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「相対的貧困率」による統計マジック

»2013年12月26日
開米のリアリスト思考室

「相対的貧困率」による統計マジック

開米 瑞浩

社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。

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こんにちは。文書化能力向上コンサルタントの開米瑞浩です。

前回書いた通り

「OECD24ヶ国で貧困率を計ると、日本はワースト5に入る、貧困層の多い国である」

という理解は「状況把握」の間違いと言えますが、今回はそれがなぜ間違いなのかを書くことにします。

要点は以下の通り

1.    この主張の「貧困率」とは「相対的貧困率」のこと
2.    「相対的貧困率」は、中間層の厚い国では実態よりも高めに出る
3.    日本はその「中間層の厚い国」に該当するため、相対的貧困率が実際の貧困度を表さない

ということです。

まずは「相対的貧困率」のイメージを確認するために、所得水準とその構成比でグラフを書いたのが図1です。

2013-12-26-01.PNG

要するに相対的貧困率というのは ↑ こういう概念で、所得水準の「中央値」の2分の1以下の所得者の割合を「相対的貧困」とカウントするわけです。


では次に、以下の2種類の所得分布を示す国があったとしましょう。

2013-12-26-02.PNG

高所得側の山は同じで、違うのはそれより下の部分です。
黒線で示したA国は、低所得側に大きな山がある、「大金持ち以外みんな貧乏」型。
赤線で示したB国は、真ん中あたりに山がある「総中流階級」型。

どちらの国が「所得格差が大きい」でしょうか。
明らかにA国のほうですね。これは一目見れば分かります。

では、相対的貧困率を計算するとどちらが高く出るでしょうか。
実はB国のほうなんです。

実際には格差の少ないB国のほうが「所得の中央値」が上がります。そうすると、「相対的貧困」とされるラインも高くなるため、相対的貧困とカウントされる割合が増えるわけです。

もっと極端な例を出すとこんな感じです。

A国とB国に国民がそれぞれ11人ずついるとします。
A国の所得分布が10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,  そして100ドル、
B国の所得分布が5,10,20,30,40,50,60,70,80,90,  そして100ドルだったとします。

最上位の「100ドル」が1人いるのは両国とも同じですが、それ以外の分布が全然違っていて、A国は「大金持ち以外みんな貧乏」型、B国は低所得から高所得までまんべんなくいる国です。

どちらの国が格差が大きいか。明らかにA国です。A国ではトップの一人以外は全員がB国の下から2番目の所得以下です。 ところが相対的貧困率はどちらが高く出るか。B国のほうなんですよ。

A国の所得の中央値は15ドル。相対的貧困率は中央値の半分以下の所得の人という定義なので、15ドルの半分=7.5ドル以下の所得の人が「相対的貧困」に該当しますが、A国では該当者ゼロです。いっぽう、B国の所得の中央値は50ドル。その半分の25ドル未満が「相対的貧困」とみなされますが、該当者は20ドル以下の3人です。

つまり、「中間層が多い」国のほうが、「一部の大金持ち以外はみんな貧乏」な国よりも相対的貧困率は高く出ます。そして日本はまさにそういう国に該当するため、「相対的貧困率」の数字は当てになりません。

ということで、「相対的貧困率」を根拠にして「日本では世界でも格差の大きな国である!」と騒ぐのはいかにも筋悪ですね。

■参考:「相対的貧困率」についての不破雷蔵さんの記事紹介↓
「相対的貧困率」について色々と考えてみる......(1)発表データのグラフ化と二つの貧困率

「相対的貧困率」について色々と考えてみる......(2)本当の「貧困」を世界と比べてみる

「相対的貧困率」についての開米の解説ツイートまとめ↓
「日本は超格差社会」は本当か...相対的貧困率と日本の格差問題