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原子力論考(11) 原発はエネルギー安全保障に有利(前編)
»2011年6月29日
開米のリアリスト思考室
原子力論考(11) 原発はエネルギー安全保障に有利(前編)
社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。
当ブログ「開米のリアリスト思考室」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/kaimai_mizuhiro/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
さて今回はエネルギー安全保障の話です。
といってもこれはたぶん普通の人にはピンと来ない話なので簡単に言うと「エネルギー安全保障」とは、
エネルギー資源の安定供給を確保することを目的としたあらゆる活動
のことを言います。
現代社会においてはあらゆる活動に何らかの「エネルギー」を使っているため、その不足は社会のあらゆる活動の停止を招き、人命の危機に直結します。このことは先の東日本大震災で何が起きたかを考えてもらえばわかります。
病院や家庭で電動の人工呼吸器を装着している患者にとって電力は文字通り生命線ですし、
電気による暖房が止まることで凍死や風邪引き、肺炎等のリスクが高くなり、
ガソリン不足で移動手段を立たれた被災地では物資輸送が滞りました
したがって、エネルギー資源の確保は、国民の生命財産を保護するための、国家の第一の任務です。これは基本的には国家レベルの仕事です。理由は3つあって、
第一に、軍事力を必要とすること
第二に、国家間交渉を必要とすること
第三に、ベスト・ミックスを追求するための戦略を必要とすること
この3点です。以下、簡単に説明します。(簡単と言いつつ長くなりますが、それぐらい複雑な問題なのです)
■ベスト・ミックスとは何か?
まずは3点目の「ベスト・ミックス」から。
エネルギーといってもいろいろな形態がありますが、大きく分けて一次エネルギー・二次エネルギー・最終用途で考えるとわかりやすいです。
一次エネルギーというのは、自然界に存在する資源そのもので、原油・石炭・天然ガスの三大化石燃料の他に原子力・水力・風力・太陽光等がここに入ります。
それを使って電力を起こしたり、精製してガソリンや重油、灯油、アルコールなどを合成したりして二次エネルギーの形に変え、それを最終用途に使います。最終用途には車や飛行機の燃料という「移動体動力源」、エアコンのコンプレッサーのようなものを動かす「静止体動力源」、料理用などの「熱源」、コンピュータを動かす「電気回路駆動」といった用途があります。(なお、このへんの用語は今テキトーにつけたので専門的には別な用語があると思います)
ベスト・ミックスとはこれらの最適な組み合わせをすることです。たとえば原子力からは電気しか生み出せませんが、原油はそこから電力・ガソリン・重油・灯油など多様な二次エネルギーを生成できます。その意味で原油は便利な資源ですが、CO2等の問題やコストの問題などがあり、1次エネルギー・2次エネルギーともに完璧なものはなくそれぞれ一長一短抱えています。それをうまく組み合わせることで、国家レベルで全体最適な形に持っていくのが「ベスト・ミックス」というわけです。
現在は車の燃料としてはガソリンが多く使われていますが、これを電気に変えて発電を原子力または再生可能エネルギーで行うようにすれば、少なくとも走行時の化石燃料使用は押さえられます。
あるいは、コンパクトシティー構想にその例があるように、都市構造の設計から考えて「自動車の必要性を減らした都市」を作ればその分、化石燃料の使用は減らせます。
こういうベスト・ミックスの実現は市場メカニズムだけではうまくいかないため、国家レベルの政策が必要なんですね。
重要なのは、それぞれの長所短所をわきまえて「ベスト・ミックス」を探ることであり、「原子力はもういらない!」と最初からひとつの選択肢を捨ててしまうべきではありません。
■国家間交渉とは何か?
一般の市民がガソリンを買うならGSに行ってお金を払えばいいだけですが、原油や天然ガスのような化石燃料資源は単に金を払えば買えるというものではなく、多かれ少なかれ国家のパワーが背景に必要です。
「国家のパワー」にもいろいろありますが、ひとつには、「長期安定的な取引相手としての信用力」があります。たとえばLNGは輸出側・輸入側ともに大規模な設備投資が必要なため、長期取引が基本になっており、「ずっと買い続けられる(支払能力がある)」国でなければ調達できません。
原油の場合はスポット市場がありますが、実需の大半は長期契約であり、その契約を結ぶにしても、油田権益から取得して自主開発原油を調達するにしても、きれいな言い方をすると相手国との友好関係、ざっくばらんに言うと「言うことを聞かせられるだけの交渉力」が重要です。
■軍事力は不可欠
そしてここが、普通の日本人がいちばんピンと来ないところだと思いますが、エネルギー安全保障にもっとも不可欠なもの、それは「軍事力」です。
ハッキリ言えば、現在の日本のエネルギー安全保障はアメリカ軍と日米安全保障条約によって支えられています。
・・・という、現実を見据えた議論がこれまで日本では表だって行われてきませんでした。「戦争放棄」というお題目を唱えていれば戦争は起こらない・・・わけはないのです。
世界には「安全を阻害する要因」は無数に存在しています。その中で安全を確保し国民の生命財産を保護するためには、一定レベルの軍事力は不可欠である、ということをまず認識しましょう。
■「軍事力」それ自体を敵視していた社会党・共産党系グループ
原子力論考(9)(10)で、過去の反原発運動を主導してきたのが社会党・共産党系のグループであるということを書きました。この2グループは同時に自衛隊とアメリカ軍を敵視してきた集団でもあり、ことあるごとに自衛隊叩き、米軍叩きを繰り返してきました。
いったいそれは何のためだったのでしょう?
冒頭で書いたように、エネルギー安全保障は国民の生命財産の安全を確保するために不可欠です。
そしてエネルギー安全保障のカナメは軍事的な安定です。このこと自体を認めたくない人が一定数いるのはわかっていますが、これが現在の世界のまぎれもない現実であり、その現実に目を向けずに「友愛」を叫ぶような人物にはとうてい一国の首相は務まりません。
ところがその「軍事的な安定」を妨害する活動ばかり熱心にやっていたのが社会党・共産党系のグループです。彼らの「反原発運動」もその一環だったと考えざるを得ません。
■安全保障面において原子力には大きなメリットがある
実は、安全保障という観点において原子力には大きなメリットがあります。それは、
核燃料は一度装荷したら1年以上燃料補給不要で動かし続けられる
ということです。現在、日本の原子力発電所は連続運転13ヶ月ごとに定期点検をするよう法律で定められているためそれ以上の連続稼働は行いませんが、実際にはこんなに短いのは日本ぐらいで、世界的には24ヶ月、つまり2年間連続稼働させるのが普通です。つまり核燃料は「燃料供給の短期的な途絶に強い」ということ。これが大きな強みです。
これが原油だと、たとえば最近10年間の日本の石油輸入量は2億kl 台前半で、これは20万トンタンカーで約1000隻以上、少なくとも1日に2隻は日本向けの原油を積んだ大型タンカーがホルムズ海峡を通過している計算です。
もし仮に再び中東で戦争が起きてホルムズ海峡が封鎖されたらどうなりますか?
国家と民間と合わせて200日分程度の備蓄石油はありますが、半年程度でそれが尽きたら日本は終わりです。化石燃料はとにかく必要な量が多く、調達・輸送・備蓄のどの局面でも多大な脆弱性を抱えています。その点、ウランなら圧倒的に少量で済み、13ヶ月以上の連続稼働が可能なため、安全保障面では大変大きなメリットがあるわけです。
■開米の原子力論考一覧ページを用意しました。
→原子力論考 一覧ページ
といってもこれはたぶん普通の人にはピンと来ない話なので簡単に言うと「エネルギー安全保障」とは、
エネルギー資源の安定供給を確保することを目的としたあらゆる活動
のことを言います。
現代社会においてはあらゆる活動に何らかの「エネルギー」を使っているため、その不足は社会のあらゆる活動の停止を招き、人命の危機に直結します。このことは先の東日本大震災で何が起きたかを考えてもらえばわかります。
病院や家庭で電動の人工呼吸器を装着している患者にとって電力は文字通り生命線ですし、
電気による暖房が止まることで凍死や風邪引き、肺炎等のリスクが高くなり、
ガソリン不足で移動手段を立たれた被災地では物資輸送が滞りました
したがって、エネルギー資源の確保は、国民の生命財産を保護するための、国家の第一の任務です。これは基本的には国家レベルの仕事です。理由は3つあって、
第一に、軍事力を必要とすること
第二に、国家間交渉を必要とすること
第三に、ベスト・ミックスを追求するための戦略を必要とすること
この3点です。以下、簡単に説明します。(簡単と言いつつ長くなりますが、それぐらい複雑な問題なのです)
■ベスト・ミックスとは何か?
まずは3点目の「ベスト・ミックス」から。
エネルギーといってもいろいろな形態がありますが、大きく分けて一次エネルギー・二次エネルギー・最終用途で考えるとわかりやすいです。
一次エネルギーというのは、自然界に存在する資源そのもので、原油・石炭・天然ガスの三大化石燃料の他に原子力・水力・風力・太陽光等がここに入ります。
それを使って電力を起こしたり、精製してガソリンや重油、灯油、アルコールなどを合成したりして二次エネルギーの形に変え、それを最終用途に使います。最終用途には車や飛行機の燃料という「移動体動力源」、エアコンのコンプレッサーのようなものを動かす「静止体動力源」、料理用などの「熱源」、コンピュータを動かす「電気回路駆動」といった用途があります。(なお、このへんの用語は今テキトーにつけたので専門的には別な用語があると思います)
ベスト・ミックスとはこれらの最適な組み合わせをすることです。たとえば原子力からは電気しか生み出せませんが、原油はそこから電力・ガソリン・重油・灯油など多様な二次エネルギーを生成できます。その意味で原油は便利な資源ですが、CO2等の問題やコストの問題などがあり、1次エネルギー・2次エネルギーともに完璧なものはなくそれぞれ一長一短抱えています。それをうまく組み合わせることで、国家レベルで全体最適な形に持っていくのが「ベスト・ミックス」というわけです。
現在は車の燃料としてはガソリンが多く使われていますが、これを電気に変えて発電を原子力または再生可能エネルギーで行うようにすれば、少なくとも走行時の化石燃料使用は押さえられます。
あるいは、コンパクトシティー構想にその例があるように、都市構造の設計から考えて「自動車の必要性を減らした都市」を作ればその分、化石燃料の使用は減らせます。
こういうベスト・ミックスの実現は市場メカニズムだけではうまくいかないため、国家レベルの政策が必要なんですね。
重要なのは、それぞれの長所短所をわきまえて「ベスト・ミックス」を探ることであり、「原子力はもういらない!」と最初からひとつの選択肢を捨ててしまうべきではありません。
■国家間交渉とは何か?
一般の市民がガソリンを買うならGSに行ってお金を払えばいいだけですが、原油や天然ガスのような化石燃料資源は単に金を払えば買えるというものではなく、多かれ少なかれ国家のパワーが背景に必要です。
「国家のパワー」にもいろいろありますが、ひとつには、「長期安定的な取引相手としての信用力」があります。たとえばLNGは輸出側・輸入側ともに大規模な設備投資が必要なため、長期取引が基本になっており、「ずっと買い続けられる(支払能力がある)」国でなければ調達できません。
原油の場合はスポット市場がありますが、実需の大半は長期契約であり、その契約を結ぶにしても、油田権益から取得して自主開発原油を調達するにしても、きれいな言い方をすると相手国との友好関係、ざっくばらんに言うと「言うことを聞かせられるだけの交渉力」が重要です。
■軍事力は不可欠
そしてここが、普通の日本人がいちばんピンと来ないところだと思いますが、エネルギー安全保障にもっとも不可欠なもの、それは「軍事力」です。
ハッキリ言えば、現在の日本のエネルギー安全保障はアメリカ軍と日米安全保障条約によって支えられています。
・・・という、現実を見据えた議論がこれまで日本では表だって行われてきませんでした。「戦争放棄」というお題目を唱えていれば戦争は起こらない・・・わけはないのです。
世界には「安全を阻害する要因」は無数に存在しています。その中で安全を確保し国民の生命財産を保護するためには、一定レベルの軍事力は不可欠である、ということをまず認識しましょう。
■「軍事力」それ自体を敵視していた社会党・共産党系グループ
原子力論考(9)(10)で、過去の反原発運動を主導してきたのが社会党・共産党系のグループであるということを書きました。この2グループは同時に自衛隊とアメリカ軍を敵視してきた集団でもあり、ことあるごとに自衛隊叩き、米軍叩きを繰り返してきました。
いったいそれは何のためだったのでしょう?
冒頭で書いたように、エネルギー安全保障は国民の生命財産の安全を確保するために不可欠です。
そしてエネルギー安全保障のカナメは軍事的な安定です。このこと自体を認めたくない人が一定数いるのはわかっていますが、これが現在の世界のまぎれもない現実であり、その現実に目を向けずに「友愛」を叫ぶような人物にはとうてい一国の首相は務まりません。
ところがその「軍事的な安定」を妨害する活動ばかり熱心にやっていたのが社会党・共産党系のグループです。彼らの「反原発運動」もその一環だったと考えざるを得ません。
■安全保障面において原子力には大きなメリットがある
実は、安全保障という観点において原子力には大きなメリットがあります。それは、
核燃料は一度装荷したら1年以上燃料補給不要で動かし続けられる
ということです。現在、日本の原子力発電所は連続運転13ヶ月ごとに定期点検をするよう法律で定められているためそれ以上の連続稼働は行いませんが、実際にはこんなに短いのは日本ぐらいで、世界的には24ヶ月、つまり2年間連続稼働させるのが普通です。つまり核燃料は「燃料供給の短期的な途絶に強い」ということ。これが大きな強みです。
これが原油だと、たとえば最近10年間の日本の石油輸入量は2億kl 台前半で、これは20万トンタンカーで約1000隻以上、少なくとも1日に2隻は日本向けの原油を積んだ大型タンカーがホルムズ海峡を通過している計算です。
もし仮に再び中東で戦争が起きてホルムズ海峡が封鎖されたらどうなりますか?
国家と民間と合わせて200日分程度の備蓄石油はありますが、半年程度でそれが尽きたら日本は終わりです。化石燃料はとにかく必要な量が多く、調達・輸送・備蓄のどの局面でも多大な脆弱性を抱えています。その点、ウランなら圧倒的に少量で済み、13ヶ月以上の連続稼働が可能なため、安全保障面では大変大きなメリットがあるわけです。
■開米の原子力論考一覧ページを用意しました。
→原子力論考 一覧ページ