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レノボのリモコンキーボードN5902を使って設計者のドラマを想う

レノボのリモコンキーボードN5902を使って設計者のドラマを想う

村上 福之

株式会社クレイジーワークスの代表。家電メーカー系エンジニアでプリンタやSDカード関連の開発に従事。ケータイのアプリやサイト、電子書籍のシステムなどに詳しい。最近、断食にはまる。

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レノボのキーボードN5902をレポートします。レノボの出しているリモコン型キーボードです。結論から言うと、プレゼンと家族の団欒にはすさまじく使えるいいデバイスです。メリットはUSBによる接続の簡単さ、ゲームコントローラのような持ちやすさとホールド感とキータッチです。最大のデメリットは亜空間レベルの変態キー配列です。


無線キーボード!なのにUSB接続
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無線キーボードのくせにUSB接続です。小さい小さいUSBのトランシーバーを指すだけです。刺せばいきなり動きます。USBのHID(=キーボードやマウスの意味)接続なのでWindowsでもMacでもLinuxでもトライバのインストールをすることなくいきなり動きます。Bluetoothのようなペアリングなども一切なしです。最初、どうしていまどきUSBでHIDデバイスなのか全く理解できませんでしたが、HIDデバイスなので、指せば動くという手軽さを考えるとアリなんだなぁと思いました。

現実的に考えて、スマートフォンとタブレット以外でBlutoothのHIDに対応しているデバイスはかなり少ないからでしょう。逆にこの形状のキーボードである限りスマートフォンやタブレットで使うケースはないからBluetoothでないのですね。一方、(おそらく、この形状でつかうケースが多いと思われる)ゲーム機やインターネット対応テレビやSTBなどではむしろUSB-HIDで動いたほうが都合がいいケースが多いです。それを考えると、USBでHIDで実装するのはクレバーですね。


ホールド感とキータッチはいいです!

まず最初は、キーのタッチはかなりすばらしいです。ただし、ストロークは深くないので好みは分かれます。さらにフォルムもすばらしい。ゲームのコントローラのようにホールドしやすく、非常に持ちやすいです。


宇宙の法則を曲げるレベルの変態キー配列!!!慣れるけど。

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キーボードの配置があまりにアヴァンギャルドで宇宙の法則を曲げかねないレベルです。非常に面食らいました。多分、軽いチャットくらいには全然問題ないんですけど、すこし、記号が入るととてもとても慣れるまで時間がかかります。何より、コンビネーションが難解です。宇宙の法則を曲げる勢いのコンビネーションで、人類への挑戦を感じます。

すごい大事なキーがなぜか、ホットキーとのコンビネーションなんですよ。さらに、キーボードの面積が異状にせまいのに、ホットキーが無駄に充実しています。こんな狭いのに、ボリューム調整や、再生ボタン、ブラウザ起動、ウィンドウクローズなどなどのホットキーが充実してるんです。最初は「こんなもんに面積を取るなー!アホかー!」と思いました。理由はあとで分かりました。

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ピリオドや句読点がFn+消音というのも最初、探すのに時間がかかりました。ハテナがFn+}なのもビックリ。プログラマの命である中括弧の場所が最上段にあります。すごい変態すぎるので、このキー配列を考えた人はよっぽどプログラマが嫌いなんじゃないかと思いました。必要なキーがFnとのコンビネーションなのに、Page UpとPage DownやCAPや無変換など、あまり使わない奴が、なぜか、独立したキーになっています。この選定基準に頭を抱えました。

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Enterの下に「C+A+D」という謎のキーがあります。なんだこりゃー?って思ったら、Control+Alt+Delでした。こんなもんいらんわ!

しかし、人間恐ろしいもので,一日使ったら、慣れました。


プレゼンで使ったときに設計者のドラマを感じます。

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仕事で使うには便利かなと思ったのは、やはりプレゼンです。意外と、トラックポイントの反応が良く、LRボタンも非常に押しやすいです。ですから、リモコンマウスのように使うのは非常に軽快です。プレゼン用のマウスとしてだけで使ってもかなりいい感じです。正直、立って使えるリモコンマウスにオマケでキーボードがつきましたくらいの勢いでつかうとかなりいいデバイスだと思います。

ぼくらはデモの為、プレゼン中にキーボードを使わざるをえないことがあります。そういう時には非常にいい感じでした。ただ、プレゼン当日にいきなりこのキーボードを使うことは全くオススメしません。前述したように配列が亜空間レベルだからです。一日二日、ある程度、練習してから使わないと人前ではかなり恥をかきます。

いや、このキーボード、プレゼンで使うと、今まで、不満に思っていた設計に納得する場面が多いです。

前述で書いたように「なんで滅多に使わないPage Up/Page Downが独立キーなんだよ、バーカ!しかも、最右なんて大事な位置に置くなよ!クソが!」って思いましたが、プレゼンでブラウザを映したときに、「あああ!そうか、この時使うんだ!」と思いました。ブラウザでデモをすると、ページダウン、アップが立ったまま、しょっちゅう使うからです。押しやすい位置で独立キーじゃないとだめなのです。質疑応答で、スライドをあっちこっち、進めたり戻したりするときに、めちゃくちゃ使います。

よく見ると、キーボードバックライトもついてます。これも狭い面積なのに、独立キーでしかも最下段のいい位置です。理由はプレゼン会場は暗いから、手探りで押せる場所なんです。これも役に立ちました。再生ボタン、ボリュームボタンとか、ブラウザ起動のホットキーやウィンドウクローズのホットキーなど、「なんで、面積が限られたキーボードで無駄にホットキーが充実してるんだ!」と思ってましたが、プレゼンで使うと、全部、大事なキーであることに気がつきます。ブラウザや動画の表示や再生に、えっちらおっちらしてると、オーディエンスは覚めます。しかし、ホットキーがあるから、プレゼンのテンポを崩さないで、ブラウザや動画が扱えます。パット再生して、パっと閉じれます。プレゼンのテンポを完全に崩さない仕様になってます。使って初めて、これはいいんじゃないかと思いました。

CTRL+Alt+Delが特別なキーになっているのもよくわかります。プレゼンのデモに限って自社製品はクラッシュするからです。人に見せるとソフトウェアはクラッシュするのです。なぜか。

そうです。このキーボードを設計した人は、かなりプレゼンでいままで泣いてきた人なんです。

今まで、徹夜でつくったスライドをいっぱいけなされたり、デモ動画がなかなか再生しなくて間が悪かったり、メンバーで必死でつくったデモがクラッシュしてつめたい言葉を浴びせられたり、マウスポインタがどこにいったのかわからなくなってウィンドウを閉じれなかったり...。プレゼンデモが多い人にはみなさん、よくある体験です。

宇宙の法則をまげるくらいの変態配列のキーを見てると、「この人、プレゼンで、すごい泣いてきたんだ。つらかったんだ。たぶん、レノボなんていう、けっこううるさい会社で社内でめちゃくちゃ反対されたけど、自分の失敗から得た痛烈な信念から、この配列を社内で説得して通したんだ。」というドラマを感じました。変態なんですけど、苦労してきたんだなーって、使って初めて感じました。

その他の謎な特徴も、プレゼン経験が多い人ほど、このキーボードは、プレゼン失敗の経験に基づいて作ったんじゃないかと思う部分が多いです。正直、レノボらしいと思いました。

なぜ、Bluetoothじゃないのか?会場のPCでペアリングに失敗する可能性よりもUSBの方が確実だから。

なぜ、いまどき、充電池じゃなくて、乾電池なのか?充電池は切れた瞬間、すぐには復活できないけど、乾電池は、予備があればすぐに復活できるから。カネがかかってもビジネスマンにはそっちのほうが絶対いい。

無駄に下に出っ張っているのはなぜか?すべって落とさないためです。ホールド感が悪いリモコンマウスとか、ぼくはよく、落とします。プレゼンでモノを落とすと、一気にオーディエンスは冷めます。
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横から見ると、独特な持ちやすいフォルムです。金型わかる人にはわかると思いますが、ここにコストをかけてます。キーボード部分よりも、持つところの面積の方が大きいです。片手でも両手でも持つことにこだわって、結構、何度も何度も試作を繰り返したように思います。

ESCキーなんて大事なキーがありえない位置にあるのはなぜか?プレゼンでESCキーなんか使わないからです。

変態なんですけど、すごい考えられてます。他のブロガーさんで、けなしている人がいますけど、腐ってもレノボです。変な仕様には、すべて理由があるんじゃないかと思います。


そんなわけで、プレゼンで自社製品や自社サイトをデモする営業な人にはいいデバイスなんじゃないかと思いました。