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「撤退」の難しさ

»2010年9月 8日
3分間ビジネスモデル

「撤退」の難しさ

斎藤 健二

DOS/V雑誌→IT系ニュース記者→ケータイ関連Webメディア創刊編集長→LifeHack系Webメディア創刊編集長→複数Webメディア発行人→スマホ事業責任者。ONETOPIボードゲームキュレーターです。Twitterアカウントは@kuzyo


 ビジネスをやっている方なら分かると思いますが、事業で最も決断が難しいのは「撤退」だと言えるでしょう。ソフトバンクの孫社長が経営戦略を講義したアカデミアのUstream中継(55分あたりとか)でも「撤退が一番難しいんじゃ!」と仰っておりました。

 合理的に考えても撤退しなければいけない事業というのは必ずあるものです。しかし華々しい新事業の立ち上げとは違い、撤退にいいイメージはありません。撤退を阻む要因っていうのはたくさんあるのです。


 ちょっと前ですが、『日経ビジネス』の2010.4.26に、「勝つための撤退」という各社が撤退にあたってどんな意思決定をしたのか、また撤退を阻むものは何なのか、という特集がありましたので、紹介します。

 冒頭に出てくるマクドナルドは、「2010年内に、全店舗の1割に相当する433店舗を閉鎖する」という撤退計画です。撤退に伴うコスト(特別損失)は実に120億円。少ない金額ではありません。実は同社の原田泳幸社長は2004年の就任直後、すでに始まっている不採算店舗の閉鎖を止めたそうです。その後、店舗あたりの売上増に注力し、2009年12月期には経常利益で前期比27%増の233億円まで業績を立て直しました。

 ここまで利益が出て初めてリストラに当たります。

 原田が待っていた撤退の「時機」とは、120億円の特別損失を計上しても最終赤字に陥らない経営体質を構築し終えるタイミングだった。「就任当時から閉めたい店はあったがぐっとこらえてきた」。原田は振り返る。
 同特集では、「撤退を阻む殺し文句」として5つの障壁が挙げられています。

  1. 「ライバルに負けるな」 撤退は売上やシェアを失う恐怖が常にあります。縮小均衡に陥ってはいけない...という思いも心をよぎるものです
  2. 「この事業はウチのDNAだ」 創業時からの事業なんかがまさにこれですね。古参の社員が多かったり、引退した元社長が手がけた事業などは、こうした配慮が撤退に踏み切れない原因になりがち。東芝が白熱電球から撤退したときも、同じような思いだったのでしょう
  3. 「そのうち利益は必ず出る」 まだ投資の時期だ...というのも同じですね。どこまでが投資なのかを判断するのは難しいものですが、株式投資と同じで損切りラインを決めておく=撤退の基準をルール化しておく というのが有効そうです
  4. 「シナジー効果がある」 ほかの事業に貢献してるんです...。これもよく出てくる言い訳です。それが本当ならば、事業間の貢献度を数値化すべきなのかもしれません。実際にはほかの事業からはあまり貢献を評価されていない場合も多いようです
  5. 「社員の受け皿がない」 伸びている新規事業があればそこに人を動かせるが、それもない。少なくとも売上を上げているのだからしばらくは継続する...。欧米企業では事業撤退と人員削減はセットのことが多いですが、日本の労働慣習では事業撤退よりも人員削減のほうが重いのです。
 冷静に合理的に考えると撤退すべきだよね、と思っても、いざ決断をする段になると、このような5つの障壁が立ちはだかり、自分に対しても社内に対しても言い訳してしまうという心理はよく分かります。この5つのコトバ、覚えておきたいですね。