誠ブログは2015年4月6日に「オルタナティブ・ブログ」になりました。
各ブロガーの新規エントリーは「オルタナティブ・ブログ」でご覧ください。
仕事が存在しない世界がやってくる
当ブログ「未来の人事を見てみよう」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/creiajp/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
クレイア・コンサルティングの調です。こんにちは。
『ワーク・シフト』では未来を形づくるものとして、5つの要因があげられていましたが、その1番目に来るものが「テクノロジーの進化」です。そのテクノロジーの進化に関連して、Associated Press(AP通信)がまとめてThe Washington Post(ワシントン・ポスト)に3回シリーズで掲載された記事が昨今話題になっています(日本、および日本語ではあまりこの記事への参照は目にしませんね。ここくらいです)。
Harvard Business Review (HBR、ハーバード・ビジネス・レビュー) が平日朝に注目ニュースをピックアップしている Morning Advantage でも、A World Without Workというタイトルで紹介されています(今回のタイトルはそこからヒントを得ています)。かなり長文なのですが、主に人事やマネジメントの実務者の方に有用な主要部分を厳選してご紹介します。
ちなみに、先のグラットン氏がテクノロジーの進化において注目すべき現象としてあげた要因の中では以下の項目、とりわけ10.に関する考察となります。
- 1. テクノロジーが飛躍的に発展する
- 3. 地球上のいたるところで「クラウド」を利用できるようになる
- 4. 生産性が向上し続ける
- 9. 「人工知能アシスタント」が普及する
- 10. テクノロジーが人間の労働者に取って代わる。
テクノロジーが仕事を乗っ取る
AP IMPACT: Middle-class jobs cut in recession feared gone for good, lost to technology
第一話目のリード文が全てを言い表しているかもしれません。MITのAndrew McAfee氏らによると、5年前の景気後退以降、
Millions of middle-class jobs have been lost in developed countries the world over.
And the situation is even worse than it appears.
Most of the jobs will never return, and millions more are likely to vanish as well...What's more, these jobs aren't just being lost to China and other developing countries, and they aren't just factory work. Increasingly, jobs are disappearing in the service sector, home to two-thirds of all workers.
They're being obliterated by technology.
何百万ものミドル・クラスの仕事が世界各地の先進国において失われてきている。
そして、実は目に見える現実よりも、状況はさらに悪化の一途をたどっている。
多くの仕事は二度と戻ることはなく、さらに数百万の仕事がまさに消えようとしている...さらに重要なことに、これらの仕事は中国やその他の新興国へと消えていったわけではなく、また工場などでの肉体労働の仕事では無い。サービス・セクターでの仕事が急速なスピードで消えていっているのだが、このセクターこそは全労働者人口の3分の2を占める大きな領域となる。
これらの仕事は、テクノロジーによって消失しているのだ。
McAfee氏とErik Brynjolfsson氏が電子版で発行した新著、Race Against The Machine(もちろんRage Against the Machineのモジリですね)は、HBRだけでなくあちこちのメディアで取り上げられており、日経ビジネスONLINEでちょうど今日(2013年2月7日)から第1章が公開され始めています。
数字を見ていくと、アメリカにおいては2008年から2009年6月頃までの不況期の間に失われた750万の仕事のうちの半分がミドル・クラス、つまり中間層の仕事であり、その年収は38,000ドル(約355万円、以降2013年2月7日13:19JSTのレート)から68,000ドル(約635万円)までとなっています。そして、この間に失われた仕事のうち、ミドル・クラスに戻ってきたのはたった2%、29%は高所得層に行き、残りの7割は低所得層にまわされてしまっています。EUにおける仕事の減少はさらに急速であり、2008年1月から昨年6月までの間に760万もの仕事が消えうせています。
もちろんテクノロジーの進展によって、テクノロジー関連の仕事は隆盛を誇っていますが、問題は、テクノロジー関連の雇用より多くの雇用が失われているということなのです。
AP通信の研究によって判明した主な事項として、次の7点があげられています。
- For more than three decades, technology has reduced the number of jobs in manufacturing...Now, that same efficiency is being unleashed in the service economy
30年以上にわたって、テクノロジーが製造業における雇用を減らしてきた...そして今や(機械による)効率性がサービス経済においても拡大している。
先にも述べたとおり、サービス業は先進国の雇用の3分の2を占めています。
- Technology is being adopted by every kind of organization that employs people.
テクノロジーは人を雇用している全ての種類の組織において採用されている。
つまり、この傾向は企業だけではなく、かつ組織の多寡も問わない、ということです。
- The most vulnerable workers are doing repetitive tasks that programmers can write software for
最もダメージの大きい労働者はプログラマがソフトウェアを書けるような反復型の仕事をしている人たちとなる。
そして、さらなるテクノロジーの進化により、実は大学の学位で守られていると思っている管理者・マネージャー層が、より脆弱な立場に立たされることになります。
- Thanks to technology, companies in the Standard & Poor's 500 stock index reported one-third more profit the past year than they earned the year before the Great Recession.
テクノロジーのおかげで、S&P 500(アメリカの株価指数)に組み入れられている企業の業績は大不況の前年より33%増となっている。
気になるのは、業績が拡大しているのにも関わらず、当該企業での雇用数が合計50万人も減少している(つまり高効率になっている)という部分です。
- Start-ups account for much of the job growth in developed economies, but software is allowing entrepreneurs to launch businesses with a third fewer employees than in the 1990s.
先進国での雇用拡大のほとんどをスタートアップ企業がカバーしているが、ソフトウェアのおかげで起業家たちは1990年代に比べ3分の1も少ない人数で事業を立ち上げることが出来ている。
つまり、人事をはじめとした管理業務の雇用はほとんど生まれていない、ということになります。
- It's becoming a self-serve world.
セルフサービス型の世界になってきている。
誰か、に頼るのではなく、テクノロジー/ソフトウェアに頼って事が済む世の中に。
- Technology is replacing workers in developed countries regardless of their politics, policies and laws.
政治や政策、法律の別なく、先進国でテクノロジーが労働者に置き換わっている。
法体系が違っていても、テクノロジーを採用して、より少ない人数で仕事を回すことを禁じる国はどこにもない、と。
最後の点については、ジョブ型ではなくメンバーシップ型の雇用形態が主流の日本ではそう簡単にいかない部分もありますが。
アメリカでも2009年6月に大不況を脱した後、3度目の「ジョブレス・リカバリー」(雇用なき回復)だ、ということが言われたそうなのですが、過去2回はある程度雇用が戻ったようなんですね。ただ今回は戻らない。記事内で紹介されているWebb Wheel Productsというトラックブレーキ製造メーカーでは、この3年間、人の新規雇用を行わずDoosan V550Mという機械のみを採用し、生産量を25%拡大させたそうです。また、製造業の成長が著しい中国やブラジルにおいても、多少の中間層の雇用増はあるものの、機械の導入による効率性を目指すところが増えてきているとのこと。
第一話では、先の7点について、上記のような背景事情が詳しく説明されています。
テクノロジーはどうやって仕事を乗っ取るのか
Big Data and cloud computing empower smart machines to do human work, take human jobs
ここも数字を見ていきましょう。アメリカ労働省の統計によると、アメリカでは2000年から2010年の間に110万もの秘書の仕事が消失していますが、これは上司が自らスマホなどを操ってスケジュール管理をしてしまうことが主な理由。同じ期間、電話交換手は64%減、書記・タイピストは63%減、旅行エージェントは46%減、簿記係は26%減となっています。
AP通信は、先進国において経済や労働市場の様相を変えてしまうテクノロジーの要素として、次の3つをあげています。
1. BIG DATA / ビッグデータ
omputers thrive on information, and they're feasting on an unprecedented amount of it...
more information now crosses the Internet every second than the entire Internet stored 20 years ago. Every hour, they note, Wal-Mart Stores Inc. collects 50 million filing cabinets' worth of information from its dealings with customers.
No human could make sense of so much data. But computers can. They can sift through mountains of information and deliver valuable insights to decision-makers in businesses and government agencies.
コンピューターは情報を主食としており、それをかつてないほどの速さで食べまくっている...
今や、20年前のインターネットが抱えていた全ての情報と同じだけの量が、毎秒インターネット上を駆けまわっている。ウォルマートによると、5,000万台のファイルキャビネット分にものぼる顧客との取引情報が毎時間収集されている。
人間にはこれほど大量のデータの意味を理解することは出来ない。しかしコンピューターはそれが可能なのだ。コンピューターは情報の山をふるいにかけ、企業や政府の意思決定者に対して価値のある洞察を提供する。
Amazonの購買履歴管理によるレコメンド機能もそうですね。
現在は顧客データの収集にまつわるプライバシーの問題などが大きな注目を浴びているものの、ソフトウェアの起業家Martin Ford氏によると、ビッグデータの効用は社員の生産性向上にも寄与するとのこと。
"What is less visible...is that organizations are collecting huge amounts of data about their internal operations and about what their employees are doing." The computers can use that information to "figure out how to do a great many jobs" that humans do now.
「あまり注目されていないのだが、組織は社内のオペレーションや、実際に社員が何をしているかについての大量の情報を集めている」。コンピューターはそれらの情報を使って今人間が行っている仕事について「どれくらい多くの優れた仕事が(機械におきかえることで)可能かを解明」しようとしている。
つまり、ここでも最終的には人を減らす方向に行ってしまう、ということになります。
2. THE CLOUD / クラウド
Now, companies can store information on the Internet ? perhaps through Amazon Web Services or Google App Engine ? and grab it when they need it. And they don't need to hire experts to do it.
今や、企業は情報をインターネットに―おそらくはアマゾン・ウェブ・サービスかグーグルアップエンジンに―保管し、必要な時に取り出すことが出来るようになった。そしてこれらを実行するための専門家を雇う必要もなくなった。
以前はSAPで販売情報を管理するためには、大勢のコンサルタントやSEを動員してERPを導入する必要がありましたが、今やクラウドでサービスが提供されるため、極論を言えば自社で社内情報システム担当を雇わなくてもなんとかなる状態になっています。
ここは、なんとも、そのままの話なので、コンテンツも少なめですね(苦笑)。
3. SMARTER MACHINES / 機械性能の向上
Though many are still working out the kinks, software is making machines and devices smarter every year. They can learn your habits, recognize your voice, do the things that travel agents, secretaries and interpreters have traditionally done.
多くのソフトウェアが未だに何らかの欠陥を抱えつつも、ソフトウェアが機械やデバイスの性能を年々向上させている。ソフトウェアはあなたの習慣を学び、あなたの声を認識し、旅行エージェントや秘書や翻訳者が長きに渡って行ってきたことをやってのける。
AppleがiPhoneなどで提供している音声認識ソフト、Siriが最もこのイメージに近いでしょうか。昔夢見たような機械との会話が今や成立する世の中になってしまっています。さらに機械の性能が上がり、よりクリエイティブに動くだけでなく、
machines and their software are becoming easier to use...The most important change in technology...is "the profound simplification of the user interface."
機械やそのソフトウェアがより使いやすくなってきている...テクノロジーにおいて最も重要な変化は...「ユーザ・インタフェースの簡素化への深化」である。
という点も見逃せません。人と機械との接点が改良されたことにより、昔は人との接触を懐かしんでいた人々も、今や自動改札を平然と通過していきます。
これらの結果、
Those factors, combined with the financial pressures of the Great Recession, have led companies and government agencies to cut jobs the past five years, yet continue to operate just as well.
大不況による財務的なプレッシャーともあいまって、過去5年の間、機械性能とUIの向上とが企業や政府機関においてオペレーション品質を向上させつつの人員カットを可能にしてきた。
ということになります。ある市では公立学校でのスクールバスのルートを最適化することでバスのドライバーを160人から80人へと半減させ、シアトル警察は調書をパトカーのラップトップから入力させるシステムの導入だけで24人の事務スタッフを不要とし、自然減する退職者の補充を行わないまま、多くの内勤の警察官を再び現場勤務に戻すことに成功しています。
その他韓国での銀行での効率的な店舗運営や、東京を走る全自動運転のゆりかもめの例など、人から機械への人の置き換えの例が多数あげられています。
また、今話題のGoogleの自動運転カーに対する日経ビジネスONLINEの記事に対し
「クルマは走る喜びを感じられる存在だ。単なる移動手段ではないところに、替え難い付加価値があるとしたら、自動走行はクルマらしさの喪失につながりかねない。」
→もうさ、自動運転が実現したら、色々な業界構造やら労働市場やらが激変するわけじゃないですか。最も労働人口を吸収しているタクシーやらトラック、バスドライバーが要らなくなっちゃうし、免許制度も微妙になるし。
そんな事を想像も出来ず「クルマらしさの喪失」とか言っちゃってる...
というコメントを知人が残していましたが、まさにその通りで、
Driverless cars will have a revolutionary impact on traffic one day ? and the job market. In the United States alone, 3.1 million people drive trucks for a living, 573,000 drive buses, 342,000 drive taxis or limousines. All those jobs will be threatened by automated vehicles.
運転者が不要となる車は、いつの日か革命的なインパクトを交通機関―そして労働市場―に与えることになる。アメリカ単独でも、310万人が生活のためにトラックを運転しており、57万3千人がバスを運転しており、34万2千人がタクシーもしくはリムジンを運転している。これらの仕事が自動運転車の脅威を受けることになる。
という事態がまさに目の前に来ているのです。
仕事のない世界へ
A world without work: As robots, computers get smarter, will humans have anything left to do?
先の自動運転の車については、映画「アイ・ロボット」や、古くはテレビドラマの「ナイトライダー」の世界がまさに実現しようとしているわけですが、ライス大学のコンピューター学者Moshe Vardi氏によると、先の運転手たちの雇用がどうなるか?については
"All those jobs are going to disappear in the next 25 years...Driving by people will look quaint; it will look like a horse and buggy.
「これらの仕事は25年以内に無くなってしまうだろう...人が運転することは古風な趣となり、馬と馬車のような存在として見られるだろう。」
との予測を立てています。さらに、どのような仕事が安全か、という点については、
"Are we prepared for an economy in which 50 percent of people aren't working?"
「我々は50%の人々が働かない経済に対して準備が出来ているだろうか?」
と逆に問いかけます。
先に述べたように、中間層の仕事がここ5年間で大幅に減少しているのですが、今後どうなるか、という点については、厳しい見方をする識者が多く存在しています。
Every time a transformative invention took hold over the past two centuries ? whether the steamboat in the 1820s or the locomotive in the 1850s or the telegraph or the telephone ? businesses would disappear and workers would lose jobs. But new businesses would emerge that employed even more.
過去2世紀の間に起きた大きな発明は―1820年代の蒸気船、1850年代の機関車、電報や電話に関わらず―多くの事業を消失させ、労働者は仕事を失った。しかし新しいビジネスが勃興し、それらはより多くの労働者を雇用してきた。
これがこれまでの常識ではあったのですが、今やこれに疑義を唱える経済学者が増えています。理由は、
For the first time, we are seeing machines that can think ? or something close to it.
これまでで初めて、我々は考えることの出来る―あるいはそれに非常に近い状態の―機械を目にしているのだ。
つまり、
The old machines replaced human brawn but created jobs that required human brains. The new machines threaten both.
古い機械は人間の筋力(brawn)に取って代わっていたが、人間の脳(brains)を必要とする仕事を作り出していた。新しい機械はその両方に脅威を与えている。
ということなのです。
MITの経済学者、David Autor氏によると、
"Technological change is more encompassing and moving faster and making it harder and harder to find things that people have a comparative advantage in" versus machines
「テクノロジの変化はより網羅的になり、かつより速くなっており、その中で」機械と比べて「人間が比較優位性を持っている要素を探し出すことはどんどん難しくなってきている。」
厳しい指摘です。
AP通信は、経済学者やテクノロジストが未来の仕事について提供している3つのシナリオを紹介しています。
THE ECONOMY RETURNS TO HEALTH AFTER A WRENCHING TRANSITION
経済は痛みを伴う移行期間を経て健全性を取り戻す
これまでの第1次産業から第2次産業、第2次産業から第3次産業への移行は比較的穏やかに進んできたのに対し、現在のテクノロジがもたらす変革においては、労働者の業務の移行は簡単には進まないと予測されています。その理由は、カリフォルニア大学のPeter Lindert氏によると、
computers are more disruptive than earlier innovations because they are "general-purpose technologies" used by all kinds of companies.
コンピューターは初期の発明よりも破壊的なものとなる。その理由は、コンピューターが全てあらゆる種類の企業で使用される"一般目的で使われるテクノロジー"であるからだ。
1800年代初頭のラッダイト運動は紡績業に対してのみのものでしたが、今テクノロジに対抗しようとすると、全産業界に対してアクションを起こさねばならなくなります。ただ、Lindert氏は雇用不安については楽観的であり、
With the right skills and education...they can learn to work with the machines and become productive enough to fend off the automation threat.
正しいスキルと教育があれば、労働者は機械と働くことが出来るようになり、自動化への恐怖を払いのけるのに十分な生産性を確保することが出来るだろう。
と述べています。とはいえ、ノーベル賞を受賞した著名な経済学者、Stiglitz氏の予測では、
"Over the long run, I have confidence we can do it...but...I can see us being in this kind of doldrums for half a decade, for a decade, or for longer."
長い目で見れば、我々は(この難局を)乗り切ることが出来る、という確信を持っている...しかし...この種の低迷が5年、10年、あるいはそれ以上続くことは間違いない。
THE ECONOMY CONTINUES TO PRODUCE JOBS, JUST NOT ENOUGH GOOD ONES
経済は仕事を生み出し続けるが、問題はその仕事がそれほど良いものではないということだ。
The most highly skilled workers ? those who can use machines to be more productive but can't be replaced by them ? will continue to prosper. Many low-pay jobs are likely to remain sheltered from the technological offensive
最も高いスキルを持った労働者―機械をより生産的に使いこなし、それらに取って代わられない者―は引き続き繁栄し続けるだろう。多くの低賃金の仕事はテクノロジーの攻撃から引き続き守られる公算が高い。
ホテルのベッドメイキングや、忙しい最中に飲食店で皿を洗うには、人間の力が必要、ということです。でもそれ以外は、機械を高度に操ることを除くと、人間の力は不要に。
technology could continue to push economic growth ? but only a few would enjoy the benefits. More people would be competing for midpay jobs, so pay would shrivel. Many midskill workers would be left unemployed or shunted into low-skill, low-pay jobs.
テクノロジーは引き続き経済成長を後押しするが、その利益に与ることのできるのはほんの一握りに過ぎない。多くの人が中くらいの賃金の仕事を巡って争うことになり、結果として賃金は下がっていく。(その結果)多くの中くらいのスキルを持つ労働者は職にあぶれるか低スキル・低賃金の仕事に押しやられるしかなくなってしまう。
そして格差は拡大します。本来経済は中間層が消費を行い経済を拡大させていくのですが、このシナリオのように多くの人が低スキル・低賃金の仕事に就くことになると、経済成長自体が覚束なくなる危険性もあります。
TECHNOLOGY LEADS TO MASS UNEMPLOYMENT
テクノロジーが大量の失業者を生み出す
アメリカの財務長官を務めたLawrence Summers氏は、昨年のスピーチにおいて、未来における最大の財務課題は連邦債務でもなければ中国との競争でもなく、
"the dramatic transformations that technology is bringing about."
「テクノロジーがもたらそうとしているドラマチックな変革だ。」
と述べたそうです。"Doer"というなんでも実行することが可能な機械を想定した上で、経済全体での生産性は上がる一方、
Enormous wealth would go "to those who could design better Doers, to those who could think of better things for Doers to do." But everyone else would be worthless in the labor market.
巨万の富は「よりよいDoerをデザインした人や、Doerがやるべきことについてよりよいものを提起した人」にもたらされる。しかしその他の人は労働市場においては価値が無くなってしまう。
そして、Summers氏は、今まさに世界はその方向に向かいつつあり、その未来も予測が出来るようになっているが、今はまだ15%しかこの未来は進んでいない、と語ります。更なる格差、更なる断絶が生まれることが予想される、と。
ここ数年の変化だけを見ても、手元のiPhoneなどのスマートフォンだけで実現可能なことが増えてきたのは事実であり、その分、今まで同様のサービスを提供していた人の仕事は無くなってしまっているわけです。このような進化がこれからも続いていきます。
ライス大学のVardi氏によると、先の自動運転車の出現による運輸関連の雇用なども含め、
Add up the jobs that technology can take across dozens of occupations and the result...is unemployment on a scale we haven't begun to imagine.
テクノロジーが駆逐するであろう多くの仕事を足し合わせると、その結果として、我々が創造しようとしたこともないようなスケールの失業が出現することになるだろう。
と警告を発しています。
そして、先に取り上げたソフトウェアの起業家Martin Ford氏は、その著作"The Lights in the Tunnel"において
a computer-dominated economy with 75 percent unemployment before the end of this century; the vast majority of workers...won't be able to develop the skills necessary to outrun job-killing computers and robots.
コンピューターが支配する経済では、今世紀の終わりまでに失業率が75%となるだろう。大多数の労働者が仕事を消失させているコンピューターやロボットに打ち勝つのに必要なスキルを身につけることが出来ないのだ。
という未来予測を行い、また以下のように述べています。
"People talk about the future, creating new industries and new businesses,...But there's every indication that these are not going to be in labor-intensive industries. ... Right from the get-go, they're going to be digital."
「人々は未来について語り、新たな産業や新たな事業を作り出していきます...しかしその全てにおいてはっきりしているのは、それは労働集約型の産業に基づくものではなく...その初めの段階から、デジタルに集約されたものとなることなのです。」
人事の未来
個人がどうすべきか、という点については、冒頭に挙げた『ワーク・シフト』などを読まれるとよいかと思います。ここでは人事を取り巻く環境の未来について。
管理部門のコンサルティングを行うThe Hackett Groupの推計によると、
2 million of them in finance, human resources, information technology and procurement have disappeared in the U.S. and Europe since the Great Recession. It pins the blame for more than half of the losses on technology.
財務や人事、情報システムや購買部門において200万もの仕事が大不況の間にアメリカとヨーロッパにおいて失われた。そしてそのうちの半分がテクノロジーに起因するものだとされている。
人事でいえば、福利厚生や給与といった部門が主に含まれるでしょうか。オランダで労組の連邦を組織するFNVとの交渉をおこなっているRon van Baden氏は以下のように述べています。
"Nowadays, employees are expected to do a lot of what we used to think of as HR from behind their own computer,...It used to be that you could walk into the employee affairs office with a question about your pension, or the terms of your contract. That's all gone and automated."
今日では、人事がやると思われてきたようなことを、自分のコンピューター越しにやることを期待するようになっています...昔は厚生担当のオフィスに入っていって年金や雇用契約の内容について質問をしていました。それらは全て消え去り、今や自動化されています。
アメリカの通信会社Verizonは、2007年以来、収益19%伸ばしている一方、人員数は17%削減しています。この背景には固定回線からモバイル回線への移行と、それに伴うメンテナンス要員の削減、コールセンターの代替としてのソフトウェアの開発による人員減などが含まれます。
テクノロジー系の企業は、そもそもの成り立ちとして、旧来の企業と比べて少ない人員で運営を行っているのも忘れてはなりません。
Consider the great business successes of the Internet age: Apple employs 80,000 people worldwide; Google, 54,000; Facebook, 4,300. Combined, those three superstar companies employ less than a quarter of the 600,000 people General Motors had in the 1970s. And today, GM employs just 202,000 people, while making more cars than ever.
インターネット時代の大きなビジネスの成功についてもよく考えておくべきだ。アップルは世界で80,000人を雇用している。Googleは54,000人、Facebookは4,300人。これら優良企業3社を合わせても、1970年代にGM(ジェネラル・モーターズ)が雇用していた600,000人もの社員の4分の1にも満たない。そして今日、GMは202,000人しか雇っておらず、それにも関わらず過去最大の自動車を生産しているのだ。
テクノロジーの伸展にも負けないスピードと能力を、自社に培っていくしかないのですね。しかも日本は海外と比べると雇用調整が難しいのは事実。海外の競合企業以上の工夫が求められます。
やや直近の課題としては、滞留するバブル世代の問題が内在化している企業が多いとは思いますが、それもこのような話に比べると矮小化されてしまいます。
日常業務が多忙な中大変ではありますが、未来に目を向けて、じっくりと根本的な施策を考えていくことも必要です。
長文でしたが、お読みいただきありがとうございました。
~
ここまでの未来像に対抗するには、個別のソリューションというわけにもいかないでしょう。議論を重ねながら、いろいろな施策を積み重ねていくしかないと思います。まずはディスカッションからで勿論構いません。お気軽にご相談ください。