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『GDP年6.8%減 消費増税はどうなる?』~デフレギャップの解消をどうみたらいいのか?~

『GDP年6.8%減 消費増税はどうなる?』~デフレギャップの解消をどうみたらいいのか?~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。

お盆にGDPの速報が発表されました。

さて、2015年10月に予定されている消費税10%増税はどうなるのでしょうね。



■GDP年6.8%減、消費増税はどうなる?

去る8月13日に、注目されていた2014年度 4月~6月のGDP(国内総生産)の発表がありました。大幅な減少が確認されたことで消費税10%への増税の見直し論議も出てきましたね。

 

<GDP年6.8%減 反動減対策、政府に誤算 「消費税10%」判断難しく>

(産経新聞 8月14日付)

『4~6月期のGDPが東日本大震災以来の下げ幅となったのは消費税増税前の駆け込み需要の反動減で、個人消費が過去最大の落ち込みとなったためだ。安倍晋三首相は7~9月期の景気動向を基に消費税率を予定通り来年10月に10%へ引き上げるかを決めるが、景気回復の先行きを見定めるのは難しそうだ。』

 

安倍政権は今年(2014年)の4月に消費税を8%に引き上げて、その次に来年(2015年)の10月から10%にすることを予定しています。ただその条件として、「景気の力強い回復が確認されること」というのがあります。不景気の時の増税は景気をさらに悪化させてしまう恐れがあるからですね。

その景気回復状況を測る上での代表的な指標であるGDP成長率ですが、1月~3月は消費増税前の駆け込みもあって、年率換算6.7%と大幅に増加しました。4月~6月はその反動で消費が落ち込むので悪い数字が出るだろうとは予想されていました。

注目されていたのは、「その落ち込みはどれくらいになるのか?」というところでした。

増税前と増税後の山と谷を考えると、1月から6月までを合算して「マイナスにならないライン」というのがひとつの目安、つまり1月~3月が6.7%増でしたから、4月~6月は6.7%減というのが評価の分かれ目だったわけですね。

「5%以下の減」であれば、「景気の谷は浅かった。景気は回復している」という判断になり、10%増税がほぼ決定的になったでしょうし、「8%以上の減」となったら、「景気の谷は想定以上に深かった。景気は回復していない」となって消費税10%増税の見送りムードが強まったかもしれません。

それが結果は、「6.8%減」。

1月~6月までトータルでほぼゼロ成長という結果になったわけです。

なんとも判断が難しい微妙なラインになりましたね。



■政府の認識は「強気」

さて、この結果を受けて今後の経済政策、そして消費増税判断はどうなっていくでしょうか?

甘利経済財政大臣は強気です。

「消費税判断は今後7~9月の状況を含め、できる限り経済指標、雇用統計などの資料を揃え、最終的に首相が判断する。」とした上で、「月次指標をみても景気は緩やかな回復基調が続いており、これまで政府が示してきた景気認識に変わりはない。具体的な数字は断定できないが、先行きには明るいイメージを持っている。」との認識を示しました。

これだけ強気になれるのは、「最近の経済指標が良くなっている」ということがあるでしょうね。

確かに最近の報道を見ていると、日本企業の業績は良くなっているし、賃上げも進んでいるようです。リーマン直後は5%を超えていた失業率も約3.5%まで下がり、ほぼ完全雇用レベルに近付きつつあります。

物価についても5月の消費者物価指数は前年比3.4%の上昇で、2%の消費増税の影響を考えても1%以上の上昇、すでに半年以上にわたって1%以上の上昇が続いています。

でも、本当にこれは経済が回復した結果なのでしょうか?

 

■ついにデフレギャップ解消!?

7月ごろに1月~3月の「需給ギャップ」についての報道発表がいくつかありました。

総じて、「需要が供給を上回る」という結果が出ていて、「おっ!ついに!」と思ったのですが...。

<1-3月需給ギャップ約6年ぶりプラス転換、物価上昇圧力高まる=日銀>

(2014年7月16日付 ロイター)

『日銀は、7月の金融経済月報公表時に今年1~3月の需給ギャップがプラス0.6%と2008年4~6月以来約6年ぶりにプラスに転じたことを明らかにした。アベノミクスの金融・財政フル出動と人手不足で物価上昇圧力が高まりつつあるのが裏付けられた格好だ。』

日本経済新聞でも、

『1~3月期の需給ギャップは日銀推計でプラス0.6%、内閣府推計ではマイナス0.2%となった。需給ギャップはほぼゼロ近辺になったと言っていいだろう。』(2014年7月16日付)

と報道されていました。

 

「需給ギャップ」とは、国の経済全体の「総需要」と「供給力」の差のことです。「総需要」はGDP(国内総生産)とほぼ同じで、「供給力」は国内の労働力や製造設備などのキャパから推計される、とされています。

景気が良くなって、「需要」が「供給」を上回ると、需給ギャップはプラスになって、物価が上がりやすくなります。これが「インフレギャップ(需要>供給)」と呼ばれる状態です。

逆に、景気が悪いと、「需要」が「供給」を下回って、需給ギャップはマイナスになり、物価が下がりやすくなります。これが「デフレギャップ(需要<供給)」と呼ばれる状態です。

日本はしばらくデフレが続いていました。減退する需要に対して、過剰な生産設備や過剰な労働力がある状態、つまり供給力が需要を上回っている「デフレギャップ」が一因とされてきました。

新聞などでは「GDP対比約6%、30兆円ほどの需給ギャップがある。」とされ、「このデフレギャップが解消されない限りデフレは改善されない。」と言われてきました。

先の報道によると、このデフレギャップが、アベノミクスのお蔭かどうかはわかりませんが、「いよいよ解消した」というのです。

(需給ギャップはその測定方法についていろいろ議論もありますが...)もし、この結果が本当だとすると、これまで需要不足を前提に考えられてきた経済政策は大きく変えていかないといけないことになります。

今までは、需要を喚起するために、自動車減税や住宅減税、大規模な公共投資などを進めてきたわけですが、需給ギャップが本当にプラスになったのなら、これからは供給力を高めていかないと物価が急上昇する恐れが出てくるわけです。供給力を高めるために、労働力を増やしたり、設備投資を促進したりする政策が必要になってきます。

これがアベノミクス第3の矢、「成長戦略」ですね。

だとすると、アベノミクスはシナリオ通り、ということになるのですが...。

 

■経済回復はホンモノなのか?

ただ、2014年度の1月~6月のGDPはゼロ成長だったわけです。つまり、少なくともこの半年間は「総需要」はほとんど伸びていなかったのです。

それなのに需給ギャップがプラスに転じたということは...?

総需要が伸びていないのに需給ギャップがプラス(需要>供給)に転じたということは、「供給力が低下したのではないか?」と推定されます。(←需給ギャップ統計が正しければ、です。しつこいですが)

確かにこの間、過剰設備と過剰労働力に苦しんできた日本企業はリストラに明け暮れてきました。保有する設備の老朽化や労働力の減少が進んだために、経済が少し温まっただけですぐに設備はフル稼働になり、人手も不足してしまいます。またエネルギーコストの増大も影響しているかもしれません。

「供給力」、すなわち日本経済が潜在的に持つ成長パワーが低下しているのではないか、ということです。

いくら「デフレギャップが解消された」と言っても、需要が拡大したのではなく供給サイドのパワーダウンが原因だとすると景気が力強く回復した結果だとはとても言えません。単に経済が縮小して弱くなった上に物価だけが上がっていくことになります。

だとすると賃上げも一時的なものに終わる可能性が高く、消費も回復せずにすぐにまたデフレに戻ることになるでしょう。

企業側としてはまだまだ設備投資を本格化したり、ベースの賃上げを本格化したりするほど日本経済の需要の回復を信じていないのかもしれません。

10%への消費増税判断には、7月~9月のGDP成長率と物価上昇率がどうなるか次第だと思いますが、本質的な問題はその中身でしょうね。まず消費がどれだけ回復したか、そして設備投資や労働生産性の向上など潜在的な供給力がどれだけ回復し始めたか、というのが重要だと思います。

需要と供給がバランスよく高まっていき、健全な状態でデフレギャップが解消されていく。これが一番いいですよね。

もし、需要が回復しないまま消費税を上げるとさらに需要はさらに落ち込みます。需要が落ち込んでいるのに、供給力を増やす政策だけを強めていったら...、ふたたび「需要<供給」となって、デフレギャップが広がるだけです。

安倍政権はまだまだ難しいかじ取りが続きますね。

私たちは本格的に経済が回復するように頑張りましょう!

 

今回は以上です。

もっと日本がよくなりますように。

 

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