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二日目、ブレインストーミングに参加してみた

二日目、ブレインストーミングに参加してみた

石井 力重

アイデアプラント 代表。著書に『アイデア・スイッチ』。専門領域は「創造工学」。クリエイティブ・リーダを助ける道具を作っています。

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昨年のことですが、2009年5月、私が「面白法人カヤック」に1週間、滞在しながら、カヤックの作り続ける現場を体験しました。二日目は、彼らのブレストに参加してみて、筆者なりに分析してみたことを述べてみます。なお当時と現在とでは、組織名が改正されている可能性があります。


5月26日 22:00

 筆者は今、原稿をカヤック本社の二階、窓側に近いテーブル席の角に座り書いている。二日目、ブレインストーミングと社内の会話を通じて、見えてきたことを報告したい。

 カヤックの中ではブレインストーミングが一日に何回も行われる。場所は二階の小高い中央テーブルが多い。筆者も誘っていただいき、アイデアを一緒に出させてもらった。その中で観察できたカヤックのブレインストーミングを振り返る。

 カヤックのブレインストーミングについて、一定の観察項目を持ちたいと思い、IDEOのブレインストーミングのルール(下図)を基本視座にすることにした。これを視座にした理由は、創造する企業として高く評価されているIDEOのブレインストーミングのスタイルは、(1)イノベーティブな発想を引き出す、ブレインストーミングの発展的モデル(※補足)であり、(2)対応業種が広いIDEOのブレストルールは、多様な業種に対応するエッセンスを有すると思われるため。

IDEO_BS_7.jpg

カヤックのブレインストーミングを、この観点から振り返ってみる。


まず「Defer Judgement」これは、非常になされている。「それ、できないよ」「えー(否定的なあいのて)」というフレーズは一切みられなかった。面白法人ラボBM11のリーダの一人、玉田さん(http://www.kayac.com/member/tamada)に、昼食を食べながら伺ったところ、既存にあるものが出た場合はそれをコメントするようにしているが、それ以外には、出たアイデアをダメということはない、とのこと。


次に「Encourage Wild Ideas」もなされている。ある人からは、一般の企業では発言しにくいようなコンセプトを、次々発言し、場もそれを楽しんでいる。楽しんでいるだけでなくアイデアのネタとして受け止めていた。


「Build on the Ideas of Others」については、なくはないが、発言中に占める頻度としては(観察の間には)少ないように見られた。オリジナルのアイデアが沸く力が強いため、割合的にそうなるのかもしれない。


「Stay Focused on Topic」については、非常に優れていた。一般に、ブレストの難しさの一つに「突飛なアイデアは、それを重ねるうちにが、テーマを離れた脱線に変わってしまう。そうなる前に進行役は軌道修正すること」がある。そのため、リーダには優れたバランス感覚が求められる。カヤックの場合、テーマ持ち込み者がだれであれ、非常に短い時間で多様なアイデアを引き出す。それは、テーマを離れた脱線が生じる時に、「適切な振り返り」と「テーマのリファイン」を的確におこなっていることが他の企業と大きく違う能力と感じられた。一般に、アイデアに対する深いセンシティビティーがないと、否定せずにブレストの流れを変えるのは難しいが彼らは、それをさらりとやっている。


「One Conversation at a Time」については、なされていた。人が話しているのに、割りこんで話すような会話スタイルはここにはない。発言できる機会をまつ紳士的なものが会話の根底にある。これはブレストの場以外にもカヤック全体に感じられることだ。


「Be Visual」は、筆者の見た中では、なされていなかった。IDEOのように物体を扱う業種とカヤックのような2次元上のデザインがメインの違いかもしれない。アイデアをリスト化するのは司会者がノートPCで打ち込むスタイルをメインにしている。(発言したアイデアが参加者に視覚的にフィードバックされることはない)。しかし、短時間で十分に発案がなされる組織力があるため、「ホワイトボードやポストイットに書いて、後で書記が書きとめる」といったプロセスの必要性を感じなかった。創造するスピードと会議スタイルとには、大きな関係があると感じた。(補足:ただし、デザイン系のアイデアでは書きながら行うスタイルをとっている、と玉田さんに後に伺った。)


「Go for Quantity」については、十分になされている。最初に参加したブレストは、30分強で、50~60個のアイデアが出た。進行役の方に伺ったところ、そこの中にはいいアイデアが20個位あり、統合していくと、3つ位になるだろう、とのこと。同社の著書によく見られる、「量が質を生む」という考え方は、単なる「標語」ではなく、創造の現場で実践されている「姿勢」である。


上記に加えて、特筆したい事が一つある。カヤックスタイルであるブレインストーミングでは「アイデアの出が低調な時でも、出続ける」ということが特徴的であった。普通、アイデアを話し合う会議は、盛りあがって沢山でることもあるが、低調なときには発言がまばらになってしまうものだ。しかし、カヤックでは、出しにくいな、というテーマで始まっても、アイデアがなめらかに出続ける。筆者は、その会議に「美しい滑らかさ」を感じた。


【筆者なりの考察】


「アイデアの出が低調な時でも出続ける」。これを可能にしているのは、実はブレインストーミングのやり方だけに、ポイントがあるわけではない模様。創造的な要素をこわさないで受け渡しができる相互関係があるのだ。この視点にフォーカスしたい。社内の会話も含めて筆者が感じた事を、説明を加えて表現すると次のようになる。


まず、無いものをつくろうとするような「創造的な仕事」というのは、要件定義しにくいことが多い。一般に、新規性が高いほど、コンセプトは、輪郭の一部のエッジがたっている。しかし、他のほとんどの部分がぼんやりとした輪郭をもった姿である。それをそのままとらえて、アイデアを出し合い、構想にしていこうとするならば、組織全体に、創造的な要素をこわさないような知性が必要になる。

そしてで、多くの企業は、組織成長とともに効率重視になる。それに伴い要件定義できないような仕事は扱いにくくなる。その中で、創造的リーダは創造的な仕事をやり抜くには、相当な苦労が必要になる。各部門に何度も何度も、情熱を持って、案件の持つ、微妙な「テイスト」や「光るもの」を伝え続けなければならない。つよい創造的リーダは、創造の芽がつぶされないようにすることに、相当なパワーをかけている。

一方、カヤックでは、道だろうか。カヤックでは、組織全体が創造的な要素をそのまま受け止めて、次の段階へと受け渡していける。この空気感(相互関係)があるため、多くの人の創造的な努力は一般の企業に比べると、はるかに報われる。そして早く、大量の、アウトプットにつながる。



【次に浮かび上がる疑問】


経営学の言葉で「オペレーティブは、イノベーティブを駆逐する」という言葉がある。一般に、企業には、誕生時はイノベーティブ(創造的・革新的)であるが、成長とともにオペレーティブ(生産的・効率的)のウエイトが高くなり、イノベーティブな取り組みは社内的に展開しにくくなる。しかしカヤックには、その傾向に当てはまらないように見える。なぜだろう。よく見てみると、内部の仕事のスピードは非常に早く、産量も多い。その意味では、組織の能力は「オペレーティブ」な段階にある。しからば、どうして、一般的に生じる「イノベーティブが駆逐されてしまう」ことが生じないのか。滞在の残りの日数で、その点にさらに注目してみたい。


今日の発見:

創造的な要素をこわさないで受け渡しができる職場



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補足:

"ブレインストーミングってそもそも、何をすること?"については、各社様々なのが実情である。まったくの制約なしの空想雑談からきらりと光るアイデアを待つスタイルもあるし、かなり実現度の高いものだけを出させるスタイルもある。それについて、筆者は「技法の根底にあるものをふまえ、自社組織に適したスタイルへ発展的に変えて、発想すればいい」という立場をとっている。もちろん、筆者は創造学会に属する研究者の一人として「オズボーンの考えていたBrainstormingとは」を非常に尊重している。





以上、2日目の観察記でした。この後、一度、特別編をはさんで、彼らの「創造する組織」への確信に迫ります。