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取材してきました。「基本的には自分の未熟さとの戦い。漫画家・さそうあきら氏」
»2010年5月 4日
力重の「ブレインストーミング考」
取材してきました。「基本的には自分の未熟さとの戦い。漫画家・さそうあきら氏」
アイデアプラント 代表。著書に『アイデア・スイッチ』。専門領域は「創造工学」。クリエイティブ・リーダを助ける道具を作っています。
当ブログ「力重の「ブレインストーミング考」」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/ishiirikie/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
今夜は、「創造する人々」というテーマでの取材、第4弾をアップします。
プロの漫画さんに「創造の活動の一側面」について取材してきました。
本記事は、以前、筆者が誠Biz.IDで不定期に行っていた「創造する人々」の
第4番目の記事として、書いていたものです。
このシリーズは、毎回、各種の創造的な人々に「アイデアの起源」と
「その具現化のハードル」をたずねる、というものです。
過去の取材は「ものづくり、システム作り」だったため、アイデアの具現化は
とてもハードルが高かったのですが、今回は、アイデアと具現化の距離が
近い仕事、です。その仕事ならではのお話、興味深かったです。
日々、ブレインストーミングを重視し、アイデアのウエイトが大きい世界で
勝負する方にはこの話は、一定の示唆があるとおもいます。
ぜひ、ご覧ください。
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創造する人々 第4回
「基本的には自分の未熟さとの戦い。漫画家・さそうあきら氏」
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今回は、漫画家であり、京都精華大学のマンガ学部の准教授でもある
さそうあきら氏に、「アイデアの起源」と「具現化のハードル」について伺った。
創造活動の具現化フェーズについてみると、「頭の中のアイデアから
具現化までが近い」点が、モノづくり系の創造とは大きく異なる。
そういうものだからこそ、これまでの取材とは違った具現化ハードルがあった。
「連載を通じて具現化する」ところに実はハードルがあるのだ。
※過去の記事はこちら
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はじめに「さそうあきら」氏について簡単に述べたい。
「神童」「マエストロ」といった音楽の漫画での受賞作が多いことで知られる漫画家。
京都精華大学のマンガ学部のストーリーマンガコースの准教授。
京都精華大学のさそう氏の教授室にて。
週の半分を京都ですごし、教鞭をとる間も、作品を作りは進む。
「神童」(98年、第2回文化庁メディア芸術祭)に続き、「マエストロ」(08年、第12回文化庁
メディア芸術祭)が受賞している。
「神童」以前は、人の世のタブーとされるテーマ(セックスや殺人など)をシニカルな目線で
描く作品が多かった。
「おくりびと」の漫画版の執筆もさそう氏の仕事である。映画のトレースではなく、
あらたな作品として、描き出されている。
さそう氏の単行本が重版されるようになるのは「神童」以降である。
それ以前は、初版のみの発行の作品が続いていた。
今回は、一つ上の創作品に上がったその「神童」を対象にして、アイデアの起源を伺った。
■ アイデアの起源
当時、さそう氏の作品は殺人事件などを題材にしシニカルな視線で、人間の
「とほほ感」を描き出す作品であった。
そんな折、さそう氏の連載の担当編集者から、好きなものを書いていいと言われた。
音楽、特にクラシック音楽がすごくすきだったので、それをどういうマンガとして
表現できるのか、を考えた。
さそう氏の周囲には、一緒に音楽をやる仲間がいて音大出の人が多く、
その話がすごく面白く、音大モノを描くことも考えたりした。
そして、好きな音楽という題材でアイデアを出し始めた時のことを、
さそう氏はこう語った。
『いままでになかった独特のこだわりがあった。アイデアの出てくる源が違う。やっぱりなんかこう、人間を斜めに見よう、裏から見よう、という感じだったのを、正面から人間を表現しよう、と考えるきっかけになった。こういう見方で書きたいと初めて思えた。音楽が好きだったから。美しいものを、美しく描きたい。とおもった。』
当時の連載が、漫画アクション、であることを考えるとこの題材、
この切り口は、とてもチャレンジングであったことは想像に難(かた)くない。
作家・編集者ともそれを重々調子の上で、「神童」の連載が始まった。
■具現化の壁
『基本的には自分の未熟さとの戦い。神童は打ち切りだった。』
とさそう氏はいう。
漫画は、頭の中を具現化するまでの時間が、物体(製品)を作る行為に
比べれば圧倒的に短い。
その意味では、「モノ」として具現化する分には壁は低い。
漫画という創造の具現化の壁が、実は他にある。
連載「打ち切り」の話に、より本質的な壁が垣間見られる。
『打ち切りの話が出た時、三回位で終わろうよ、と言われた時に、ちょっとだけ頑張った。うた(主人公)が耳が聞こえなくなって、でもピアノを弾くことは描きたかった。あと10話位、描かしてくれ。と、頑張った。それが通った。打ち切りは編集部の方針。普通は割り切ったら終わりだが、僕の訴えを編集者が聞いて、頑張って編集長に通してくれた。漫画家に一番描きたいものを、描かせようという気持ちがあった。』
掲載紙の読者アンケートの人気投票で上位をもらっていく作品ではなかったが
結果的には、描ききることができた同作品は、手塚治虫文化賞マンガ優秀賞
+文化庁メディア芸術祭優秀賞のダブル受賞、そして映画化という、大きな
評価を受ける。
漫画は作品の具現化が、連載を通じて、部分的に具現化が進む。
連載という名の、アイデア具現化の壁――。
連載する作品というものはそういうものなのかもしれない。
■さそう氏とその作品に接して
この取材は、深夜にまで及んだ。その中で、さそう氏のコメントで
強く印象に残った言葉、それは
"基本的には自分の未熟さとの戦い━━"
という台詞。さそう氏には、数々の受賞作があり、大学の准教授という立場もある。
しかしそれにおごることはなく、作品へ向かうストイックさと、凛とした考え方をされていた。
また、インタビューの前と後に、さそう氏の作品を読み、筆者は改めて感じた。
さそう氏の作品は、繊細なメッセージが隠し味のように効いている。
神童という作品は「音をビジュアルで表現した」ことを評されがちであるが、
それはいわば作品のガワ(表面)であり、同作品の内側に宿らせた魂は、
印象に残るエピソードという形で読者にしみこませている。
「音楽が日常の音とつながっている、みんなが分かる音の延長線上に、音楽がある。それを表現したらみんなに分かってもらえるのじゃないか、と思った。リンゴを齧る音が音楽なんだ。」
筆者は神童を読んで、そのメッセージを明示的な言葉としては
うけとめていなかった。しかし、その話は、記憶に残っていた。
特に漫画を代表する印象的なシーンとして。
さそう氏が作品に吹き込むメッセージはそういうものかもしれない。
記憶に残る印象的なシーンを、今一度、静かに、ながめてみたい。
(取材時期:2009年5月)
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さそうあきらのホームページ http://saso.web.infoseek.co.jp/
京都精華大学 マンガ学部 http://www.kyoto-seika.ac.jp/edu/manga/
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筆者プロフィール
石井力重(いしいりきえ)
アイデアプラント代表/アイデア創出支援の専門家
大手メーカやベンチャー企業の事業アイデア・新製品アイデアの創造活動にチームメンバーとして参画し、創造手法の提供やブレインストーミングのファシリテーションを行っている。産学官連携の創造性育成ツール開発プロジェクトでは、プロジェクトリーダを務め、そこから誕生した新商品『ブレスター』は、みやぎものづくり大賞で、優秀賞を受賞。その他、アイデア創出支援ツールの企画・製品化の豊富な実績を持つ。発想法を実践するワークショップ『アイデア創出の技術』を不定期に各地の大学や公的機関で行う。実務とともに、日本創造学会を置き、創造工学を研究中。
【募集】
筆者は、創造する人々、というテーマで、取材を行っています。その結果は、時に学会での発表データとさせていただいたり、本記事のように読み物として広く社会にフィードバックしています。ぜひ、「ここは見てきたほうがいい」という企業さん/グループ/個人の方をご存知でしたら、ぜひ筆者まで、ご一報ください。手を尽くし、取材を試みます。
筆者連絡先 rikie.ishii@gmail.com
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※ 取材記事の形式をとりましたので普段の私の文体とは違う「で・ある調」でした。
※ 取材時期は2009年5月でしたが、諸般の事情で、公開が、1年近く遅くなりました。
※ 取材先の自薦・他薦、ぜひお待ちしております!