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人がほしいから会社を買う時代

»2012年10月 4日
未来の人事を見てみよう

人がほしいから会社を買う時代

クレイア・コンサルティング

人事・組織領域を専門とする経営コンサルティングファーム、クレイア・コンサルティングの広報・マーケティングチームです。

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クレイア・コンサルティングの調です。こんにちは。

特定の優秀な個人の自社に引き入れたいと思った場合、経営陣や採用担当者がとる手段としては、対象者に直接/間接にアプローチして、その人を引き抜く、という形が一般的ですが、最近のシリコンバレーはそうでもないようです。この風習は日本でも根付くでしょうか?
今日はアメリカの代表的な公共ラジオ局、NPR(National Public Radio)の記事をご紹介します。

Employee Shopping: 'Acqui-Hire' Is The New Normal In Silicon Valley
社員をショッピング: "買収採用"こそがシリコンバレーの新たな常識


何が起きているのか?


Tech companies like Google, Facebook and Zynga are on a shopping spree. They're buying small startups with innovative products and apps. But, many times, the tech giants don't care about what the small companies were producing. They just want the engineers.

GoogleやFacebook、Zyngaといったテクノロジー企業は、今や買い物狂いの状態にある。先端的な製品やアプリを持つ小さなスタートアップ企業を買っているのだ。しかし、多くの場合、これらテクノロジー界の巨人たちは、その小さな企業群が何を作り出しているかには関心を持っていない。彼らは単にエンジニアが欲しいだけなのだ。

このような取引を、

"acqui-hire" / 買収採用

と言うようになったそうです。これは、acquisition(買収)とhire(採用)をつなげた造語ですね。

記者が最初にこの動きに気付いたのは、Googleが今年の夏にSparrowという有償のメールソフトを買収(Sparrowにかけてswallowed(飲みこんだ)と表現しているのはうまい)した件だとのこと。このアプリ、私もiPhoneに入れてました。お金払って。本当に困る。。こういったアプリは買収された後、たいていサービスが凍結されます。なぜなら買収した側はサービスではなく開発者が欲しかったのだから。

記事内ではreMailというメールアプリを開発し、Googleに買収採用されたGabor Cselle氏も登場しますが、彼のサービスも買収後にその運営が終了されました。


買収採用を受け入れる理由は、意外にウェット


このような採用が活発になった理由としては、

This is the crazy world of talent acquisition. "Acqui-hires" are very Silicon Valley ? the product of an explosion of new startups and a shortage of engineering talent.

これは優秀人材を獲得することを目的とした、狂乱した世界といえる。「買収採用」はきわめてシリコンバレー的な現象だ。新しいスタートアップの爆発的な誕生と才能あるエンジニアの不足とがこの現象を生んでしまった。

シリコンバレーならではの優秀なエンジニアに対する需要と、それに対する人材供給のバランスが崩れており、その手っ取り早くかつ有効な解決手段として、人を会社ごと買収するというアクションが生まれた、というのが端的な理由のようです。ノースカロライナ大学のJohn Coyle教授によると、一回の買収で2~3人の超優秀な人材が獲得出来れば御の字とのこと。

しかし、次のCoyle教授の指摘のほうが、さらに重要でしょう。

these deals were multiplying in recent years. One of the big reasons, he found, is saving face.

このような取引は近年大きく増殖している。その大きな理由の一つは、メンツ/面目の維持だ。


どういうことなのか?


You can then go into a bar with your friends the day after the deal closes and tell your friends, 'Hey, I just sold my company to Google.' And, that's going to go over really well. People are going to be really excited for you

What's not said in that bar is that the startup probably wasn't doing so well. It was not destined to be the next Twitter.

この買収が終了した翌日に友達とバーに行って、こう伝えたと仮定しよう。『いやぁ、実は僕の会社をちょうどGoogleに売ったとこなんだ』。そうすると、物事はすんなりと受け入れられるはずだ。人々はあなたをエキサイティングな人として扱ってくれるに違いない。

ただこのバーでの会話で明らかになっていないことがあり、それは、このスタートアップがおそらくあまり(ビジネス的に)うまくいってなかったということだ。この会社は次のTwitterになる運命を持っていなかった。

買収採用に多く関わる弁護士、Yoichiro Taku氏も、次第に資金調達が難しくなっていく中で、エグジット戦略を取るか会社を畳むかの選択を迫られるのが大半のスタートアップの現状だと言っています。

An acqui-hire is an exit strategy that can make many people happy. Investors get money back, the tech giants get to hire people who might not have wanted to work there otherwise, and the founders look like they just had a success.

買収採用は多くの人をハッピーにするエグジット戦略といえる。投資家は資金を回収することができ、テクノロジーの巨人たちは、そうでもなければ自社で働くこともなかったであろう人々を採用することができ、創業者はまさに(自社の売却でエグジットが)成功したように見える。


副作用


会社間の取引としてはうまくいっているように見えるこの動きですが、当然ながらその副作用は、まずサービスやアプリを利用している利用者側に降りかかってきます。これまで使っていたサービスやアプリがある日使えなくなってしまうのです。これまでもどれだけ残念な思いをしてきたことか。

また、エンジニアにとっても、これまで心魂を傾けて作ってきた製品の開発をあきらめることになってしまいます。そこに未練は無いのか?
Coyle教授は、エンジニアにとって、一定の肯定的な理由付けは可能と言います。

these tech companies are bringing these engineers over to design new and exciting products for them. And, maybe in the long run, these new products they'll work on working for, say, a Google or a Facebook, will be more popular and even more beneficial than the apps they worked on before

これらのテクノロジー企業は、エンジニアたちを新しいエキサイティングな製品のデザインに携わらせることになる。そして長い目で見れば、彼らがGoogleやFacebookなどの企業のために手掛けた新しい製品は、以前携わっていたアプリと比べても人気があり、収益性もさらに高いものになる可能性がある。

とはいえ、全てのスタートアップがこの動きに賛同的かというと、もちろんそうではないようで、前述のCselle氏も3か月前にGoogleを辞め、今は新たなベンチャーを始めたところだと言います。

買収採用を受けない、と公言している企業・創業者も出てきており、たとえばオンラインブックマーキングサービス(でいいですかね?)で私も愛用しているInstapaperの創業者、Marco Arment氏は、以前買収採用を断ったこともあるのだとか。その理由は、

he likes working at home with his wife and newborn and wouldn't want to shut down a popular product.

妻や生まれたばかりの子供と一緒に、家で働きたいし、人気のある製品を閉じたくはない。

とはいえ、Arment氏も落ち目の会社が買収採用を受けることには否定的ではないとのこと。しかし、一番の懸念は、才能あるエンジニアへの需要が今後極度に高まったときだと言います。

"Then, the acqui-hire prices climb, and that makes it hard for a company to say no to the offer, even if they're doing well," he says.

As for himself, he never says never.

"Oh, sure, everyone has a price,"

「そうなったら、買収採用の金額も跳ね上がり、どれだけ業績が良かったとしても、会社としてその提案にノーと言うのは難しくなるだろうね」と彼は言います。

彼にとっても、絶対無いとは絶対言えないとのこと。

「だって、結局のところ、誰にだって値札がついてるわけだからね。」

スタートアップを取り巻く環境が異なる中、日本でもこのような動きが起きてくるかははなはだ不透明ではありますが、現在すでにエンジニアの獲得合戦がIT企業の間で激しく行われていることを考えると、対岸の火事として見ぬ振りをしておくのは、IT企業の経営陣・採用担当としては、少しリスクがあるのかもしれません。逆に、人材を獲得する、という採用発の目的で、M&Aのディールが動いていく、という新たな導線が出来てくるかもしれませんね。

お読みいただきありがとうございます!

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ベンチャーに関連のありそうな事例を、最近当社サイトにupしています。ファンドが関与する形での統合と、IPO前後での人事体制強化の2本です。