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骨太のビジネス力を身につけさせるために、必要な工夫

骨太のビジネス力を身につけさせるために、必要な工夫

原田 由美子

HRD(人材育成)サービスを提供するコンサルティング会社の代表です。

当ブログ「ひといくNow! -人材育成の今とこれから-」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/harada6stars/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


「言ったことは確実にやってくれるんだけど・・・」40代以上のリーダーや、人材育成担当者から聞こえてくるのは、そんなため息交じりの声です。

「わからないことは、親切に説明すべし」というリクエスト

ある日私が担当する日刊工業新聞社のビジネスリーダーズアカデミー"部下育成講座"のワークショップ型研修のアンケートに、30代半ばぐらいのご参加者から、「一部言葉の意味がわからず、理解できない点があった。用語集を作ってはどうでしょうか?」というご意見をいただきました。

日頃からできるだけわかりやすい表現を心がけているのと、過去に「言葉の意味が分からなかった」というご意見をいただいたことはなかったので、私としては「いったいどこがわかりにくかったんだろう・・・???」と、少しショックを受けました。

頭の中で講義内容を振り返っても、思い当たることがなく、どこを改善すればよいのか見当もつきません。落ち込みつつ、ぼーっとしていると、思い浮かんだのは「ストローク」という言葉でした。

「ストローク」とは、一般的には、水泳での"ひとかき"、テニスやゴルフの"打つ"ことを指しますが、コミュニケーションに関する場面では、心理学用語で「その人の価値や存在を認める働きかけ」のことを指します。

そのように考えてみると、「フィードバック」、「マトリクス」、「アイコンタクト」、「有意味感」など、資料や前後の脈略から推測できる言葉については、細かな説明をせずに用語を使っていました。

"そうか・・・、こういう言葉にも細かな解説が必要なのか・・・"と、考えていたところにふと感じたことは、"ひょっとして同じようなことが職場で起こっているのでは?"ということでした。

分からないことに対する立場による考え方の違い

どういうことなのかというと、リーダーがメンバーにとって理解できないことを言えば、(1)スルーされる(2)言われてないからできない(3)先に言っておくべき・・・ということになるの?と感じたのです。

今回の私のケースで言えば、私が彼らに期待するアクションとしては、(1)わからなかったら、その場で聞いてほしい(2)前後の文脈から読み取ってほしい(3)自分で調べてみてほしい・・・ということです。

ワークショップの場合は、私はファシリテーターという立場なので、しっかりお伝えできるように最善を尽くす必要があります。いただいたご意見を真摯に受けとめ、用語集まではいかなくても、対応をしなければなりません。しかし、これが仮に職場であったらどうでしょう。たぶん私はこう言うと思います。「自分で調べてみて」と。

今の40代が、20代だった頃の指導とは

40代以上の、リーダーや人材育成担当の方とお話をしていると、共通した経験談で盛り上がることがあります。それは、上司や先輩に「これってどういうことなんっすか?」と、安易に聞こうものなら、「自分で調べろよ」と冷たく突き放され、教えてもらうことができなかった経験です。

インターネットがない時代、必要なことを調べようと思うと、かなりの時間を要しました。会社にある過去の資料(マニュアルすらない時代の資料、それは膨大です)を確認したり、専門誌を読んだり、教えてくれそうな人を探したり(笑)、それなりの時間と労力をかけて、1つ1つ知識を獲得していく過程がありました。

その過程では、常に自分が知りたいことを意識し、それらしい情報にあたっては砕け、あたっては砕けしていきます。非常に効率の悪いやり方だといえるでしょう。しかし、1つの知識を得ようとする過程で、様々な周辺知識に触れることで知識の幅が広がります。知識の幅が広がると、それ以外のこととの関連性に気づきます。そして、知りたかったことが分かる頃には、その知識に関連するひとまとまりの体系的な知識が自分のものになっているのです。

その過程を一度経ると、次に情報にアクセスするときは、どこにどのようにアクセスすると、得たい知識と同時に周辺知識が得られるのか、その勘所が見えてくるようになり、やればやるほど、効率と効果も十分に得られるようになってきます。

この当たっては砕け・・・のプロセスを、ある人材育成ご担当者様は、「闇勉(やみべん)」と表現していました。就業時間中にはなかなか調べることができず、仕事が終わってから、夜に一人残って勉強していたからです。

余談になりますが、さらに進むと、1つのわからないことをきっかけにしながら、体系的に周辺知識を獲得し、それでもわからないことを、その分野のオーソリティに聞きにいきます。すると、「さすがだね」なんて言ってもらえたうえで、その人があまり一般的には提供しない情報まで開示してもらえ、「何かわからないことがあったら、いつでも聞いてきなさい」といった支援まで得られるといった、調べることでの二次的な効果が生まれることもあります。

冷たい対応は、愛情だったと気づくまで

上司や先輩社員に冷たく突き放され、「自分で調べろよ」と言われたこととの向き合い方が、知識プラスαにつながるなんて・・・。上司や先輩は、そうした効果ももちろんわかって、「自分で調べろよ」と言ってくれていたことに気づくまでに、そんなに長い時間はかかりませんでした。

しかし今、リーダーという立場にいらっしゃる方の中には、上司や先輩に対して、"もっとしっかり教えてくれれば、効率もよく、早く成果がでたのに"と感じている方が多いように思います。そのためか、部下や後輩に教える時に、"わかりやすく教える"ことに注力しているような気がするのです。そうした意識が、何かものを教えてもらう時に、"用語集があったらわかりやすい"といった意見につながっているのでは・・・ということや、「言われたことは確実にやってくれるんだけど・・・(言われないことは、気が付かない)」という、冒頭のリーダーや人材育成担当者の意見に関連があると思っています。

現状肯定では、多くの組織が衰退する

変化が激しく、不測の事態が起きやすい時代環境の中で、「言われたことしかできない」ということでは、変化に対応できずその組織が衰退するのも時間の問題です。そうならないためにも、1つの事象現象から、様々に思考をめぐらせ、類推し対応ができる骨太のビジネス力が今のビジネスパーソンには求められています。

そうした骨太のビジネスパーソンを育成していくためには、まずは、若手を指導する立場の上司や先輩自身が、「自分で調べる」ことの意味や価値を知っていることが必要でしょう。その上で、部下や後輩を育てる時には、「自分で調べる(或いは自分なりに考えられる)」ような指導の仕方を身につけなければなりません。

なぜならば、「自分で調べろよ」という言葉には、突き放され感があり、その不満感がそれから先の行動を阻害するケースが多いのです。そうなると、本当に取ってほしい行動(この場合は「自分で調べる」)につながらず分からないままになる、或いは「上司や先輩の教え方が悪い」という責任転嫁が起こります。その結果、多くの30代の層が「言われたことしかできない」という現象に帰結しているのではないでしょうか?※補足、もちろん30代でも自分で考えて行動できる人はいらっしゃいます。その層が少ないということです。

今後、今の30代、そしてこれからの社会の要になっていく20代を育成していく上では、「自分で調べる」という大事な行動を、楽しんで取ってもらうための工夫が、リーダー層に求められているのかもしれません。 

この「楽しんで調べてもらうための工夫」については、また、明日以降にご紹介します。