家を良く知っていて、前職など気にしない爽やかな心意気の人だったとしても、その奥さんを説得する必要があるとすれば?あるいは親を説得する必要があるとすれば?その時には起業家の前職は有効な説得材料になるに違いありません。

それだけではありません。会社を設立して新製品を開発し、プレス向けにリリースを打つ時にも、経営者が大企業で実績を上げた人だと記者さんに取り上げられやすいでしょう。そっちのほうが読者も興味を持つからです。

さらには大企業は歴史もあり、社員数が多いため「元」社員の数も自然と多く、その中には別の会社で高い地位に就いている人もたくさんいます。人間、同郷の徒には優しいもの。そのような先輩方を味方につけることができるのも、大企業卒業生のメリットです。

能力と実績はブランドで掛け算される

もちろん、その人の能力が1番重要なのは間違いありません。

しかし、なでしこジャパンが本当に評価されたのはアメリカに勝ってからであるように、高い能力や人間的な魅力を持っていても、世の中から評価されるには、その人の能力を見ず知らずの他人に分かってもらうためには、誰からもわかりやすい「実績・評判」が必要です。

Victory Parade
Victory Parade / Smabs Sputzer

その点、大企業で有利なのは、大企業で働いて上げた実績は中小企業で上げた実績よりも大きく評価されがちである、という事です。

例えば、マイクロソフトで「Windowsの開発に携わっていました」というと、もう大変な人物のように思えますし(実際大変な人物ですが)「SONYでブラビアのマーケティングに関わっていました」と言われると「ほほうー」と思うものです(僕は思います。)

それに比べて、中小企業であげた実績は、その人に高い能力があったとしても伝わりづらく、Windowsの開発と同じくらい高度な事をやっていても「へえー」くらいの評価になってしまいがちなもの。

つまり、大企業で窮屈な思いをしながら上げた実績や磨いた能力は、将来、中小企業ではなかなかつかむことが出来ない「高い利率」で利息がつけられて返ってくる、と言えるのではないでしょうか。

もちろん、中小企業やベンチャーは素晴らしい

もちろん、僕は今の立場がとても気に入っていますし、自分は人生をかける価値のある仕事に就けた幸運な人間だとも思っています。

自分の努力でこの会社、この事業は大きくなった。この会社と一緒に成長したという気持ちは、小さな会社やベンチャーでしか味わうことができないものですし、若いうちから責任を任され、制約の少ない中でビジネスを自分のものとして考えて行動する事は、ほんの短い期間で人間をめざましく成長させます。「成長しやすさ」という面では、確かに中小企業、ベンチャーは有利だと思います。

そして何よりも窮屈でないというか、何が重要で何が重要でないかという「決まりごと」を、自分の提案によって変えられる柔軟性は、ベンチャーや中小企業でなければ得難いメリットでしょう。

しかし、一方で大企業で窮屈さを我慢して努力した結果は、「もし」将来独立する事になった時には「大きな利息」として帰ってくる訳ですから、若くて大企業に入るチャンスのある人は、この利息の存在も意識しながら、進路を考えると良いのではないでしょうか。

誰にでもある、人生の分岐点

こんなエントリーを書くと、ゼミの教授に某巨大アパレル企業を紹介してもらった事を思い出します。当時はITバブルの時代。ベンチャーで一発当ててストックオプション→独立。なんて事を考えてた僕は迷わずベンチャーを選んだのですが。

そのアパレルを選んでいたら今頃髪の毛パーマ&ピチピチのスーツ着てデザイナーと打ち合わせとかしてたんだろうか...もう見た目も考え方も違う人間になっている気がする。

結局はどっちに転んでも楽しいのかも知れませんが、大切な人生の分岐点。いろんな意見を参考に、慎重に選択してもらいたいものだと思います。