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「低所得者層の持家比率が高まっている理由とは?」~低所得者層が夢のマイホームを手に入れている?~

「低所得者層の持家比率が高まっている理由とは?」~低所得者層が夢のマイホームを手に入れている?~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。

今日は新聞記事を掘り下げてみてみました。ちょっと違和感がありましたから。



昨日、新聞の見出しを見て「ん?」とちょっと違和感を持った記事がありました。
結論は正しいのですが、その元になったデータの見方がちょっと違うんじゃないかな・・・と。

『持ち家8割、夢とリスク 低所得層で急増、価格・金利の低下追い風』
(日本経済新聞 平成25年3月18日付)
<マイホームを持つ世帯の比率が上昇している。総務省の家計調査によると、2012年は2人以上の世帯の持ち家率が81.4%と前年から2.5ポイント増え、4年ぶりに過去最高を更新した。特に伸びているのは低所得層だ。庶民の夢がかないつつあるとしたら、その背景は何か。家計のリスクはないのだろうか。

世帯年収を5分割したうち一番低い層(平均年収263万円)の持ち家率は今年1月に82.4%で、直近で低かった11年7月から10ポイント以上も上昇した。年収別で3位の世帯(平均年収513万円)の80.1%を上回る。全体の持ち家率も83.7%で、比較可能な1995年以降で最高だった。>

これだけ見るといいニュースに見えますね。
全体的にマイホームを持つ比率が増えていて、中でも特に年収260万円程度のいわゆる「低所得者層」持家比率が大幅に増加している、とのこと。

記事はこのあとマンションの売れ行きが好調なことや住宅ローンの貸し出しが増えていること、そしてその背景には金利の低下や銀行のローン競争、消費増税前の駆け込みなどの消費者にとって住宅購入環境が整っていることがある、と書かれています。

ただ、リスクとして、
『変動金利型の住宅ローンを利用してマイホームを取得する世帯は依然多く、金利が上昇した場合に家計の負担が拡大する懸念がある。新規の住宅ローンに占める変動金利型の割合はリーマン危機後に3割から5割に上昇したまま高止まっている。家計は日銀が今後もゼロ金利を続けると踏んでリスクをとっている格好で、日銀が将来引き締めに転じる際には負の影響が強まる。』

と、変動金利の金利上昇時のリスクにふれて、審査が比較的甘いとされる住宅金融支援機構へ会計監査院が指導に入ったことなどを伝えています。



■本当に低所得者層が夢のマイホームを手に入れている?

この記事が言いたいことはよくわかります。
年収260万円程度の低所得者層の持家比率が10ポイントも上昇した。その背景には金利の低下などがある。ただ、変動金利の借りやすさは将来のリスクになる可能性がある。銀行側も適正な審査をするべきだ、と注意を促しているわけですね。

確かに、今の1%を切るような変動金利だとそれこそ今の家賃並みの負担で家が買えてしまうような状況です。だからこそ変動金利のリスクへの理解や所得に応じた貸出姿勢の厳守が必要だということはまったくその通りです。

でも本当に低所得者層の人たちが価格や金利が低いからといって安易に家を買っているのでしょうか?
ちょっと違和感があったので総務省の家計調査を調べてみました。
年収別でみると低所得層の方で持家に住んでいる方が増えていることはデータの通りで間違いではありません。でもだからと言って、年収が低い人たちが、今の住宅購入環境がいいからといって、どんどん家を買っているのかというと必ずしもそうとは言えないようです。

同じ「総務省家計調査」のデータを「年収別」ではなく「世帯主年齢別」でみるとよくわかります。
年齢階層別の持家状況は以下の通りです。

<2012年平均>
・25~29歳 : 20.4%
・30~34歳 : 44.6%
・35~39歳 : 58.7%
・40~44歳 : 73.8%
・45~49歳 : 78.9%
・50~54歳 : 82.6%
・55~59歳 : 87.3%
・60~64歳 : 90.9%
・65~69歳 : 92.0%

年齢別でみると、年齢が上がるにつれて持家比率が上がっています。30代以下の持家比率は50%程度なのが、60代以上になると90%を超えます。
比較的年収が低い20代後半から30代の「はじめてマイホームを買う世代」、いわゆる一次取得者層の持家比率が以前より上がっているなら記事の通り、年収の低い方でも価格と金利の低下のおかげで夢のマイホームを手に入れているということが言えますが実際は違います。

同じ統計データで5年前の一次取得者層の持家比率を見てみます。
<2007年平均>
25~29歳:32.9%
30~34歳:43.2%
35~39歳:60.8%

30代以下の一次取得者層の持家比率は5年前の方がむしろ高いくらいです。
つまり、年収の低い階層の人たちの持家比率が上がったのは、年収が低い人たちが持家を買ったわけではなくて、もともと持家だった人たちの年収が下がったのが正しいのだろうと推定されます。



■高齢者の持家はむしろリスクは少ない

記者さんも本当はこのことをわかっていると思います。
記事の終盤に少しだけ触れています。
『2012年は団塊世代の大量退職が始まった。給与所得がなくなって低所得層に分類される団塊が増え、家持ちの「豊かな低所得層」が生まれているという側面もある。』
いや、「側面」ではなくこれが「主たる要因」です。

だとすると年収が低い人たちが持家を持つことにリスクはないのか、金融機関は安易な貸出をしていないかという部分はミスリードです。
年収が低い方たちが低い金利を前提としてローンを組んで家を買っているのなら金利が上がるとリスクがありますが、もともと持家だった人たちにとっては今から金利が上がったとしてもリスクはありません。

60歳以上のほとんどの人たちはローンの支払いは終わっているか、もしくはまだ残っていたとしても残高は少ないはずです。残高が少なければ金利が上がっても返済額はそれほど増えませんからリスクは知れています。

リタイアして年金だけで暮らしている高齢者世帯はだいたい年収300万円以下です。この年収が低い高齢者世帯がローン負担のない持家に住んでいるということは、住居費負担がないわけですから、むしろ生活のリスクは少ないです。
逆に高齢者世帯で年金収入しかないのに賃貸に住んで家賃を負担している方がよほど生活のリスクが高いと言えますね。

結論:家を買うにしろ、買わないにしろ、しっかりとライフプランを見据えることが大事。そして家を買うなら正しい知識をもって適切な予算を組んで買いましょう。
この記事が言いたかったであろうこの結論は確かにまったくもってその通りですね。



今回は以上です。

日本がもっと良くなりますように。



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