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原子力論考(116)マスコミの存在意義はどこにある?(前編)

原子力論考(116)マスコミの存在意義はどこにある?(前編)

開米 瑞浩

社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。

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東日本大震災と原発事故から既に3年が経過し、もはや放射線障害も起きる恐れはない、と広く知られるようになった現在ですが、停止している既存の原子力発電所の再稼働はまだ達成できていません。そして化石燃料の輸入コストと電気料金の上昇は日々日本経済に大打撃を与え続けています。

この状況を改善するためには、「マスコミ」というものが本来果たすべき役割を果たしてもらわなければならないのではないか、ということで、元マスコミの「中の人」であった山森貴司さんに、意見を伺ってきました。

山森さんは誠ブロガーでもあり

 → あきらめないで! あなたも局アナになれる - 元局アナの「特ダネ?」

それも新卒ではなく30歳までは商社で仕事をしていながら、32歳で局アナになったという異色の経歴の持ち主です。そういう経歴だからこそ見えてくる「マスコミ業界の問題点」もあるということで、ある日新宿で交わした会話の一部をご紹介します。

開米 : マスコミの内部に入ってみて、外から見ていたときとのギャップにはどんなものがありました?
山森さん(以下敬称略) : ひとつは、一般の人はマスコミが伝える情報をすごく簡単に信じてしまうということですね。私は群馬の地方局で局アナ兼記者をやっていたわけですけれども、報道に対する根拠のない信頼感のようなものがあるのは感じました。

開米 : 根拠のない信頼感ですか。実際、根拠はないんですか?
山森 : そうですね、たとえば国政選挙があったときのことですが、開票速報をやるじゃないですか。で、群馬県の私のいた局も、地元の選挙区について独自の調査をもとに「当選確実!」とか打ったりするわけですけれど、実際は独自調査は少数ですから、NHKには情報量で太刀打ちできません。NHKが当確打ったのを見て「じゃ、うちでも当確出すか」なんてやってたのが実態でした。地元の局なのにそんなものです。でも一般の人にはそれは見えてなくて、地元の当確についてはNHKより地元の局のほうが信頼できる、と思われていたんですよね。

開米 : なるほど・・・・自分で確かめた事実を元に語ってなかったんですね。
山森 : はい、その傾向はマスコミの構造的なものだと思います。言い方を変えると、ものすごく不勉強なんですよ。
開米 : 不勉強!
山森 : 私は元々商社で仕事をしていて、30過ぎてから局アナになったので、そこは本当に痛感しましたね。要するにマスコミには専門家がいないんです。まったくいないと言ったら言い過ぎで、もちろん勉強していて、その道一筋なんて人は後々編集委員などになれるんですが、少数です。

開米 : 専門家がいないというのは、育つ仕組みがないということでしょうか。
山森 : ないと思います。商社の場合は専門性がないと商売できないので、特定の商品をずっと担当するプロが育つし、そういう人事制度になってますが、マスコミの記者はだいたい短期間でコロコロ異動しちゃうので専門家が育たない。だから、専門的な知識が必要な内容についてものすごくトンチンカンなことを言っていたりする。それには本当に驚きました。

開米 : 専門家がいないからトンチンカンなことを言っているのに、それがマスコミの看板背負って流れることで一般の人は信じてしまう・・・
山森 : まさしくそういうことです。原発問題なんかはそれが一番悪い方向に流れたケースじゃないでしょうか。

(・・・後編に続きます)

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