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原子力論考(18)電力会社に依存しない生活は可能か?-1
»2011年9月14日
開米のリアリスト思考室
原子力論考(18)電力会社に依存しない生活は可能か?-1
社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。
当ブログ「開米のリアリスト思考室」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/kaimai_mizuhiro/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
原子力論考もまだまだ続けます。
さて昨日(2011/09/13)、テレビ東京「ガイアの夜明け」にて、ある住宅建設会社が社長の自宅で「電力購入ゼロ生活」をする実験を紹介していました。これがどれぐらい可能性があるのか、考えてみることにしましょう。
こういうことを考えるのは、「自分で考える力」を伸ばすためのトレーニングにもなりますので、その観点で(一種のロジカルシンキングの題材として)ご参照ください。
■問いを立てる
「考える」のは、何らかの問題に対して答えを出すためです。
そこでまずは「問題」を明文化します。
と、こんなふうに「YES/NO」を問うような形で「問い」を立てることが「問題を明文化する」ことになります。 問いの種類は必ずしも「YES/NO」に限らず、「今年の電力消費量はいくらになるか?」といった数字で出すことを目指す場合もあります。いずれにしても何らかの答えを求める疑問形です。
さてこのような「問い」を立てる場合、制約条件の設定が重要です。「可能です。ただし年間1000万円かければ」というのでは困るわけで、Q1にはたとえば投入コストを制約条件として与えなければいけないでしょう。そこで問いを変更します。
年間20万円というのは一般家庭が払う電力料金としてはかなり高いと思われますが、とりあえずこう設定してみましょう。現実には、高くなるならやる意味はないので、普通に電力料金を払うよりも低いコストで済むように設定すべきですが、実験目的で行うので多少高くても良い、といった理由付けをすることにして、高めにしておきます。
さて、ここまででのところで既に「自分で考える力を伸ばすためのポイント」が2つ出てきました。
問いを立てる
問いには制約条件をつけておく
の2点です。これを頭の中だけでやっているとどうしても忘れるので、「書く」ようにするといいですね。(「書く」ことを馬鹿にしているのか面倒くさがるのか、やらない人が意外に多いです)
■制約条件を設定するためには知識と経験が必要
ところで、制約条件にはよくあるパターンがあります。
たとえば既に出た「コスト」もそうですし、「品質」や「効率」が出てくる場合もありますね。こうした制約条件を適切に設定してやるためには、それなりの「知識と経験」が必要です。
「パソコンを買うなら必要なCPUとメモリとHDD量を決めなければいけない」とか、「プロジェクトは納期とコストとクオリティで考える」など、分野によって定番となる制約条件があるもので、それを決めるためには「知識」が絶対に必要です。ただし、単に教科書に書いてあったのを覚えたとか、ネットでぐぐったら出てきたという知識ではあまり役に立たないので、経験の裏付けが必要ですね。
さて、こうした制約条件を適切に設定できると問題解決の効率が格段に上がりますが、では「制約条件を適切に設定できる能力」はどうすれば身につくでしょうか?
ここで、次の図を見てみましょう。
■使える「知識」を総動員するために必要なのは?
上部の四角い箱の中は「問題解決に至る思考プロセス」です。問いを立てて、制約条件を加えて、答えを探す、というこの3ステップに単純化して書いてあります。
この中の「制約条件を加える」のところで、分野ごとの専門知識が必要なわけですが、これに影響する要因が3つあります。「本人の関連知識」「相談役の関連知識」そして「言語化する能力」の3つです。
「本人の関連知識」というのは文字通り、問題を解決するために自分で考えようという本人の知識です。まずはこれがある程度ないことには話になりません。
次に「相談役」というのは、これは誰でもいいんです。隣の先輩でも、ネットの誰かでも、あるいは書籍でも。つまりは本人の知識の不足を補ってくれる誰かですね。
「自分で考える」ことは大事ですが、それはべつに「自分の知識だけで考えることが大事」という意味ではないので、自分が知らないことについてはそれを自覚して必要な知識を教えてもらえばいいわけです。少なくとも勉強を始めたうちは「自分の知識」なんて乏しいに決まっているので、あの手この手で他人の知識を引っ張り出してそれを自分のものにしていかなければなりません。
では、「あの手この手で他人の知識を引っ張り出す」ために何が必要か。
ここで登場するのが「言語化する能力」ですね。
頭の中で考えるだけじゃなく、言葉にしましょう、「書き」ましょう、ということです。
言葉にする、と言っても「喋る」だけじゃダメで、「書く」ことが重要です。喋るだけだと論理的な間違いを検証しにくいからです。ネットの向こうの誰かに聞きたいときも、文字にしなければいけませんね。「書く」のが大事な理由の一部はそれです。
ところが、改めて強調しておくと
■「電力会社に依存しない生活」の問いを立てると
さてそれではこのへんで問いを確定してみましょう。
Q3:電力会社から電力を購入せずに生活することは可能か?
<制約条件>
投入コスト:年間20万円まで
瞬間最大電力:100V30Aを確保可能であること
1日あたり平均電力量:20kWh/日 を1週間継続可能なこと
停電許容率:1年間につき24時間まで
連続4日間の雨天に対応可能なこと
おや、ずいぶんと制約条件が増えました。
「瞬間最大電力」は、一時的にどれだけの電力を供給できるかです。真夏の日中にクーラーをつけながらTVを見たり料理をするシーンを想定しています。
30A、というのは我が家の契約がそこまでなのでそれで設定しました。20Aで間に合う家庭も少なくないはずですが、うちではこれでもたまにブレーカーが落ちます。普通はこれだけあれば十分ですが、逆にこれが無理だと真夏のクソ熱いときにクーラーが使えない、という意味で生活の質を落とすことが前提になります。
「1日当たり平均電力量」というのは、1日の通算でどれだけの電力を消費するかです。真夏に1週間連続で晴天が続くようなケースを想定して「20kWh/日を一週間」と設定しました。
「停電許容率」は、文字通りどれぐらいなら停電してもいいかです。ちなみに経済産業省産業構造審議会情報経済分科会のレポートによると、日本の停電率は年間4分で、ドイツ37分やアメリカ97分に比べて圧倒的に低くなっています。年間24時間というのはアメリカに比べても大甘な条件ですが、しかし機械というのは故障するものです。故障時にメンテナンス会社を呼ぶことを考えると24時間ぐらいはみておかないと非現実的でしょう。
最後が「連続4日間の雨天に対応可能なこと」。電力会社から電気を買わない場合、自家発電の手段は主に太陽光発電と考えられるためこの条件をつけました。実際には季節によっては一週間続けて日が差さないケースも十分考えられますが、少し条件を甘くしてあります。
以上、これで「問いを立てて制約条件を決める」の完了です。
このような「問い」を自分で立てられるかどうか? それが「自分で考える」ことができるかどうかの最初の分かれ目です。
「考える力のない人」は、「自分で問いを立てる」ということがどんなことかをそもそも知らないという場合がよくあります。一度もやったことがなく、やれと指導されたこともなければ、そりゃできなくて当然です。
でも、「制約条件付きで問いを立てる、それを明文化してから考える」というこの方法には、リクツとして難しいところは何もありません。四の五の言う前にやってみましょう。1日5分でいいから毎日一度はやってみるようにすれば、できるようになっちゃいますよ?
さて、それではとりあえずこれ(Q3)が可能かどうかを考えてみることにしましょう。
(つづく)
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さて昨日(2011/09/13)、テレビ東京「ガイアの夜明け」にて、ある住宅建設会社が社長の自宅で「電力購入ゼロ生活」をする実験を紹介していました。これがどれぐらい可能性があるのか、考えてみることにしましょう。
こういうことを考えるのは、「自分で考える力」を伸ばすためのトレーニングにもなりますので、その観点で(一種のロジカルシンキングの題材として)ご参照ください。
■問いを立てる
「考える」のは、何らかの問題に対して答えを出すためです。
そこでまずは「問題」を明文化します。
Q1:電力会社から電力を購入せずに生活することは可能か?
と、こんなふうに「YES/NO」を問うような形で「問い」を立てることが「問題を明文化する」ことになります。 問いの種類は必ずしも「YES/NO」に限らず、「今年の電力消費量はいくらになるか?」といった数字で出すことを目指す場合もあります。いずれにしても何らかの答えを求める疑問形です。
さてこのような「問い」を立てる場合、制約条件の設定が重要です。「可能です。ただし年間1000万円かければ」というのでは困るわけで、Q1にはたとえば投入コストを制約条件として与えなければいけないでしょう。そこで問いを変更します。
Q2:電力会社から電力を購入せず、年間20万円以下のコストで電力を自力でまかなって生活することは可能か?
年間20万円というのは一般家庭が払う電力料金としてはかなり高いと思われますが、とりあえずこう設定してみましょう。現実には、高くなるならやる意味はないので、普通に電力料金を払うよりも低いコストで済むように設定すべきですが、実験目的で行うので多少高くても良い、といった理由付けをすることにして、高めにしておきます。
さて、ここまででのところで既に「自分で考える力を伸ばすためのポイント」が2つ出てきました。
問いを立てる
問いには制約条件をつけておく
の2点です。これを頭の中だけでやっているとどうしても忘れるので、「書く」ようにするといいですね。(「書く」ことを馬鹿にしているのか面倒くさがるのか、やらない人が意外に多いです)
■制約条件を設定するためには知識と経験が必要
ところで、制約条件にはよくあるパターンがあります。
たとえば既に出た「コスト」もそうですし、「品質」や「効率」が出てくる場合もありますね。こうした制約条件を適切に設定してやるためには、それなりの「知識と経験」が必要です。
「パソコンを買うなら必要なCPUとメモリとHDD量を決めなければいけない」とか、「プロジェクトは納期とコストとクオリティで考える」など、分野によって定番となる制約条件があるもので、それを決めるためには「知識」が絶対に必要です。ただし、単に教科書に書いてあったのを覚えたとか、ネットでぐぐったら出てきたという知識ではあまり役に立たないので、経験の裏付けが必要ですね。
さて、こうした制約条件を適切に設定できると問題解決の効率が格段に上がりますが、では「制約条件を適切に設定できる能力」はどうすれば身につくでしょうか?
ここで、次の図を見てみましょう。
■使える「知識」を総動員するために必要なのは?
上部の四角い箱の中は「問題解決に至る思考プロセス」です。問いを立てて、制約条件を加えて、答えを探す、というこの3ステップに単純化して書いてあります。
この中の「制約条件を加える」のところで、分野ごとの専門知識が必要なわけですが、これに影響する要因が3つあります。「本人の関連知識」「相談役の関連知識」そして「言語化する能力」の3つです。
「本人の関連知識」というのは文字通り、問題を解決するために自分で考えようという本人の知識です。まずはこれがある程度ないことには話になりません。
次に「相談役」というのは、これは誰でもいいんです。隣の先輩でも、ネットの誰かでも、あるいは書籍でも。つまりは本人の知識の不足を補ってくれる誰かですね。
「自分で考える」ことは大事ですが、それはべつに「自分の知識だけで考えることが大事」という意味ではないので、自分が知らないことについてはそれを自覚して必要な知識を教えてもらえばいいわけです。少なくとも勉強を始めたうちは「自分の知識」なんて乏しいに決まっているので、あの手この手で他人の知識を引っ張り出してそれを自分のものにしていかなければなりません。
では、「あの手この手で他人の知識を引っ張り出す」ために何が必要か。
ここで登場するのが「言語化する能力」ですね。
頭の中で考えるだけじゃなく、言葉にしましょう、「書き」ましょう、ということです。
言葉にする、と言っても「喋る」だけじゃダメで、「書く」ことが重要です。喋るだけだと論理的な間違いを検証しにくいからです。ネットの向こうの誰かに聞きたいときも、文字にしなければいけませんね。「書く」のが大事な理由の一部はそれです。
ところが、改めて強調しておくと
「書く」ことを馬鹿にしているのか面倒くさがるのか、やらない人が意外に多いのです。もったいないですね。その分、成長の機会を失っています。1日に5分だけでもいいので面倒くさがらずにやりましょう。なに、毎日5分だけでもやっていればそれが日常になってラクラクやれるようになります。人間は成長するものですから。
■「電力会社に依存しない生活」の問いを立てると
さてそれではこのへんで問いを確定してみましょう。
Q3:電力会社から電力を購入せずに生活することは可能か?
<制約条件>
投入コスト:年間20万円まで
瞬間最大電力:100V30Aを確保可能であること
1日あたり平均電力量:20kWh/日 を1週間継続可能なこと
停電許容率:1年間につき24時間まで
連続4日間の雨天に対応可能なこと
おや、ずいぶんと制約条件が増えました。
「瞬間最大電力」は、一時的にどれだけの電力を供給できるかです。真夏の日中にクーラーをつけながらTVを見たり料理をするシーンを想定しています。
30A、というのは我が家の契約がそこまでなのでそれで設定しました。20Aで間に合う家庭も少なくないはずですが、うちではこれでもたまにブレーカーが落ちます。普通はこれだけあれば十分ですが、逆にこれが無理だと真夏のクソ熱いときにクーラーが使えない、という意味で生活の質を落とすことが前提になります。
「1日当たり平均電力量」というのは、1日の通算でどれだけの電力を消費するかです。真夏に1週間連続で晴天が続くようなケースを想定して「20kWh/日を一週間」と設定しました。
「停電許容率」は、文字通りどれぐらいなら停電してもいいかです。ちなみに経済産業省産業構造審議会情報経済分科会のレポートによると、日本の停電率は年間4分で、ドイツ37分やアメリカ97分に比べて圧倒的に低くなっています。年間24時間というのはアメリカに比べても大甘な条件ですが、しかし機械というのは故障するものです。故障時にメンテナンス会社を呼ぶことを考えると24時間ぐらいはみておかないと非現実的でしょう。
最後が「連続4日間の雨天に対応可能なこと」。電力会社から電気を買わない場合、自家発電の手段は主に太陽光発電と考えられるためこの条件をつけました。実際には季節によっては一週間続けて日が差さないケースも十分考えられますが、少し条件を甘くしてあります。
以上、これで「問いを立てて制約条件を決める」の完了です。
このような「問い」を自分で立てられるかどうか? それが「自分で考える」ことができるかどうかの最初の分かれ目です。
「考える力のない人」は、「自分で問いを立てる」ということがどんなことかをそもそも知らないという場合がよくあります。一度もやったことがなく、やれと指導されたこともなければ、そりゃできなくて当然です。
でも、「制約条件付きで問いを立てる、それを明文化してから考える」というこの方法には、リクツとして難しいところは何もありません。四の五の言う前にやってみましょう。1日5分でいいから毎日一度はやってみるようにすれば、できるようになっちゃいますよ?
さて、それではとりあえずこれ(Q3)が可能かどうかを考えてみることにしましょう。
(つづく)
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