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1日で"辞めたい"と思う理由
当ブログ「ひといくNow! -人材育成の今とこれから-」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/harada6stars/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
新入社員育成をリアルにイメージしていくために、今日、明日と、お恥ずかしながら私の19歳。アルバイト時代のお話をご紹介します。このケースを取り上げる理由は、立地、顧客単価、規模で似たようなサービスを提供している企業でも、組織や教育の仕方によって、定着率や自主性に違いが出ることに気付いたからです。
サービス業のケースですが、他の業種でもご理解いただきやすいよう、後半に解説を入れます。それでは、19歳になった気分でお読み下さい。
憧れのファミレス
19歳の私は、時給が良く、すぐに出来そうなアルバイト(それ以前にも飲食店でのバイト経験があったことから)として、飲食店でのウェイトレスの募集を探し、自分の住む地域でアルバイト募集の張り紙をチェックしていました。いくつか見つけた募集案内から、時給も良く、大手であることから、安心感もある某ファミレスの募集に応募することにしました。
そのファミレスは、小さな頃からよく連れて行ってもらっており、特にハンバーガーセットがお気に入りでした。面接をして下さった店長はとても優しそうで、「それでは明日から来て下さい」と電話で返事をもらった時は、自分の好きなお店でアルバイト出来ることが嬉しくて、ワクワクしました。
そして初バイトの日。そこの制服はなかなかカワイク、男性受けも良いことで評判。その制服を着て、髪をまとめ、鏡の前に立つと、"イイかも!"と自己満足。人に言われなくても笑顔に。
その日は、"まずは慣れること"という目標を与えられた後で、お店の仕事を理解するためのビデオを見るように指示されました。ビデオは休憩室に置かれており、そこで一人で見ていると、女性の先輩社員が一人やってきました。
たばこを吸いながらその人は、私に話しかけてきます。
先輩:ねぇ、あなたよね。今日から入った子。よろしくね。あなたは、いつまでもつかしらね~。私がいじめるから...といって、前の子はすぐ辞めちゃったのよ。なんか、私が悪者みたいで、感じ悪いと思わない?
私:はぁ・・・
先輩:まぁ、あなたがいつまでもつか、楽しみにしてるわ
私:はぁ・・・
その後、その女性の先輩は立ち去り、私はまたビデオ鑑賞。しかし、"何だか嫌だな・・・"という感情にとらわれ、ビデオを上の空で見ることに。そして、ビデオを見終えると・・・
店長:じゃ、さっきビデオで見てもらった通りだから。今日はまずはバッシングだけやってて
私:バッシング?
店長:さっきビデオで見ただろ?お客様が帰った後、テーブルに残った物を下げることだよ
私:(なんか、面接の時のの優しそうな店長のイメージと違うな)はい
店長:じゃ、後は皆に聞きながらやって
私:はい
初めてのフロアー
店長に指示を受けフロアーに出ると、夕食時の忙しい時間帯でした。お客様のお帰りになったテーブルには、食器類が散乱しています。それを片付けに行くと、「注文!」という声がかかります。まだ注文が取れないので、先輩社員(休憩室で声をかけられた女性の先輩とは別の人)を呼びに行くと、先輩社員も自分のことで忙しく余裕がありません。しかし、それにひるんでいては仕事にならないので「注文だそうです」と伝えると、「わかってるわよ」の一言。
お客様には、お待ちいただく旨をお伝えし、バッシングをし、バックヤードに戻ると、どこに何をどう片づけて良いのかわからない。見よう見まねで、もたもたやっていると、
「邪魔よ、どいて!」とまた別の人から叱られる。
それからは、"早く帰りたい・・・"ということばかりを考え始め、それ以降、何を、どうしたのか全く覚えていません。そして、帰る時間となり、着替えを済ませ、帰りながら思ったことは、
「・・・もう、明日は行きたくない・・・」ということでした。
そして翌日、「辞めます」という連絡をしたのでした。
組織上の課題を読み解く
さて、お読みいただていかがだったでしょうか?"根性が足りなさすぎ"と思われた方もきっといらっしゃることでしょう。
しかし、20年以上が経ち、あらためて振り返ってみると、この組織には3つの大きな課題があったと推察します。それでは、その推察についてお伝えします。
課題1:組織としての安心感
女性の先輩社員が、"いつまでもつか・・・"といったことを、わざわざ入ったばかりの新人アルバイト社員に伝える。傍から見ると、"その人の性格の問題"と捉えがちですが、こういうことは、その人がいなくなっても、また違う人が同じことを繰り返します。
どういうことなのかというと、マズローの欲求5段階説をご存知でしょうか?人の欲求には階層があることを示した理論です。最下層から、生理的欲求⇒安心・安全の欲求⇒所属と愛の欲求⇒承認の欲求⇒自己実現の欲求というように、人は1つの階層の欲求が満たされるごとに、次の欲求を求め成長していくものだとした説です。
その説では、安心・安全⇔承認の欲求の間で、欲求が満たされないと、不安や緊張を感じるそうです。このようなことをふまえ、この女性の先輩の行動についてあらためて考えてましょう。次のような不安があったとしたら・・・?と仮説を立ててみます。
(1)新しい子が入ってくると、自分が必要とされなくなるのではないかと不安になる⇒収入が減ることや、なくなることへの不安感が増幅する⇒安心・安全の欲求が満たされなくなる
(2)日頃から、自分が皆に受け入れられている気がしない⇒新しい子が入ってくることにより、皆の意識がそちらに向くのでは⇒所属と愛の欲求が満たされなくなる
(3)本当はもっと認めて欲しい⇒新しい子が入ってきて、自分よりも仕事ができ、認められていくのではないかと、漠然とした不安感がある⇒承認の欲求が満たされなくなる
女性の先輩社員が上記のどれに当てはまるか、今となってはわかりません。しかしどの場合であったとしても、新しいアルバイトを採用する前に、今ある職場の不安感に気付き、対応しておかなければ、同じことが繰り返され、人が定着せず、育たない組織となります。
課題2:仕組み任せ
この会社は、ビデオ教育用ツール、マニュアルがしっかり整備されていました。(業界でも先端のツールを備えていました)新しいアルバイトはそれを見れば、大体の仕事の流れ、求められる接客・サービスの水準、接客の仕方のポイントなどが分かるように作成されていました。
しかし、それは現場の教育を補完するためのものであり、それだけで教えるものではありません。教材を活用した後で、その現場ごとのお店の作りや、一緒に働くメンバー、いらっしゃるお客様に合わせて、説明やトレーニングを補足する必要があります。
その点が理解されないと、ツールが活かされないだけでなく、人も期待通りには育たなくなります。
課題3:店長
課題1、2の原因の元となるものは、店長だと言えるでしょう。採用時と採用後で大きく印象が変わったことや、仕事の教え方、他のスタッフの問題行動の放置など、たった1日の中でも、いくつかの課題が散見されています。
仮に、辞めなかったとすると・・・
もし、1日で辞めなかったとしても、委縮してミスを連発し、叱られ、自信を失くしていったことでしょう。そして、続けていくことができ、ベテランになっていたら、その女性の先輩と同じようなコミュニケーションを"当たり前"と思いこみ、入る人、入る人に不快な思いをさせる人になっていたかもしれません。
組織におけるチェックポイント
組織の定着率が悪かったり、自主性がないと感じる時は、上記のような課題が発生していないか、チェックする必要があります。組織の側から見ると、"新入社員の堪え性のなさ"を問題視したくなりますが、新入社員というのは、無意識に本能的なレベルで、色々な判断をしているものです。
組織を"理想の状態"に近づけていくためには、自分の組織を厳しい目で見ることが大切です。違和感を感じることもあるかもしれませんが、今一度、似たような現象が起きていないか、チェックに役立てて下さい。