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「減反廃止!これで農家は強くなるか?これで国民負担は軽減されるか?」

「減反廃止!これで農家は強くなるか?これで国民負担は軽減されるか?」

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。

今日はコメをめぐる農業政策の話です。

減反が廃止になるそうです。これって本当でしょうか?


「これはいいんじゃないか!」と思いませんでしたか?

↓↓↓

<減反5年後廃止を明記 政府方針、競争力強化へ転換>

(2013年11月6日付 日本経済新聞)

『政府はコメの生産量を絞って価格を高止まりさせる生産調整(減反)の仕組みをやめる方針を固め、6日、自民党農林部会などに提示する。焦点となっていた廃止時期は5年後とする。環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉の妥結をにらみ、国内産のコメの価格競争力をつける狙いだ。』

 

「減反」とはコメの生産調整のことですね。

コメはすでに自給率100%です。これ以上コメを作ると供給過剰になって、コメの価格が下落します。米価が安くなるとコメ農家が赤字になってしまいます。そうなるとコメ作りの意欲がなくなって、耕作放棄地も増えてしまうかもしれません。

だから田んぼを持っていてもコメを作らない農家には補助金を与えましょう、という政策ですね。

これが「廃止の方向」に向かうことになったようです。



■批判が強かった減反政策 廃止を歓迎する声は多いものの・・・

元々、「国民の食と国土を守る」という大義名分で始まったこの減反政策は、もはや農家の発展にも国民生活の向上にも、何の役にも立っていないという批判が強くなってきていました。

まず、国民負担が大きいことが上げられます。

補助金はもちろん税金から出ています。さらに農家保護のために価格が高く維持されたコメを買わなければいけません。

生産余剰のコメも政府が買い取っていますが、これも税金ですね。

このように国民は、「農家保護のための税金負担」と、「高いコメを買わねばならない」という二重の負担をしているという批判です。

農家にとっても、補助金漬けは競争力を失なわせてしまうのではないか、といった批判があります。

このような批判が減反政策見直しの機運を高めていたわけですね。

 

日本経済新聞は今回の見直しを、『政府は、コメ農家を手厚く保護してきた農業政策を抜本的に見直す検討に入った。』と歓迎しています。

 

橋下徹大阪市長も評価をしています。

<減反廃止「安倍政権にやられた!」 維新・橋下氏が評価>

(2013年11月7日付 朝日新聞)

『日本維新の会の橋下徹共同代表(大阪市長)は7日、コメの減反制度を2018年度に廃止する安倍政権の方針について「安倍政権にやられちゃったなっていう感じだ。これで確実に日本の農業は変わっていくと思う」と評価した。』

 

減反廃止になれば、コメの価格は下がるでしょうし、税金負担も少なくなるのではないか。

農家も競争が厳しくなるので淘汰が進むのではないか。そうなると、意欲のない農家が減り、残った意欲のある農家は大規模化して、生産力や品質を高めていくのではないか。

これでTPPに向けて日本の農業も強くなって、農政も前進するのではないか、

・・・・といった期待が膨らみましたよね。

橋下市長のように「これで日本の農業は変わっていく!」と思いましたよね。

それで私もこのニュースを追っかけていたのですが、よくよく調べてみるとどうもそんなトーンではないようです。



■農家サイドの受け止め方は?

減反政策廃止となると、農水省やJA、農家の皆さんなどは一斉に反対するのではないかと思っていましたが、今回は驚くほど静かです。目立った反対もないようです。

世紀の大改革のはずなのに、既得権益を持っている側からの抵抗がほとんどないのはなぜなんでしょう?

 

JAの機関誌である日本農業新聞はこんな論調で書いています。

<米政策見直し 需給均衡の仕組みが鍵>

(2013年11月8日 日本農業新聞)

『生産調整廃止の報道が目立つが、自民党が了承した見直し方向は多くの前提条件を付けた。新たな各種施策が着実に実践され、民間主導で需給均衡できるような状況にならない限り、国による生産数量目標の配分を止めることはしないと読み取ることができる。6日の自民党の議論で江藤拓農林水産副大臣も「農家が自主的に(飼料用米などに)作付けの変更をし、所得を上げなければ、国としての関与を完全にやめることは難しい」と表明している。』

 

わかりますでしょうか。

要するに、「生産調整廃止には前提条件がある」。

それは、「新たな各種施策がうまくいって、国の補助がなくても需要と供給が均衡すること」。

「需要と供給が均衡する」とはつまり米価が下がらないこと。

そして「農家の所得が上がらなければ、国の関与(つまり補助)はやめない」ということです。

 

減反政策が実質廃止になっても、米価は下がらないし、農家の所得は下がらない、そういう「新たな各種政策」を政府は講じると農水副大臣も言っているわけです。

そういうことなら農家サイドは何も騒ぐ必要はありませんよね。



減反廃止は名ばかり?農家の現場も国民負担も何も変わらないかも

今回廃止が発表されたのは、もともと民主党政権時代に導入された「戸別所得補償」(現在は、「直接支払交付金」という名前になっているもの)です。

これは減反に協力している農家に補助金を出している制度なので、この「直接支払交付金」の廃止をもって「減反廃止!」となったわけです。

しかし、今回発表されたのは、この「直接支払交付金の段階的廃止」だけではありません。

逆に補助金を増やす政策もふたつ発表されました。

これらが日本農業新聞のいうところの「新たな各種政策」っていうものです。

 

その結果こうなります。

↓↓↓

<減反見直し決定へ 自民部会が了承、補助金を半減>

(2013年11月26日付 日本経済新聞)

『自民党は25日夜の農水関係合同部会で、コメの生産調整(減反)見直しを柱とした農政改革案を了承した。減反に応じる農家に10アールあたり年1万5000円を支給している補助金を来年度から7500円に半減し、減反を廃止する5年後まで支給する。浮いた財源を転作農家に配る補助金の拡充などに振り向け、農家の競争力向上につなげる。(中略)

減反の補助金削減で生まれる財源は大きくわけて2つに振り向ける。飼料用米などの生産に転作した農家に配る転作補助金は、現在の10アールあたり8万円の支給額を上限10万5000円に増やす。農水省の案から5000円増額した。

もう1つは農地を維持する活動を支援するため新設する「日本型直接支払い」と呼ぶ補助金で、用水路などの管理を支援する制度と、農村の環境改善を支援する制度で構成する。田畑の場合に10アールあたり480~3000円支給。当初案は460~2700円だったが、出席者から増額要求が出たのを踏まえ増やした。

農水省は新たな制度のもとで農家の所得が見直し前と比べて全国平均で約13%増えるとの試算も示した。』

 

はい。今の補助金は廃止しますが、代わりに新しい補助金が生まれます。

ひとつは、「飼料用米への転作奨励金の拡充」。

もうひとつが「農地や水路、農道など多面的機能を維持するために必要な活動を支援する『日本型直接支払制度』という新しい補助金の創設」です。

この結果、農家の所得は増えるそうです。

 

こうなりますと、補助金がもらえるので主食米より、飼料米を作る方にさらにコメ農家の皆さんが向かう可能性が高いですね。

そうなると、主食米の供給は今よりさらに減ることになるでしょう。

供給が減るとすると、主食米の価格は今より下がることはありませんね。

 

そして農産業に対する国民の税負担は相変わらず変わりません。

むしろ、補助金が拡充されて、農家の所得は増える見通しらしいですから、税負担は増えるかもしれませんね。

つまり、実質的な生産調整が補助金によって行われるわけです。

これって今の減反政策と何が違うのでしょうか。

これなら農家の皆さんは怒らないですよね。


■日本の農業の本質的な課題は?

もっと言うと、こうして補助金漬けで作った飼料米って畜産農家から見て、はたしてニーズがあるのでしょうか?

現在、家畜の飼料として使われている輸入トウモロコシに比べて、国産飼料米は品質、栄養、価格の各面において競争力があるのでしょうか?

転作に取り組む農家の皆さんは、飼料米の生産性を上げて収穫量を増やして価格競争力を高めるとか品質や栄養価を高めるとか、真剣に取り組んでくれるんでしょうか?

 

普通は、売れなくてもお金がもらえるなら無理して品質改良や生産性の向上などの努力はしないものです。

「減反廃止!」という新聞の見出しを見た時には「おっ!ついに!」と思いましたが、どうやら「農家保護のための減反によって国民負担が生じている」という構図は変わらないようです。

農家が当たり前の経営努力がなされない環境におかれているという日本の農家の本質的な課題は、残念ながら今回も解決の方向に向かうことはないようです。

 

今回は以上です。

もっと日本が良くなりますように。



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