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日本代表監督に聞く アンプティサッカー日本代表監督 杉野正幸さん
»2012年9月10日
あなたの知らないスポーツ、そっと教えます
日本代表監督に聞く アンプティサッカー日本代表監督 杉野正幸さん
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色々な日本代表監督にお話を聞く、「日本代表監督に聞く」2回目はアンプティサッカー日本代表監督の杉野正幸さんです。アンプティサッカーは以前このブログでもご紹介しましたが、四肢欠損の方が杖(クラッチ)を使って行うサッカーです。まだ日本ではあまり知られていない競技ですが、ワールドカップも開催されています。そのアンプティサッカー日本代表の監督である杉野さんにお話を伺いました。
◆杉野さんがアンプティサッカーに出会うまでの経歴を教えてください。
私はコスタリカで生まれて4歳まで過ごしていました。物ごころついた時にもらったプレゼントがサッカーボールで、小学校時代は地元のクラブチームでプレーしていました。中学高校はバスケをやったり、音楽活動をしていたのですが、就職先が在日ブラジル人向けの新聞社だったんです。そこはサッカー文化が根付いている職場で、再びサッカー熱が再発してしまいました。その後、サッカーのイベントを手掛ける会社に転職し様々な南米のチームと仕事をしました。特に2002年の日韓ワールドカップ直前合宿でチラベルト(元パラグアイ代表GK)と一緒に仕事をした時に彼のチームのために献身的に動いている、ヒール役を買ってまでチームメイトを守ると言ったキャプテン、リーダーとしての資質に感銘を受けました。
◆アンプティサッカーとはどのように出会ったのですか?
サッカーイベント会社の代表が障害者のためのサッカースクールを開設したんです。主にCP(脳性まひ)の方を対象にしていたのですが、他にも様々な障害を持った人がプレーしています。私は今でもそこの監督をやっているのですが、サッカーイベント会社から外資系の銀行に転職し、そこで現在アンプティサッカーの日本代表でもあるヒッキ(エンヒーキ・松茂良・ジーアス)と出会うことになります。彼は右足を事故で欠損していて、私がつとめる銀行で障害者雇用の一環としてブラジルから入社してきたのですが、日本に来てもサッカーをやりたいと言っていたんです。
じゃあ、僕が監督をしているサッカースクールでやろうよ、と言うことになり参加してもらいました。彼にサッカーを教えてもらうことでスクールに来ている人達のレベルも上がり、ヒッキも日本語がうまくなって相乗効果がありました。ヒッキは義足のメンテナンスのために鉄道弘済会病院に行っていたのですが、そこで義肢装具士の方とのコミュニケーションもありアンプティサッカーを紹介してもらってチームが出来上がりました。チーム初回の練習はヒッキが中心となり行ったのですが、教えながらプレーするのは難しいと言うことで私に声がかかったんです。これがアンプティサッカーとの出会いですね。
◆最初の練習はどんな感じでしたか?
2時間の練習時間があったのですが、初めの1時間はアンプティサッカーがどういうものかを見極めて、練習メニューを考えました。サッカーをするのが初めての選手もいたんです。それに普段は義足をはいているので、それを外してクラッチでプレーするのはさらに難しいんです。でもそう言った人でも特別扱いをするのは嫌がるだろうと思いしっかりとサッカーの基礎練習を行いました。特別扱いされるのがいやなのはCPの選手でも同じなんです。
◆アンプティサッカーと出会いなんとなくチームも出来上がってきましたが・・・
はい、その後2010年にアンプティサッカー協会が、そして本格的なチームとしてFCガサルスが立ち上がりました。このチームの立ち上げは急ピッチで行われました。なぜなら2010年10月にはアルゼンチンでワールドカップが開催されるので、それに間に合わせることが必要だったのです。ワールドカップに参加するには旅費や滞在費などお金が相当かかりますが、今行かないと次はない、同じ境遇にある選手たちとの交流は必ず大切な経験となる、それにここで行かなければ全国に普及しないと言う決意で参加しました。
◆かなりのハードスケジュールでワールドカップに参加したんですね。その時の印象を聞かせて下さい
まずは「アウェイの洗礼」を受けましたね。宿舎はホテルなどではなく、地元の陸軍の施設でした。初戦が地元アルゼンチン戦だったのが影響しているのかもしれませんが、窓ガラスも割れていて、宿舎についた当日はシャワーも出なかったんです。同じ敷地内にいたフランス代表のシャワーは使えたんですけど(笑)でも、アウェイの環境に身を置けたのは非常に良かった。あれのおかげで動じない心が身に付いたと思います。
初戦のアルゼンチン戦ですが、地元開催と言うこともあり、かなり前から強化をしていました。実は日本代表にとっての初公式戦がこのワールドカップ初戦だったんです。でも、地元の大きな歓声があがっても動じることはない、夏の暑い中ハードな練習をしてきた俺たちなら大差が開くはずがないと言って、前半を0対1で切り抜ければ必ず後半に活路を見いだせると。しかしながら結果は0対8というほろ苦いデビューでした。ミスから失点して、そこからさらにディフェンスラインが崩れて行き、前にも持ち込めないし、パスもつながらない。でも中途半端なプレー、例えば弱いパスが如何に失点に繋がるか、選手は理解してくれたと思います。
2戦目ウクライナ戦は0対7、3戦目フランス戦は0対6と連敗をしましたが、それぞれに収穫はありました。そして特に印象に強かったのがエルサルバドル戦。エルサルバドルはバルセロナのように三角形を作りながらパスを回していく。三角の頂点に誰が立っても同じ動きができる、スピードはないがパスの一本一本がキラーパスだった。少ないタッチで如何に前に出るかをしっかりと考えていた。ドリブルをせずに人が動いて、そこにパスを出す。ワールドカップに出ていたチームの中でも一番華麗なプレーをしていました。次のワールドカップではこういったサッカーを目指していきたいですね。
◆話は変わりますが、代表の皆さんはもちろん四肢の切断障害をお持ちです。練習メニューや安全面のケアはどのようにしていますか?
健常者と違いクラッチが足の代わりとなり、三点で体を支えています。さらにボールを蹴るときはクラッチだけの二点になる。だから一番気をつけなくてはならないのは転倒です。大切なのは受け身を取ることなのですが、まだみんなクラッチを使ってサッカーをすると言う経験が少ないので手探り状態での指導でした。選手個人個人で一番ダメージの少ない転び方を研究しフィードバックを元に改良を重ねています。基本練習では派手に転ばないようなボールの蹴り方を口酸っぱく伝えていますね。
◆メンタル面の強化やモチベーションの向上はどのようにしていますか?
まずは自分を奮い立たせることです。そうしないと選手も熱くなりません。前回のワールドカップではこんなことがありました。初戦アルゼンチン戦が終わった後、記者会見があったのですが、まずはアルゼンチンからやるから負けたお前は少し待ってろと言われました。そこで次戦へのミーティングを行って、いざ記者会見場へ呼び出されてみるとそこには誰もいませんでした。これは本当に悔しかった。あいつらを勝って見返してやりたい。これが大きな柱となり、お前たちが輝くためには俺は何でもする、でも輝けないならすぐ日本へ返すぞと選手たちにも発破をかけることができました。
そしてギャップを使うことも大切です。試合や練習以外では選手と同じ目線で接しています。おやじギャグを言っていじられるのが僕のキャラなんです(笑)チームの中では個人個人で考え方が違います。でもボタンの掛け違えであることが多い。それを解消するにはやはりコミュニケーションが大切です。監督と言えど上から目線で命令するのではなく、同じフラットな関係を構築することが大事。試合後のミーティングでは私が試合で思った疑問をチームに投げかけます。それを選手が話して解決策を出し、監督である私が承認します。私の思いと違う答えが出た場合は練習であったり、次の試合で実践して軌道修正をしていきます。
監督が間違っているかもしれないし、選手が決めたことが間違っているかもしれない。でも包み隠さず間違っているところは改善していく。選手が自分たちで考えて決めることもコミュニケーションになります。最終的な責任はもちろん監督である私にありますが、選手たちから出た作戦や方針は彼らに責任感を植え付けます。若いチームだからこそできることかもしれませんが、この自分たちで決めて行くというベースをしっかり作っていきます。いま一緒にやっている仲間は一生付き合って行ける仲間だと、誇りを持っています。
◆最後に杉野さんの夢を聞かせて下さい
日本代表監督として短期的な目標はワールドカップのグループリーグ突破ですね。もちろんまずは一勝ということもありますし、それはそんなに難しいことではないと思っています。中期的にはアンプティサッカーをパラリンピックの種目に。まずは公開競技もいいので2016年のリオデジャネイロで採用されたら、メダルを取れるチームを作りたい。長期的にはパラリンピックで金メダルです。それまではがっつりアンプティサッカーに取り組んでいきたいです。
個人的には、日本がアンプティサッカーを広めるためのモデルケースになるような活動をしたいですね。例えばグローバル企業と組んでアンプティサッカーの主催試合を行い、それをモデルケースに様々な国でアンプティサッカーを広めてもらう。この競技が生まれて30年ほど経ちますが、まだパラリンピックの種目になっていないのは様々な問題があるからだと思います。だからアンプティサッカーのために常勤で働ける人をしっかり作って、アンプティサッカーを世界的に認知してもらうような活動も行いたいと思います。
◆杉野さんありがとうございました!
まだ日本代表が出来上がって2年あまりですが、若いチームをまとめ上げている杉野監督の話、いかがでしたでしょうか。
アンプティサッカーのワールドカップもいよいよ10月に迫ってきました。それに向けての総仕上げが今週日曜日9月16日に行われます。
第二回アンプティサッカー日本選手権大会
開催日:2012年9月16日
開催時間: 10:00キックオフ予定
開催地:フロンタウンさぎぬま(Jリーグ 川崎フロンターレが運営)
東急田園都市線鷺沼駅徒歩3分
東急田園都市線にお住まいの方、サッカーが好きな方など入場は無料ですので、ぜひアンプティサッカーを生でご覧になってください!
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