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原子力論考(97) 通信と電力(4) クオリティ低下への許容性

原子力論考(97) 通信と電力(4) クオリティ低下への許容性

開米 瑞浩

社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。

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こんにちは。本業は文書化能力向上コンサルタントで、電力にも原子力にも何の関係も無いのになぜか原子力論考を書いている開米瑞浩です。

前回の続きです。

まずはクオリティ低下への許容性の話から。

一般に、ビジネスとして何らかのサービスを提供しよう、という場合、当たり前ですが投資が必要です。そして、お金をかければかけるほど、サービスの品質は上がります。いくらお金を掛ければどれだけの品質のサービスを提供できるか、を考えると、一般論としてはこんなグラフを書くことができます。(品質は定性的に考えるときりが無いので、数値化できて100%という限界点があると仮定して書いています)

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サービスを始められる最低の投資額に達するまでは(開始できないので)品質はゼロ、それを超えるとある段階までは品質が急上昇するけれども、品質の限界に近づくといくら金をかけてもあまり上がらなくなる、という特性ですね。

ポイントは、

・品質が限界(100%)に近づくと、それをさらに上げるための投資額が跳ね上がる

つまり逆に言えば、ある程度品質を妥協して良ければ金をかけずに済む、ということです。品質レベルを上の図の緑色の範囲に保ってサービスを提供しようとする場合と、黄色の範囲まで妥協してもいいや、という場合では必要な投資額にかなりの差が出ます。

そして、通信サービスというのは「クオリティ低下への許容度が高い」ため、黄色の範囲でのビジネスがそれなりに成立しました。

以前(9495)書いたように、携帯電話は「ここは電波が悪くてつながらないんですよね」という事態があることをユーザーがあらかじめ知っていますし、つながらなくてもすぐに人が死んだり機械が壊れるわけじゃありません。2000年代初頭のブロードバンドサービスは、「最高8Mbps出ます!」という回線の実効速度が1Mbpsに達していなくても成り立ってしまうものでした。どことは言いませんが、早期のユーザー獲得を最優先にして、品質レベルが極端に低いことを承知で激安価格の大々的キャンペーンを展開した会社もありました。

「自由化がもたらした価格低下」の実態のかなりの部分は、「品質を犠牲にしての価格低下」であったわけです。

しかし、やはり既に書いたように電力の場合は「品質低下」が起きた場合の副作用が大きすぎます。電話が通じなくても人は死にませんし家電製品は壊れませんが、電力は一瞬途絶えただけでも莫大な損害や死亡事故をもたらすことがあります。「品質を犠牲にして安い電力を提供します」というビジネスが成立するとは思えません。

「当社は○○電力より40%安い電力を提供します。ただし、年間30時間程度停電することがあります。また、電圧と周波数は定格の上下20%の範囲で変動することがあります」

という電力、買いたいですか? それでいい、というのは「うちにはエアコンも冷蔵庫もテレビもないんだよね」という家庭ぐらいでしょう。

「発送電分離」で「競争が促進」されれば、「今までと同じ品質の電力が安く買えるようになる」かのような期待を煽る論者もいますが、私にはとてもそんな楽観をする気にはなれませんね。

次回へ続きます。
 

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