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原子力論考(34)原発を止めて火力発電で補うときに想定しておかなければならないこと

»2011年12月20日
開米のリアリスト思考室

原子力論考(34)原発を止めて火力発電で補うときに想定しておかなければならないこと

開米 瑞浩

社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。

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 前回、エネルギー問題考察マップを出しましたので、今度はそれをもとに「考察」します。
 まずは、「原発を止めると何が起こるか?」を定性的に考えてみましょう。とりあえず思いつく範囲で書いてみました。



 想定としては、「原発を止めた分、火力発電で補うことで総電力量は変わらず維持」という前提です。世の急進的脱原発論者には、「今すぐに」これが可能だと主張している人もいます。

 この場合、火力発電割合を増やすわけですから、化石燃料の採掘が増えます。それを日本まで運ぶためのタンカーの稼働率も上がります。増えた消費量に見合うだけ、貯蔵施設や精製設備の稼働率も上げなければなりませんし、当然、火力発電所の稼働率も上がります。もしそれに見合うだけの設備がない場合は、その分、安定稼働が難しくなります。
 また、今夏の電力不足については揚水発電も供給力にカウントされていましたので、揚水発電の稼働率も上げざるを得ない可能性が高いです。

 これらのすべては単純に「コストアップ要因」でもありますし、長い目で見たときには限りある資源である化石燃料の枯渇を加速させます。
 まあ、発電用燃料として消費が増えるのは石炭と天然ガスと思われるので、石油に比べると資源量には余裕があるでしょうが、それでも「枯渇性資源」であることには変わりありません。

 さらに、NOxやSOx等の排出も増えます。最新の火力発電所はこれら大気汚染物質の排出量も極端に少なくなっているはずですが、電力需要をまかなうために古い設備を再稼働させたらどうなるのでしょうか? 私もその答えは知りませんが、少なくともチェックしておく必要がある、ということはわかります。
 ちなみに、今年の夏は光化学スモッグ警報多く出たような記憶があります(が、記憶違いかもしれません)。

 もちろんCO2の排出は当然増えます。CO2が地球温暖化に影響するのか? については正直真偽不明ですが、とりあえず京都議定書的にマズイ事態なのは確かですね。

 さらに、あまり知られていませんが、火力発電、特にその主力である石炭火力発電は実は原発以上に大量の放射性物質を環境中に排出します。これは石炭自体に含まれる放射性物質があるからです。(過酷事故時の原発との比較ではなく、平常運転中の原発との比較でですが)
 さて、現在「1ベクレルたりとも許せない」と過激な主張をしている急進的脱原発論者は、火力発電由来の放射性物質は認めるのでしょうか?

 もうひとつ大きな問題になりうるのは、「需要変動対応余力が減少し、大規模停電の恐れが上がる」ということです。電力というのは「溜めておけない」ため、需要と「同時・同量」を発電しなければならないという宿命があります。
 原発がある間は、原発をフル稼働させて24時間必要なベース電力を供給させつつ、変動させやすい火力発電を調節して需要変動に対応していました。原発を止めると、その調整余力が減ることになります。
 この問題は揚水発電の稼働率を上げるとさらに深刻になります。「揚水発電」というのは実は「大規模な需要変動への機敏な対応能力が最も高い」電源なので、需要の急増に対する効果的な備えでした。実際、1987年7月23日に「昼休み終了後の急激な需要増に対応できず、首都圏大停電が発生」した後、再発防止策のひとつとして揚水発電能力が増強されてきた経緯があります。
 揚水発電をそうした「緊急予備」としてではなく、常備兵力として見込んでしまうと、いざというときの需要変動対応余力が減り、大停電を引き起こす恐れが高くなるのではないでしょうか?

 少なくとも私が思いつく限り以上のようなポイントを定量的に詳しく検証する必要があります。(もちろん、私は電力の素人なので、プロの目からするとこれ以外にもあることでしょう)

 実際に「原発を今すぐ止めても、火力発電で対応できる」と主張している人がこれらにどう答えているのか、その検証は私もまだこれからです。が、とりあえず少なくともこれを確かめる必要がある、ということは言ます。
 一般の人ならともかく、例えばエネルギー問題の研究者を名乗るような人や組織がそれをせずに「原発を止めても大丈夫」と主張してはいけないはずです。

(続く)


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