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知識レベルの違う相手への説明その2:目的志向のロジック整理

知識レベルの違う相手への説明その2:目的志向のロジック整理

開米 瑞浩

社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。

当ブログ「開米のリアリスト思考室」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/kaimai_mizuhiro/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


 こんにちは。開米瑞浩です。

 一昨日書いた「知識レベルの違う相手への説明」の続編です。
 知識レベルの違う人に説明をするのが難しい、という場合、手っ取り早い解決法はないので地道にやるしかない、そしてその地道な方法の1つ目は「用語ギャップの確認と対応」だ、という話を前回書きました。

 今回は、2つめの「目的志向のロジック整理」についてです。
 まずはこんな会話をご覧いただきましょう。

夫:今年の冬の暖房はエアコンよりも石油ストーブにしようよ
妻:えっ? どうして?
夫:そのほうが燃料費安くつくし
妻:うーん、そうねえ・・・
夫:スルメも焼けるだろ
妻:スルメってあんた(笑)
夫:それに見た目も暖かいじゃないか、石油ストーブのほうが。
妻:結局「安い」しか理由になってないじゃないの。まあでも考えてみましょ。

 「スルメが焼ける」を理由に持ち出す夫もどうかと思いますが、奥様のほうは冷静ですね。あ、この「夫」は私のことではありません。念のため(笑)
 さて、この「夫」の話からロジックツリーのようなものを作ってみます。



 「石油ストーブを使おう」という「主張」に、「理由」を3つ挙げてますね。さらにそれぞれの「理由」に補足説明を付けるとしたらこういうことではないか、という情報を「補足」として追加しておきました。

 さて、ここで考えたいのは、

    AさんがBさんに話をする場合、話を聞くBさんの目的によって、
    話すべき範囲が変わってくる

 ということです。

 たとえば、前述の夫と妻の会話がもしこうだったらどうでしょうか?

夫:今年の冬の暖房はエアコンよりも石油ストーブにしようよ
妻:うんわかった。そうしましょう

 この場合、「妻」のほうは「結論(主張)だけ分かればいい。理由はいらない」というモードですね。BさんがAさんを信頼して任せている、というときは「手短に結論だけ言ってくれ。その通りにするよ」という形になります。
 こういう時はその通り「結論(主張)」だけ話すべきで、いちいち細かい理由は言わなくても話が通じます。

 しかし世の中そういう場合は少ないので、たいていは「理由」が必要になります。それも、Bさんの目的次第で「理由」の語るべき範囲が違ってくるんですね。


■「理由」の要点だけを確認したいという場合
 仮に上記夫婦の会話で「妻」のほうがこんな意識を持っていたらどうでしょうか?

    石油ストーブは子供が火傷をしたり火事を出す危険がある。
    一方、お金には困ってないから支出を減らす必要はない。

 もし「妻」がこういう意識でいた場合、会話はこんな展開になるはずです。

夫:今年の冬の暖房はエアコンよりも石油ストーブにしようよ
妻:えっ? どうして?(どうせ安く付くとか言うんでしょ)
夫:そのほうが燃料費安くつくし
妻:その必要はありません(ピシ!)

 いや、奥さん手厳しいですね、「僕の試算によると毎月○千円浮くんだよ!」と夫が補足を喋るまもなく却下されてしまいました(笑)

 この場合、「安く付く」というのが妻の想定の範囲内で、それには興味がないというスタンスだったため、「具体的にいくら」という補足部分は聞くまでもないことになります。
 一方で、「理由」が想定の範囲外だと話は違ってきます。

夫:今年の冬の暖房はエアコンよりも石油ストーブにしようよ
妻:えっ? どうして?(どうせ安く付くとか言うんでしょ)
夫:そのほうが健康にいいみたいなんだよね
妻:えっえっ? なに、どういうこと?
夫:それに子供の教育にもそっちのほうがいいと思うんだ
妻:えええっ? ちょっとどういうことよ!?

 「理由」が想定外だったので、奥さんはもっと詳しい話を聞きたがっています。
 こうして「ちょっとあなた詳しい話教えてよ!!」というモードに入った人なら、「補足」の話を聞いてもらえるようになります。
 ビジネスコミュニケーションではこのように「主張(結論)→理由→理由の補足」という順番が基本です。ただしこれはあくまでも仕事の話をする場合のことで、日常生活の雑談において「交流を楽しむ」ための会話では話はまったく違ってきます。

夫:あのさ、こんな話聞いたんだけど
妻:なーに?
夫:なんかねー、最近の子供って体温の調節能力が落ちてるんだって
妻:えー?
夫:いっつもエアコンで快適な温度で生活しちゃってるから暑さ寒さに身体がついていけない子が増えてるんだってさ(*1)
妻:ほんと? ちょっとどうしようそれって良くないじゃない

 こんなふうに、日常的なおしゃべりを楽しむシーンでは、「補足」レベルの情報から始まって、あちこち脱線しながらいつの間にか「じゃ、石油ストーブにしよう」という結論が出ます。しかし同じことをビジネス会話でやると

先に結論と要点を言えよ!
話のくどいやつだなあ、何言いたいのかさっぱりわからん

・・・と思われてしまうわけです。

■相手の意識、目的に応じて論点を整理しておく

 というわけで、話をする相手が何を意識しているか、何を目的に自分の話を聞こうとしているのかを考えて、それに応じて適切な組み立てで話が出来るように論点を整理しておかなければなりません。

    「判断は任せるから結論だけ教えてよ。その通りにするから」 なのか?
    「主張と理由の要点を聞きましょう。あとはそれから」なのか?
    「楽しくおしゃべりしたい」なのか?
    「あなたがどれだけ深く考えているのか確認したい」なのか?
    「選択肢とそのメリットデメリット評価を知りたい。結論は私が出す」なのか?

 他にもいろいろなバリエーションがあります。相手が具体的にどんな意識で話を聞こうとしているのか、それを考えて、何を話すべきかをまとめておきましょう。
 そのために役に立つのがロジックツリーです。ロジカルシンキングの定番なのでここでは詳しく解説しませんが、要は「主張」に対して「理由」を階層的にぶら下げるだけの構造です。「主張+理由」以外のパターンもありますが、詳しくは論理思考を扱っているサイトや書籍で確認してください。


■「補足」に力を入れすぎると聞いてもらえなくなります


 ちなみに、技術者がよくやりがちなのが「補足」的な情報に力を入れすぎて、主張と理由がぼやけてしまうというもの。技術者の職務の特性上、そうしたくなるのはしかたがないのですが、これをやると「先に結論と要点を言えよ!」と思われてしまいます。「知識レベルの違う相手」は、求める説明もまた違うものです。「技術的な明細は、それを求められたときにだけ話す」というぐらいの姿勢で考えておくのがいちばん無難でしょう。

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