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解決編:「直ちに影響はありません」を図解してしまえ

解決編:「直ちに影響はありません」を図解してしまえ

開米 瑞浩

社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。

当ブログ「開米のリアリスト思考室」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/kaimai_mizuhiro/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


複雑な情報を構造化してわかりやすく表現する技をひたすら追求する、知識の構造化職人こと開米瑞浩です。

前号で書いた「直ちに影響はありません を図解してしまえ」の解決編でございます。

(注:以下の記述は、単純化のために「毒物摂取の累積量によって健康に影響が出る」というモデルを仮定していますが、実際には人体には毒物を分解・排出する機構があり、ダメージを修復する働きもあるため、この通りにはなりません。あくまでも、候補3の意味を感覚的に把握して「心配ない」と理解を得るためのわかりやすい説明方法の例として読んでください)


■累積量グラフを使う

 仮に、ある毒物を累積で3,000単位摂取すると人体にわずかに有害な影響があるとしましょう。
 3,000単位以下では、有害性は「まったくない」と確認されているとします。

 仮にホウレンソウ1kgあたりその毒物が1単位含まれているとすると、1日当たり1kgを1年食べ続けたとしても累積で365単位です。有害なレベルにはほど遠いですね。

 1日あたり1kgのホウレンソウを食べるというのもありえませんが、さらにありえない「1日10kg」を1年間食べ続けたら? これでようやく3,650単位になって、「わずかな有害性」の恐れがある量になります。
 こういった時間軸と量の関係を視覚化した一例が下記のグラフです。

<累積摂取量グラフ>


 候補3の内容、「短期的には影響はない。長期的には、このホウレンソウを毎日大量に1年食べ続けたときには影響が出る恐れがあるが、そういうことはありえないだろうから長期的にもやはり影響はない」を説明するときには、この累積摂取量グラフを使うのが有効です。

 候補1 「短期間では影響は出てこないが、長期的には出る可能性がある」 については、意味の解釈が2通りあります。

解釈1:1日当たりの摂取量が比較的大きくて、長期間摂取し続けると累積量が限度を超える可能性がある
解釈2:1日当たりの摂取量が小さいので、短期的にも長期的にも「ほとんどの人には影響はない」が、数少ないながらまれに影響が出る人がいる場合もある。

 解釈2のほうは放射線防護に関する「確率的影響」の考え方です。これは問題の性質が違うので別な文書にて検討します。本書では解釈1のほうについてだけ書きます。

 解釈1は結局、累積量の問題なので、累積摂取量グラフが使えます。



 これで候補1と候補3の違いは見えますね。

 候補2については短期だろうが長期だろうがまったく問題ないと言っているわけですから、グラフを出す必要もありません。何の心配もいりませんので好きなだけ食べてください、で大丈夫です。

■補足

 今回の例題は「時間軸」と「累積量」が関係するものでした。実はこういう「時間軸によって影響が変わるもの」「累積量を考えなければいけないもの」を把握することを苦手としている人は少なくありません。そこで、それを面積で示すような視覚化が効果的なわけです。

 前号で、候補1の例として 「少し極端な例で言うと、「この1週間は何もないだろうけれど、10年後に発がんする可能性は否定できない」というような意味」 と書きましたがこれは確率的影響の話なので例としてイメージが違うものでした。ごめんなさい。この話は別途書きます。

 ちなみに、「短期間の過剰摂取は問題ないけれども、それを長期継続することは好ましくない」とされる毒物は少なくありません。・・・というより食品というのはたいていがそういうものです。食塩やアルコールが有名ですね。