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ローマ法王でブランディングに成功した「お米」
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「ローマ法王が召し上がったお米を食べてみたい!」
能登半島の山合い。冬場は2メートルの雪が積もる豪雪地帯。その豊富な雪どけ水の清流で作られたお米。その名は「神子原米」。有名デパートでの取り扱い分も既に売り切れ。生産地へ問い合わせたものの、平成25年度産米は完売。
なんでもこのお米、日経BP社の平成8年11月発行の「全国の美味しいお米ベスト10」という記事で3位に選ばれていたり、お料理の専門家からもとても評価されているお米だそうです。
そんな高い評価を受けているのですが、実はこのお米、もしかしたら食べることが出来なくなっていたかもしれないのです。それは、過疎が進んだ上に、作り手が高齢化していたから。平成14年には地域の存続が危ぶまれる「限界集落」といわれた地域で作られているものだからです。
その集落の立て直しを命じられ、過疎化した村を再生したのが公務員の高野誠鮮(たかの じょうせん)氏。高野氏の著書を読んだことから、私は、神子原米や限界集落について知ったのでした。
書籍には、高野氏が地域を立て直すために取り組んだ具体的な過程が描かれており、この本1冊に、ビジネスを再生させるためのアイデアが凝縮しています。特に、技術力に優れた製品を持ちながらも、うまくアピールができていない会社のアピールの着眼点や、伝統工芸や文化など後継者問題に悩んでいる方には、おススメできる本です。
書籍を読み、あまりにも面白かったので、百聞は一見にしかず。行ってみることにしました。
神子原は、能登半島のちょうど真ん中。石川県羽咋市の東部、富山県氷見市のお隣の村です。羽咋市のホームページから、地図を借りてきました。羽咋の位置をご覧ください。(能登半島をデフォルメしすぎな感はありますが)
農家の平均年収87万円という現実
書籍では、農家の人が、家業を継がせられず、結果として若い人たちが村から出ていく理由の1つに、平均所得の低さをあげていました。なんと、平成17年のこの地域の農家の平均所得は87万円だったそうです。この収入では生活が出来ませんよね。
そして、所得が低くならざるを得ない最大の理由は、「農作物の作り手が自分で商品に値段がつけられないことである」と書かれていました。その状況を変えなければならないと。その状況を変えるために、高野氏は、生産・管理・流通のシステムを作る必要があると考え、農家の人たちにその必要性を訴えたそうです。管理・流通のシステムとは、すなわち、自分たちで運営する「直売所」を意味していました。
当時既に、道の駅や村の駅は人気がありました。しかし、金沢から1時間ほどかかる山間部の小さな地域です。人が来るでしょうか?農家の人たちは「無理だ」とずっと反対していたそうです。
しかし高野氏は、地域を再生させるためには、地域の人たちが自立できるようにすることが必要で、そのためにも、収入を上げることが必須。収入を上げるためには「直売しかない」と訴え続けたそうです。その話し合いは数年がかりで進み、最後の1年は話し合いを45回も繰り返し、皆さんが「やってみるか」という気持ちになるまで続いたそうです。
1俵の値段が1万3千円⇒4万2千円になった理由
「できない」と言う農家の人を説得するために、高野氏は、役所で販売実績を作ることにしました。販売するためには、商品の付加価値を高める必要がある。付加価値を高めるために出来ることはないか。そこで思いついたのが「○○さんに食べていただいたいた」という話題づくりです。
当初は、天皇陛下へ献上しようとされていましたが、難しいことがわかり、次に考えたのが神子原を英訳して「the highlands where the son of God dwells」=神の子。神の子→イエス・キリスト→キリスト教で最高に影響力がある人→ローマ法王という発想から、「ローマ法王にお米を食べていただこう!」となり、1通の手紙を書くことからスタートします。それが実績につながります。
ちなみに、ローマ法王に献上されたものは、すべて記録されているそうです。その中で、日本で最初に献上した人。それは、織田信長だそうです。献上品は「BYOBO」=屏風絵で、狩野永徳が描いた「安土城の図」ではないかとのこと。この記録に名を連ねるのは、すごいですね。
このような取り組みが、「神子原米」のブランド化の足がかりとなりました。
予算がなくてもできることー「発想」と「行動」
高野さんは、このブランド化以外にも色んなことに取り組みますが、びっくりするほど少予算で取り組んでいます。かわりに、取り組む上で大事にされたことがありました。それは「発想」と「行動」です。その発想のポイントとしては、一見「マイナス」と思えることを「プラス」にして考えること。例えば、「携帯がつながらない」=「誰にも邪魔されずにじっくりモノを考えられる場所」といった風にです。
また、「可能性の無視は最大の悪策である」という信念です。
このような考え方が、物事を推し進める原動力になったのでした。
さて、次々と取り組みを進めていった結果、少しずつ地域に人が集まるようになりました。そのような積み重ねがあって、ようやく農家の人たちも「やってみよう」ということになって出来たのが「神子の里」(平成19年7月オープン)。
プレハブの小さなお店です。
これが、地域の自立を目指すための「直売所」となるのです。
「神子の里」を訪ねる
写真が「神子の里」です。オープンして数年経っていますが、手入れが行き届いていて、とてもきれいです。夫婦?のタヌキが出迎えてくれました。
私が行った日は、若い男性店員さんが、店頭で売っていた「竹の子」を、店内の一番目につく場所に移動させていました。「どうしたら売れるか」を一生懸命考えていたようです。
また、レジの女性店員2名は、きれいな声で「いらっしゃいませ!」と言ってくださり、それがとてもフレッシュな感じで、オープンしたてなのか?と思えるほどでした。
奇跡の出会い?「おにぎり」ゲット!!
嬉しかったのは、「神子原米」のおにぎりを手に入れられたこと!この写真、わかりづらくて申し訳ありません。あまりにもお腹がすいた時に撮ったので、写真を確認する余裕もありませんでした。塩、梅、昆布のおにぎりです。もちもちとしていて、かつ瑞々しい。看板に偽りなし!炊き立てのご飯だったら、どんなに美味しいのでしょう?
このおにぎりだけで、神子原まで行った甲斐がありました。
野菜も購入。ラディッシュは、1つ1つは不揃いですが、葉にとげとげを感じるほどの元気のよさ。
ほうれん草と小松菜。水洗い前ですがこんなにきれいです。シャキッシャキッでした。ほうれん草は生でいただいても美味しかったです。
「大豆!!」という感じのお豆腐。手造り茶碗豆腐という商品名で、楕円形です。味がしっかりしています。
実際に神子原に行って感じたことがありました。それは「生命力」でした。
直売所で働く人、農作物を作る人、その一人ひとりが一生懸命取り組んでいらっしゃるからか、商品に「生命力」を感じたのです。
「ローマ法王の」という実績から、話題づくりのうまさの方に目がいきますが、商品からは、それ以上のものが感じられました。
最初の動機は「ローマ法王の召し上がったお米を食べてみたい!」というかなりミーハーなものでしたが、現地を訪れて色々なヒントを得ることができました。
また、日本には「神子原」のように、素晴らしい価値を持ちながらも、価値に合った対価が得られずに衰退する産業や地域が想像以上に多いことに気づきました。
今後は、こうした産業や地域のお手伝いなども視野に入れ、自分に出来ることをしていきたいと思ったのでした。
【参考情報】
書籍:ローマ法王に米を食べさせた男 高野誠鮮 著 講談社刊
http://bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2175916
神子の里:http://mikohara.com/
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