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原子力論考(4) 低線量放射線の危険性は過大評価されている?

原子力論考(4) 低線量放射線の危険性は過大評価されている?

開米 瑞浩

社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。

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 原子力論考の4本目です。

 2本目で「チェルノブイリ事故での汚染地域に住む大部分の住人にも、健康問題の恐れはない」という国連科学委員会報告を紹介しました。それは「一般に思われているほど、放射線は危険ではない」という根拠の1つですが、他にも根拠はまだまだあります。1つずつ見ていきましょう。

 まずはこの図をご覧ください。放射線障害が起こるメカニズムをバッサリ簡略化して書くとこうなります。



 放射性物質から発生する放射線が生物のDNAを損傷させ、その異常が蓄積すると「放射線障害」をもたらします。チェルノブイリでもこの放射線障害が一部確認されたものの、放射性物質の飛散量から想定されていたよりははるかに低いレベルにとどまり、「大部分の住人には健康問題の恐れはない」というのが2本目で書いた内容でした。

 同じように、「被曝が起きた(つまりDNA損傷が起きたはず)にもかかわらず目立った放射線障害は起きなかった」という報告はいくつかあります。

台湾でコバルト60が鉄筋に混入し、平均400mSvの被曝を受けた住人1万人の健康影響調査の結果、がん発生率の目立った上昇は起きていない
http://criepi.denken.or.jp/jp/ldrc/study/topics/cobalt_apartment.html
財団法人 電力中央研究所 原子力技術研究所 放射線安全研究センター


「原子力発電施設等 放射線業務従事者等に係る疫学的調査 第4期」
原子力発電所の労働者にも死亡率の有意な上昇は見られない
http://www.rea.or.jp/ire/pdf/report4.pdf (放射線影響協会による)


 さらには、「低線量の放射線については逆に健康によい効果がある」という研究さえあります。これを「放射線ホルミシス効果」と言います。

放射線ホルミシス効果検証プロジェクト
http://criepi.denken.or.jp/jp/ldrc/information/result/hormesis_project.html
「ラッキー博士の論文に驚き、当所がホルミシス研究に着手してから10年が経過した。今や、低線量の放射線照射によってホルミシス効果が生じることはほぼ間違いないと言ってもよいのではなかろうか。」


 こういう話はほとんど報道されませんから、「そんな、まさか!」「嘘だろう? 信じられない!」と思うかもしれません。でも、頭から拒否する前に、「人は誰でも間違える」ということを念頭において、リンク先を読んでみてください。「原発安全神話」が間違いであったように、「放射線は極めて危険神話」も間違っている可能性はありますから。

 何も、私の話を信じろとは言いません。信じるのではなく、リンク先を読んで、どの程度信用がおけそうかは、自分で判断してください。

 そして、信じられない場合は、きっと、これらの研究を否定するような報告もどこかにはあることでしょうから、探してみてください。私はそれをした結果、今回ここに挙げたような報告は十分信用に足る、と判断しました。

 つまり、「放射線障害は、普通に思われているよりもはるかに起こりにくい」のです。

 となると、いくつかの疑問や検討課題が出てきます。

 1つは、「なぜ放射線障害が予想以上に起こりにくいのか?」 という疑問。これには有力な仮説があります。それが、「DNA修復機構の働き」です。

 2つめに、「だったら、LNT仮説っていったい何なの?」という疑問が起きます。LNT仮説というのは、「放射線の害はどんなに低線量であってもしきい値がなく、確率的に発生する」という仮説で、現在のさまざまな放射線防護の考え方の基礎になっているものです。これが間違いである可能性が高いのではないか? ということです。

 3つめに、「だったら、放射線に関する安全基準はもっと引き上げてもいいんじゃないの?」という検討課題が浮上します。現在のさまざまな放射線防護基準は、放射線は低線量でも危険である、という前提で極端に安全側に寄せた形で決められています。もしその前提自体が間違っているなら、基準は引き上げることが可能であり、避難区域もはるかに狭く設定することができ、農産物等の出荷規制も大幅に減らすことが出来ます。

 そしてそれができるのであれば、「原子力発電所で事故が起きた場合に発生しうると想定しなければならない被害規模」は現在よりも大幅に低くなるため、原子力は危険すぎる、止めるべきだ、という論拠の一角が崩れるわけです。

 では、引き続きこれらをさらに考えていくことにします。


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