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オリンピックにおけるソーシャルメディア活用から見た、グローバル化2つの課題

オリンピックにおけるソーシャルメディア活用から見た、グローバル化2つの課題

原田 由美子

HRD(人材育成)サービスを提供するコンサルティング会社の代表です。

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近代オリンピックに日本が参加するようになってから、ちょうど100年目となるロンドンオリンピック。時間差から、深夜にかけてのライブ放映が多かったので、寝不足になった方も多いのではないでしょうか?そして今回のオリンピックでは、38個のメダル獲得。293人の選手団の皆様の健闘は素晴らしかったですね。心から敬意を表したいと思います。

さて、今回のオリンピックは、日本にとってはメダル数が過去最多となったことが話題になっていますが、世界的かつ商業的な目で見ると、ソーシャルメディアの活用に注目が集まっていたようですね。

観戦時の利用も多かったようで、オリンピック期間中、深夜のツイート数が増加したことや、競技中の出来事にも反応が見えたことから、ソーシャルメディアが観戦時の重要アイテムになりつつあることがうかがえます。

7月1日-7月25日 7月26日-8月5日 ロンドン五輪前後比
1:00-3:59 3,489,667 4,376,328 125%
4:00-6:59 1,270,860 1,522,563 120%
7:00-9:59 3,974,675 4,039,018 102%
10:00-12:59 4,873,256 5,297,701 109%
13:00-15:59 4,973,454 5,604,872 113%
16:00-18:59 5,713,517 5,943,694 104%
19:00-21:59 8,556,955 8,595,760 100%
22:00-0:59 10,743,969 10,945,031 102%

ビッグローブ「時間帯別ツイート数五輪前後比較」より引用(2012年8月7日発表)記事より引用

スポーツ選手のソーシャルメディア活用の現状

観戦する側にとって欠かせないアイテムとなりつつあるソーシャルメディアですが、選手の多くはその活用に戸惑いを感じているかもしれません。その1つにIOCが用意した全15項目からなるガイドラインがあります。ガイドラインの対象は、選手、および関係者全体です。フェアプレイの精神や大会の主旨を理解していれば、まぁ当たり前の範囲と言えますが、自分がオリンピック以外の期間に契約しているスポンサーのPRも禁じているととれる項目もあります。意識的に活用していないと、「うっかり」ということもありそうです。

そこで、選手たちはソーシャルメディアをどのように捉え、どう活用しているのか、その活用例を調べてみました。

活用派

IOCが用意したThe Olympic Athletes' Hubというサイトがあります。ここでは、ロンドンオリンピックで活躍した選手だけでなく、オリンピック選手として活躍していて、このサイトに登録している選手のメッセージを見ることができます。

さらに面白いのが、選手ごとに応援しているファンの数が表示されていることです。トップはアメリカのバスケットボールのレブロン・ジェームス選手で約1800万人ファンがいます。2番目も同じくアメリカのバスケットボールのコーベ・ブライアン選手、約1400万人。3番目はスイスのテニスのロジャー・フェデラー選手、約1140万人と続きます。
アジアでは、36番目に韓国の女子フィギュアスケートの金妍児(キム・ヨナ)選手。ファン数147万人。

いずれもグローバルで人気のあるトップアスリートで、契約スポンサーがあり、露出慣れしている印象です。しかしそれだけではなく、それぞれのメッセージを見ているととても興味深いです。写真と短い言葉で今の心境を伝える選手、ここで一区切りという気持ちを長めのメッセージで伝える選手。それぞれの個性が伝わってきます。また、そのコメントごとにファンの反応がわかるので、ファンが何を期待しているのかも見て取れます。
そして、IOCの定める「本人がメッセージを伝えること」というガイドがあることが、このメッセージの価値となっているようにも思えます。
また、今季の大会に出場していない選手も近況を伝えているので、日常的な活動もキャッチすることも可能です。

日本の選手で活用しているのは、競泳の北島選手(ファン数 15万3千人)、松田選手、岸田選手、サイクリングの別府選手、片山選手、スケートの河井選手、近代五種の黒須選手の7名です。

非活用派

そもそもソーシャルメディアを活用していない選手は別として、普段活用しているものの、オリンピック期間中に「非活用」の姿勢を示した選手もいました。それは、北京オリンピックで女子競泳で金メダルを2個獲得したイギリス出身のレベッカ・アドリントン選手でした。アドリントン選手は、大会期間中のTwitter配信を「止める」と宣言しました。その理由は、ネガティブな反応にさらされないためです。
選手であれば、自分のコンディションを完璧にするために、競技に集中できる環境にしたいと考えることでしょう。肯定的な反応、否定的な反応、そのどちらも心理的な負担になりえます。そのことから、この対応はとてもよく理解できます。

その他散見されたソーシャルメディア活用上の課題

選手や報道関係者、応援する人のコメントにおけるマナー違反等の問題もあったようですが、私が注目したのは、7月28日の自転車男子ロードレースで、観客のツイートや携帯メールの使用が増え、ネットワーク障害が起こり、テレビ中継が途絶えたり、選手間の距離判定ができない状況があったとのこと。どうしてこのレースだけそのようなことになったのか、詳しい情報がほしいところです。今後、活用する人が更に増えればもっと大きな障害につながることもありえます。オリンピック以外の状況でも似たようなことはあると思うので、具体的な理由などの公開を期待したいところです。

グローバル化における2つの課題

ここまでまとめる過程でオリンピック関連の情報に触れるうちに、日本企業がグローバル化する上での課題となっている点と共通することが2つあると感じました。

1つは、グローバル企業の人材発掘とその活用のうまさです。今回のロンドン五輪のスポンサーの1つでもあるP&Gは、アメリカの体操選手で女子個人総合で金メダルを獲得したガブリエル・ダグラス選手と五輪前に契約を交わしていました。そして、五輪代表に選ばれた数日後に、花やケーキと共に自社製品をお祝いとしてプレゼントしているそうです。ダグラス選手はそのことをツイッターでしっかりアピールしています。また、このことは五輪開始「後」にニュース記事となっています。
当時のフォロアーは、2万9千人。オリンピック後のフォロアーは66万人(2012年8月14日現在。ダグラス選手の公式サイトより)。約20倍になっています。今後、この選手の動向と発信するメッセージが大きな影響力を持つことは間違いないでしょう。
このことから言えることは、世界各国でマーケットを形成する企業は、スポーツ選手の価値をしっかり認識していることです。また、その活用も極めて戦略的です。これは、スポーツ選手の価値を見極め活用する側面だけでなく、もしかしたら他の面でも同様のことが言えるかもしれません。
オリンピックを商業目的で活用することについては、様々な見方ができますが、日本企業が日本以外の国でその国の人達に喜ばれる活動をしていくためには、必要な視点だと思います。

そして2つ目は、言葉の壁です。今回はオリンピック選手のツイッター活用を取り上げましたが、日本選手は、他国の選手に比べてフォロアーがずいぶん少ないと感じました。その活躍から言っても、もっと多くてもいいような気がします。アピールが下手と言ってしまえばそれまでですが、根本的な問題に、言葉の壁があると思います。

言葉の壁があるアジア圏の選手では、韓国の金妍児(キム・ヨナ)選手は、ハングルと英語の併記で情報発信しています。

自分の得意な競技を通じ、国境を越えて感動を与えられる立場とその役割。それが、スポーツ選手の素晴らしさであるとすると、日本選手をサポートする組織の人達にも、海外にもファンがいるという前提で、選手の活動をサポートしてほしいと思います。そのような意識で取り組むことで、選手は世界中の人に喜んでもらえる存在になり、それをサポートする側も、より高い価値が提供できるようになる。そう思うのです。


(参考)
IOCのガイドライン:http://www.olympic.org/Documents/Games_London_2012/IOC_Social_Media_Blogging_and_Internet_Guidelines-London.pdf

Wired:オリンピック選手がTwitterを中止する理由http://wired.jp/2012/06/05/athletes-quit-twitter/

Wired:選手個人がメディアになれるSNS。五輪で混乱も(2012年8月1日記事)http://wired.jp/2012/08/01/ioc-social-media/

ファイナンシャルタイムス(goo):ロンドン五輪でソーシャルメディアが存在感示す(2012年8月2日記事)http://news.goo.ne.jp/article/ft/business/ft-20120802-01.html

CNN:五輪ツイート多過ぎで障害、「緊急時限定」の呼びかけもhttp://www.cnn.co.jp/tech/35019822.html

 

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