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「カテゴリ~サンプル」関係の構造化
技術屋のためのドキュメント相談所
「カテゴリ~サンプル」関係の構造化
IT技術者経験をバックグラウンドに、技術系の専門的な情報を「分かりやすく書く」スキルの指導を得意とするドキュメント・コンサルタント。技術者向け文書作成研修経験多数。
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技術屋のためのドキュメント相談所・所長の開米です。
本日は、農林水産省環境報告書2008のまえがき冒頭の4行を考えます。たった4行? という気もしますが、わかりやすいプレゼンスライドを作るのに苦労している方にとっては手頃な練習問題にもなりますのでそのつもりでご覧ください。
まずは原文を見てみましょう↓
「農林水産省環境報告書2008の発行にあたって」
私たちの地球を取り巻く環境問題は、温暖化の進展、生物多様性の喪失、資源の枯渇など、日常生活や様々な事業活動と密接に関連しています。特に食を支える農林水産業は自然の循環機能と持続性の上に営まれており、地球環境の悪化は農林水産業に多大なる影響を与えます。
出典:http://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/s_report/2008/pdf/2_hakko.pdf
文章になったものを読んでいる分にはあまり疑問に思わないかもしれませんが、「など」という副助詞の用法が少し不自然ですね。
「など」の典型的な用法を二つあげてみましょう。
【カテゴリ→サンプル】 身近な鳥類としては、スズメ、ハト、カラスなどがあります。
【サンプル→カテゴリ】 スズメ、ハト、カラスなどは身近な鳥類です。
いずれにしても、「カテゴリ」とそのカテゴリに属する「サンプル」を示すものであり、ご覧のとおり「カテゴリ→サンプル」と「サンプル→カテゴリ」のどちらの順でも使えます。
ところが冒頭の一文
私たちの地球を取り巻く環境問題は、温暖化の進展、生物多様性の喪失、資源の枯渇など、日常生活や様々な事業活動と密接に関連しています。
では、この「カテゴリ~サンプル」関係がわかりにくくなっています。ぼんやり読んでいると「日常生活」が「カテゴリ」にあたるもののように見えて思わず読み直してしまいそうです。
この文は本来、2つに分けるべきでした。
私たちの地球を取り巻く環境問題としては、温暖化の進展、生物多様性の喪失、資源の枯渇などがあります。
環境問題は、日常生活や様々な事業活動と密接に関連しています。
と2つに分ければ問題なく明快に伝わるのですが、「環境問題」という両方に登場するキーワードをいずれも主語にして一文に統合してしまった結果、読みづらくなってしまいました。
試しに視覚化してみると、原文は下記のように「カテゴリ~サンプル」関係と「問題~影響範囲」関係について一文で説明しようとしているわけです。
まあ、これもできないわけではありません。どうしても一文で書きたければ
私たちの地球を取り巻く環境問題には、温暖化の進展、生物多様性の喪失、資源の枯渇などがあり、これらはいずれも私たちの日常生活や様々な事業活動と密接に関連しています。
のように書きます。ポイントは、「などがあり」というフレーズを入れて、そこに意味の区切りがあることを明示していることです。さらに、「これらは」という語を続けることで、前の部分を受けて新しいロジックが始まることを明示してあります。
ついでに言うと、「私たちの」という表現を2回使っていることにも、この文が一文でありながら意味は大きく二つに分かれることを示す効果があります。
とまあこんな工夫をすれば、一文の中に二つの意味を込めながらわかりやすく書く、こともできなくはないですが・・・・しかしながらこの種の作文技術を磨く努力をすることは、誰にでもお勧めは出来ません。こういった作文技術は、文章でお金をもらうようなプロの仕事の領域だと思います。
それよりは上記の図解例のように論理関係を視覚化した上で、一文を短く書くように心がけるほうが一般の社会人にとっては実用的だし即効性が高いと言えます。
さてここで問題ですが、ロジックを視覚化すると空白部分が気になってくるものです。
実際、今回の例文も下記の空白地帯に何か書けるはずです。原文の残りの部分、「特に食を支える農林水産業は自然の循環機能と持続性の上に営まれており、地球環境の悪化は農林水産業に多大なる影響を与えます。」・・・をヒントに下記空白地帯を補ってみましょう。
→次回へ続く
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(たとえば今回の例について自分で書いてみたものを開米にお送りいただければ、喜んでコメントを書きます)
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