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「起こると困ることは考えようとしない」から、「原子力は危険」

「起こると困ることは考えようとしない」から、「原子力は危険」

原田 由美子

HRD(人材育成)サービスを提供するコンサルティング会社の代表です。

当ブログ「ひといくNow! -人材育成の今とこれから-」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/harada6stars/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


今回の原子力発電所の事故調査・検証委員会のトップを務められることになった、東京大学名誉教授 畑村洋太郎氏。私は、畑村名誉教授が理事をされている「失敗学会」の年次大会に2005年から、3年間ほど参加していました。その際に、原子力事故についてのお話を伺っていました。しかし、その時に知識として情報を得ていても、結局のところ自分事として捉えることができて(想像力を働かせることができて)いませんでした。その結果、自分にできることがありながらも、何もしてこなかったことについて自戒しています。そして、今回この時のお話をを振り返ることで、「思考停止が何よりも恐ろしいのではないか」、それについて私たちは何をすべきか、ということについて考えたことをお伝えしたいと思います。

2007年7月16日に起きた新潟県中越沖地震(M6.8 最大深度6強)による、柏崎刈羽原発への影響

東京電力株式会社 プレスリリース

 1.6号機原子炉建屋内非管理区域への放射性物質を含む水の漏えい
      (実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則第19条の17第9号)
 2.1~7号機原子炉建屋オペレーティングフロアにおける溢水
      (実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則第19条の17第10号)
 3.6号機原子炉建屋天井クレーン走行伝動用継手部の破損
      (実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則第19条の17第3号)
 4.3号機所内変圧器(B)における火災
      (電気関係報告規則第3条第1項第3号)

http://www.tepco.co.jp/cc/press/08092503-j.html
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柏崎刈羽原発では、上記のような事故が起きていました。その事故の現場に足を運び、事故の検証をされた畑村名誉教授は、2007年12月17日に開催された 第6回失敗学会年次大会で、「柏崎刈羽原子力発電所に中越沖地震で起こったこと」というテーマの講演の一部で、次のスライドを活用しお話をされていました。

「見学を通じて原子力発電所の地震で学んだこと」というスライドに明記されていたこと

①重要度(耐震設計)の階層性

②隙間で事故が起る

③暗黙知

④技術の来歴:なぜ岩盤の上に?クレーンにブレーキなし

⑤想定って何だ?

⑥セーノ,ドスンが起る

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畑村名誉教授が、この時におっしゃっていたことで、原子力発電などの専門的な知識に疎い私でも、とても強く印象に残ったことが3つありました。それは次の3つです。

1.国の基準ではなく、独自基準が重要

2.注意が集中するところよりも、周辺で事故が起こっている

3.「想定は狂う」そのために必要なのは、社会的な努力

上記3つから言えることは、「一般的に危険だといわれていることには対策をとっているが、それ以外で事故は起こっている」ということです。

要は、"誰もが注意を向けられること以外にも注意を向け、その声にどれだけ耳を傾けることができるか、その検証をしようとする姿勢と努力をしているか"といったことが大事だとおっしゃっているように感じられました。

私はこのお話をお聞きした際に、畑村名誉教授がおっしゃることは、今の組織にとって最も難しいことではないか・・・と考えました。なぜならば、それができるようにするには、新入社員の時代から、次のような考え方と行動を身に付け、組織全体でそれができるようにしておく必要があるからです。

・「規則」「基準」といった枠組みから離れて考える習慣

・上位者、有識者や専門家にも臆せずモノを言うことができるバイタリティと論理性

・自分で考えたこと、思いついたことを実験できる環境

・小さな危険、小さな失敗を積み、"怖さ"というものをリアルに感じられるような経験

このようなことができる環境になければ、畑村名誉教授が言わんとしていることを、組織の中で実現するのは難しいように思うのです。言葉を変えれば、現状は、上記のようなことができる人は、組織の中に入れてもらうことができないか、或いは、組織内ではマイノリティとして扱われ、その人の発言は通りにくいのではないでしょうか。

上述のことから、私たちが仕事をする上で与えられる環境や教育の側面から考えると、原子力のように、自分たちの手でコントロールすることができない物質を扱うことは、危険極まりないのではないかと思います。そのような意味で、私は、原子力発電は日本人に最も向いていないエネルギー資源のように考えています。

「起こると困ることは考えようとしない。(考えないから)それが想定外になる」

ただ、今のエネルギー事情を鑑みた時に、原子力発電をすぐに止めるわけにはいかないでしょう。その時に大事な考え方として、畑村名誉教授は、2011年4月に、産経ニュースの【話の肖像画】で"原発事故考"というインタビューの最後で、次のようにおっしゃっています。「起こると困ることは考えようとしない。(考えないから)それが想定外になる」。

畑村名誉教授がおっしゃる、「想定外」というのは、「考えようとしないだけで、考えようと思えば想定できる範囲にある」のではないでしょうか?私は、この言葉とどう向き合うかが、これからの日本の未来を左右すると思っています。原子力だけでなく、「起こると困ること」全てに共通するかもしれません。

こうしたことに向き合っていくために、私は「専門知識・技術を若手社員に教えるコツ」というセミナーを本ブログでもご活躍中のアイデアクラフト 開米瑞浩氏を講師に迎え、企画しました。それもできるだけ多くの方にご参加いただけるよう、通常のセミナー価格の1/3程度の費用でご協力をいただいています。セミナーの企画背景には、「自分の頭で粘り強く考え、行動し、周囲に良い影響を与えられる人材の育成に貢献したい」という想いがあります。そうした人材を育てるためには、上司や先輩の協力が不可欠です。そのために、セミナーを企画いたしました。

「考える力を持った人材を育成しよう」とお考えの、企業様、部下や後輩の指導にあたられる皆様、是非、セミナーもご活用ください。

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(参考情報)

産経ニュース 【話の肖像画】畑村洋太郎氏 原発事故考(上) 2011年4月20日

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110420/dst11042003420004-n1.htm

産経ニュース 【話の肖像画】畑村洋太郎氏 原発事故考(下) 2011年4月21日

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110421/dst11042103130002-n1.htm