誠ブログは2015年4月6日に「オルタナティブ・ブログ」になりました。
各ブロガーの新規エントリーは「オルタナティブ・ブログ」でご覧ください。

原子力論考(114)今年の電力需給状況について

原子力論考(114)今年の電力需給状況について

開米 瑞浩

社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。

当ブログ「開米のリアリスト思考室」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/kaimai_mizuhiro/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


昨日、今日と気温は30℃を超え、光化学スモッグ注意報なども発令されたようです。すっかり夏ですね。

暑くなってきたところで心配なのが電力需給。今年は真面目に大停電が起きる恐れが高い、と私は警戒しています。まずは、官邸HPに掲載されている報告書を見てみましょう。

「2014年度夏季の電力需給対策について」(PDF形式:20KB)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/electricity_supply/20140516/taisaku.pdf

↑正直言ってかなり厳しい・・・というより、深刻な状況です。 これを見てもなお「予備率がマイナスじゃないから電力は足りているじゃないか」と解釈する人々もいるので書いておきますが、電力供給予備率は平時においては10%は必要とされているものです。

大停電を回避せよ! 電力マンたちの暑すぎる夏」 夏目幸明著 p.33-34 より引用
だが、ここからが重要だ。約10%もの余裕があっても、実はギリギリなのだ。

「電力は通常、10%前後は余裕を持って発電する必要があるんです。ここだけお伝えすると。エコの時代に何を。とお叱りを受けてしまうのですが、実は、絶対に必要なものなんです。
例えば、夏に気温が予想より一度上がったとしますよね。冷房による電力需要で、中部電力の管内では約80万キロワット程度需要が増加します。これだけで電力の予備(供給予備率という)は3%程度低下します。逆に、冬場、急に雨などが降って気温が下がると、これも、供給予備率を3%程度は下げてしまいます。また、発電所で何らかのトラブルが起きることも想定はしておかなければなりません。100万~150万キロワット級の発電機が故障した場合、予備供給率は一気に4~5%は下がってしまうんですよ」(中部電力広報担当者)

加えて、電力には特性がある。

「よくそれでも10%は余裕の持ちすぎなんじゃないか。といわれるのですが、そうもいかないのです。供給予備率が3%を切ったくらいから、周波数が乱れたり、電圧降下が始まったりします。もし共有予備率が1%を切ってしまったら、それはもう。いつ停電してもおかしくない状態です」(中部電力広報担当者)

では、電力が足りなくなるとどうなるのか。例えば、電灯が徐々に暗くなっていく、テレビの映像が乱れ始める、といった現象が起こるのだろうか?

「いえ、いきなりブラックアウトです。予備供給率が0を切った時点で一気に大停電が起きる可能性があります」(中部電力広報担当者)

中部電力広報担当者の以上の発言を念頭に置いて、冒頭にリンクした、電力需給に関する検討会合のレポートを見てみましょう。

東日本から西日本への周波数変換装置(FC)を通じた電力融通を行わなければ、中部及び西日本全体で予備率 2.7%(予備率 3%には 24 万kW不足)となり、電力の安定供給に最低限必要となる予備率 3%を下回る見込みであり、電力需給は厳しい見通し。特に、関西電力管内は 1.8%九州電力管内は 1.3%と特に厳しい見通しである。
余力のある東日本から約 60 万kWの電力融通を行えば、中部及び西日本で予備率 3.4%となる見込みであるが、・・・(以下略)
2014年度夏季の電力需給対策について」(PDF形式:20KB)

正直、いつ大停電があってもおかしくない状況です。
去年はまだ大飯原子力発電所が稼働していましたが、今年はそれもありません。
くわえて、震災から3年を経過して節電意識も希薄になりつつあります。
また、この3年間の電力会社の財務体質の悪化により、発送電網のメンテナンス水準が落ちています。

それでも、即時脱原発を主張する人々は、「一昨年も去年も大停電は起きなかったじゃないか! 電力は足りているんだろう!」と主張するのでしょう。
そして今年も電力マンが必死の努力でなんとか大停電を食い止めたとしたら、それを根拠にまた彼らは「やっぱり電力は足りていたんだろう!」と主張するのでしょう。

「大津波は起きない」と想定していた人々と何が違うんでしょうね。

いつ大停電があってもおかしくない状況、だという報道を、普段見かけないとしたら、それは報道機関が報道の責を果たしていないことを意味します。そして、政治もまた本来の役割を果たしていないことを意味しています。

■開米の原子力論考一覧ページを用意しました。
→原子力論考 一覧ページ