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「個人保証制度見直し 中小企業はどうなっていくのか?」~政府の狙いはなにか?~
世の中の動きの個人資産への影響を考えてみる
「個人保証制度見直し 中小企業はどうなっていくのか?」~政府の狙いはなにか?~
ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。
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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。
今回は「個人保証の見直し」についてです。
中小企業経営者の方には気になる方針が打ち出されています。
■個人保証制度を大きく見直し
会社が倒産してしまったので社長が住んでいた豪邸が差し押さえられて、社長家族はアパートへ引っ越し・・・・なんていうシーンがよくドラマなどでありますね。
そういうシーンは、今後は無くなっていくかもしれません。
<個人保証見直し、私財一部手元に 全銀協など指針発表>
(2013年12月6日付 日本経済新聞)
『全国銀行協会や日本商工会議所が主催する研究会は5日、経営者自らが融資の保証人になる「経営者保証制度」を見直す指針を発表した。業績が悪化した場合でも、中小企業の経営者の手元に当面の生活費や自宅などの財産を残すことを認める。契約済みの個人保証も含め、来年2月から適用する。』
中小企業では、通常、銀行などから融資を受ける際には経営者が連帯保証人になります。中小企業庁によると中小企業の約86%の経営者が銀行融資の保証人になっています。
金融機関にとっては会社の資産だけでなく、経営者の個人資産もあわせて担保に取ることで信用力を補って融資をしやすくしています。
しかし、経営者にとっては倒産の際には貯蓄も自宅もすべてを失ってしまうリスクが高くなります。そうなると会社の事業再生どころか個人としての生活再建もとても大変になります。一度失敗すると再チャレンジはかなり難しくなります。
ハーバードを出てすぐに起業する卒業生が少なくないのに対して、東大を出て起業する学生がほとんどいないのは、経営者に対するリスクの取らせ方が日米で大きく違うからという指摘もあります。
その現状を改めるために、今後は経営者の個人保証に制限をかけることになります。
倒産した場合でも、経営者の当面の生活費(99万~460万円程度)や自宅は残すことが認められるようになります。「経営者は倒産によってすべてを失う」ということを防ぐわけですね。
■個人保証制度見直し、政府の狙いは?
今回の「個人保証制度の見直し」は、一度の会社の倒産で経営者が全財産を失うという現在の状況を改めよう、そして再チャンレンジできるようにしようという動きです。
この「個人保証制度の見直し」は、安倍内閣が今年の6月に閣議決定した成長戦略である「日本産業再興プラン」の6つの柱の6番目、「中小企業・小規模事業者の革新」の中で示されていました。
そこにはこうあります。
「日本産業再興プラン」
『6.中小企業・小規模事業者の革新
中小企業・小規模事業者が地域経済を再生し、我が国の国際競争力を底上げ。
<具体策>
・個人保証制度の見直し、国際展開する中小企業の支援などを実施します。
<主な成果目標>
・開業率・廃業率10%台(現状4.5%)を目指す。
・2020年までに黒字中小企業・小規模事業者を70万社から140万社に増やす。
・今後5年間で新たに1万社の海外展開を実現する。』
(首相官邸HPより)
つまり、今回の「個人保証の見直し」の目的は「中小企業の再生と競争力強化のため」であり、その成果目標は「海外でも勝負できるような黒字の企業を倍に増やす。そのために開業率と廃業率のペースも倍くらい増やす。」
・・・ということが書いてあります。
■「私的整理」も見直してより廃業しやすく
「個人保証制度を見直す」という具体策の成果目標が「開業率・廃業率10%台」になっています。
再チャレンジしやすくしたり、若者たちが起業しやすくしたりすることで「開業率を高める」という目標を設定するのはわかりますが、「廃業率を高める」という目標はどういうことなんでしょう?
政府としてはもう経営力がなく、時代遅れになっているような赤字企業はもう退場してください、と言いたいのかもしれません。
実際に今回の個人保証制度見直しの運用が始まったら事業の継続をあきらめて廃業する企業が増え、廃業率は上がると思います。
なぜなら、金融機関サイドが個人保証を制限した融資を実現するために、企業に対して結構厳しい経営条件を求めているからです。
「財務基盤を強化してください」「返済能力を向上させてください」「個人と法人の区分を明確にしてください」「適時開示など経営の透明性を高めてください」などなど、中小企業にとっては実現するにはハードルが高いことが求められています。
(全銀協HP「経営者保証に関するガイドライン」より)
要するに「個人保証がないんだからちゃんとしてね」ということです。「経営者の個人保証がなくても問題がないくらいの返済能力がある、ちゃんとした企業になってください。ちゃんとした企業でないとこれからは融資が受けられなくなりますよ。」というわけです。
現実には中小企業の7割強は赤字経営なんです。
そんな企業に対してはどうなるんでしょうか?
「貸し渋り」など起きないでしょうか?
そうなったらもう経営の継続を断念せざるを得ない中小企業が増えるのではないでしょうか?
そんな経営の継続が厳しい会社のために、廃業・整理もしやすくします。
<金融機関、中小企業の債権放棄しやすく 私的整理時に無税償却>
(2013年12月5日付 日本経済新聞)
『政府は年度内に発効する新しい中小企業経営者の私的整理指針に沿って金融機関が債権放棄した場合、無税償却を認める。新指針は中小企業の転廃業を促すため、早期に再建や清算に取り組む中小企業の経営者に私財を一部残すことを認める。回収できる資産を残した状態でも金融機関が債権放棄に応じやすくする。』
これまで金融機関は、会社や経営者に資産が残っているのに回収せずに債権放棄をするとその分は寄付金とみなされて課税される恐れがありましたので会社整理に応じにくくなっていました。法的に破産しないと銀行は無税で償却できなかったから、経営者が「もう経営やめたい」と思っても、財産が残っていると会社をたたむのが難しかったんですね。
それが今後は、銀行の方から「もう債権放棄しますから会社を畳んだらいかがでしょうか」と言いやすくなるわけです。これなら会社整理、廃業は今後増えるでしょうね。
ただ、開業率は保証人制度を見直すだけでは高まらないと思います。
これから開業するのに、すぐさま金融機関が保証人なしで融資をしてくれるような健全経営を実現することなど無理だからです。「開業資金」は普通の銀行からは今でも借りにくいのですが、今後ますます借りにくくなるでしょう。開業率向上のためには政府系金融機関などによる「開業資金」の制度融資をより一層充実させていくことが必要になるでしょうね。
■企業は人なり
保証人制度の見直しは、中小企業の新陳代謝を促進するとともに、企業への融資判断を本来の経営力にフォーカスするという、「あるべき姿」に持って行こうという官民上げての意思の表れのように思います。
ただ、銀行が融資の際に経営者の個人保証を取るのは「腹を括ってもらう」という意味もあります。「会社の経営を自分の生活をかけてでもやり抜く」という意思のある人にしか銀行としては貸したくないのです。
中小企業融資の本質は、「社長の人物を判断して貸すこと」とよく言われます。
保証人制度が有名無実なものになったとしてもこの基本は変わらないでしょう。
「企業は人なり」ですから。
今回は以上です。
もっと日本が良くなりますように。
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