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これからの"働き方"はどう変わる!?『クラウドソーシングサミット2014』に行ってきた
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これからの"働き方"はどう変わる!?『クラウドソーシングサミット2014』に行ってきた
ナレッジ・リンクス株式会社 代表、兼"走る”フリーライター。スポーツ・IT・ビジネス分野を中心に執筆や編集を手がける。2児の子持ちにて、育児奮闘中!
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2014年7月8日(火)、クラウドソーシング協会のキックオフイベントとなる「クラウドソーシングサミット2014」 が、東京都千代田区にある株式会社パソナの本社ビルで開催されました。私も経営するナレッジ・リンクス(株)が同協会に加盟しており、もちろん参加。イベントには加盟企業をはじめ、200名を超える方々が参加されたようです。サミットを通じて印象に残ったポイントを、独自の目線ながらご紹介します。
※話を聞きながらメモした情報をもとにしているため、過不足などある可能性がございます。あらかじめご容赦ください※
■クラウドソーシングの可能性
まずは同協会理事の1人である(株)クラウドワークス社長・吉田氏より、協会の活動や今後の方針についてお話がありました。
クラウドソーシング協会が発足したのは2014年5月のことですが、そもそも『クラウドソーシング』という言葉自体、一般に認知され始めたのは最近のことです。導入として、クラウドソーシングという言葉の意味【群衆(Crowd)+外注(Sourcing)】に加え、チュニジアのジャスミン革命を例に挙げながら、インターネットによる社会の変化やその可能性を示唆しました。さらに、以下のような2つのサービスを取り上げつつ、シェアリングエコノミーの誕生について触れると、
その中でクラウドソーシングが、オンラインにおいて日本中の個人のリソースをシェアできるサービスであることを説明しています。
さらに吉田氏は、クラウドソーシングを『企業が第3の矢(=人材調達)を手に入れる』方法であるとし、その利用によってオンラインで気軽に"人の力"を借りることができるとしました。そのうえで、クラウドソーシングが企業経営にもたらす2つのメリットを、次のように話しています。
- 圧倒的なコストダウン:早い(最短15分でマッチング)、安い(企業の1/10〜1/2)、質が高い
- オープンイノベーション:R&D(研究)、商品企画、マーケティング
この中で、「質が高い」という点については補足を加えました。オンライン=室が高いというイメージは必ずしも結びつかないことを、吉田氏も承知していたのでしょう。実際に参加者の中にも、この部分については「?」を浮かべた方が多かったのだと思います。その説明については、簡単に言えば次の通りです。
『オンラインという特徴から、質・相性を確かめつつ分散発注できる(個人的には、対個人なら小さな業務、あるいは小ロットからでも発注できるという点もあると思います)。その中で、企業にとって最適な人材を見極めていけるので、最終的に室の高い発注先が見つけられる。』
すでに世界では、10年以上前から大企業がクラウドソーシングを活用しています。このことは、ご存知の方も多いでしょう。しかしその背景から、吉田氏は次のようにクラウドソーシングの可能性について触れていました。
「世界中の"個人の力"を活用すれば、ユーザーのアイデア次第でいろいろなコラボレーションが実現できる」
実際に国内においても、政府・行政・上場企業をはじめクラウドソーシングの利用企業は業界全体で国内でも約20万社を突破しているとのこと。クラウドソーシングサービスを手がける各社でコラボレーション企画が多く生まれており、これまで個人では踏み込めなかった領域に関われる土壌ができつつあるのかもしれません。
■協会目標
今回はクラウドソーシング協会のキックオフイベントですので、もちろん同協会についても説明もありました。
クラウドソーシング協会の掲げる目標は、以下の2点。
- 2023年迄に会員社数・保有クライアント数・保有ワーカー数とも10倍化していきたい
- 2023年にはクラウドソーシングを1兆円市場へ
クラウドワークスのデータでは、ユーザーの約8割が東京都外で受注しているとのこと。さらにユーザーの所在地は海外にも及んでおり、"場所にとらわれない働き方"が実現しつつあると吉田氏は話します。クラウドワークスの最高年齢ユーザーは85歳と言いますから、これは驚きです。
さて、先に吉田氏の言葉で 『企業が第3の矢(=人材調達)を手に入れる』という表現がありました。クラウドソーシングが必要に応じて個人という人材を調達する手段とするのであれば、派遣という働き方にも似たものを感じるでしょう。私は以前人材業界で働いていたことがあるのですが、現在多くのフリーランスの方々と仕事をさせて頂く中で、派遣業における考えや経験は少なからず影響しています。吉田氏も、派遣という働き方とクラウドソーシングとを照らしあわせ、次のようなコメントを残しました。
「派遣社員の誕生は約38年前ですが、現在は4兆円市場にもなっています。しかし派遣という働き方が生まれた当初は、"正社員がなくなるのでは?""この働き方は危険では?"といった声もあったはずです。ですからクラウドソーシングも、今は厳しい声がありつつも、10年・20年かけて育てていくべきものだと考えています。」
さらに吉田氏は、EC市場を例にしてクラウドソーシングの目指すべき市場規模についても言及しました。
「EC市場は、今や15.9兆円です。これは、15年前の245倍にも及びます。しかしこれでも、最終消費の5.6%に過ぎないんです。つまりこの5.6%という数値は、人々が"世界が変わった"と実感できる数値なのだと思います。ですからクラウドソーシング市場も、人材市場における5.6%である10.8兆円市場をまずは目指します。」
働き手における正社員比率は、もはや50%を割っているのが現実です。これに対し、確かに私の周りでは、フリーランスあるいは在宅ワーカーとして仕事をする方が増えているよに感じます。そこにはクラウドソーシングという手段が生まれたことだけでなく、人々における"働くことへの価値変化"があるように思えました。
■数値データに見る変化と可能性
イベントでは、中小企業庁の早田氏ならびに総務省の東氏から基調講演も行われました。詳しいデータなどを交えたお話でつい聞き入ってしまい、あまりメモに残せていないのですが、いくつかポイントとなるエッセンスをご紹介しましょう。
まず中小企業庁の早田様からは、「中小企業政策におけるクラウドソーシング」についてお話がありました。 起業者を増やす観点でも主婦などがクラウドを通じて起業する可能性があるとしたうえで、2014年版中小企業白書のデータを取り上げながら次のようなポイントを説明しています。
1)小規模事業者
日本の中小企業のうち、その9割近く(約334万社)が小規模事業者に属する。しかし小規模事業者については、ITの浸透がまだまだ浅い。そのため、これまで成長発展を目指す企業を支援することを目的として施策に取り組んできたが、今後は小規模企業への支援を充実化させる必要がある。この小規模事業者を、『維持充実型』と呼ぶ。
2)人口減少が加速化する
国内において、最も高齢化率が高いのは秋田県。しかし東京都も、東京オリンピック以降に高齢化・人口減少が進むことが予測される。
3)企業の設備投資
国内設備投資が変わらず、海外設備投資が増えている。
4)起業希望者の激減
バブル期には160〜170万人にも及んだ起業希望者が、現在では83.9万人。現在考え得る課題と対策は、次の通り。
<課題>
- 起業意識が低い(安定志向など)
- 起業の生活収入が不安定
- コストや手続きの煩雑さ
<対策>
- 兼業、副業の推進(日本企業の7割は認めていないが、逆に働く側の48%は「みとめられればやりたい」と考えている
- 税金などの免除により多くの事業登録を得たフランスのように、何らかの恩恵による登録メリットを打ち出し、主婦などの事業者登録を促進する
次に総務省の東氏は、テレワークを軸として次のよなポイントを説明しました。
1)人口の変化
総人口が減少し、2055年には8993万人になる。さらに、高齢者世帯が増えて2055年には全体の約40%を占める。つまり、日本において生産年齢人口が減少していくこととなる。
2)高齢者の就労
出産する女性のうち、退職する人は全体の44%にも及ぶ。そんな中、就労市場における高齢者の活用が重要。高齢者の就労意欲としては、収入について多くを望まない人が多い。
3)テレワーク
テレワークには、右図のような4累計が存在する。
※図写真を撮影していないため情報が少なく、誤りがあったら申し訳ありません
テレワーク人口は2002年の410万人から2013年には1,120万人へ増加。しかしテレワークの導入企業は、企業全体(従業員100名以上)の9.3%に過ぎない。
さらにテレワークの中でも、在宅型よりモバイルワーク型の導入が多く、導入社員の割合は全従業員の5%未満というケースが半分以上。導入の阻害要因としては、次のような点が挙げられる。
- 中小企業での導入が低い
- 地方圏の方が低い(都市の規模感による差)
- マネジメントへの不安(従業員管理)
- セキュリティの不安
- テレワークに対する意識
東氏は今後もセミナーやコンサルティングによるテレワークの周知に取り組むとし、その目指す姿として『スマートプラチナ社会』の実現を示しました。その中の1つとして、新たなワークスタイル(=テレワーク)の実現が重要になると言います。具体的な取り組みとして、復興予算を活用した被災地域におけるテレワーク事業についても解説され、総務省としてテレワークの導入拡大に対する強い思いが講演から感じられました。
■パネルディスカッション
基調講演に続き、実際にクラウドソーシングを活用する下記3社の担当者が登壇してのパネルディスカッションが実施されました。
ヤマハはWebサイト制作など日常業務の効率化のために活用されており、パナソニックコンシューマーマーケティングはパナソニックストア(メーカー直販サイト)において、オリジナルデザインのデジカメ販売のためにより多くのデザインを集めるうえで活用。実際に1303件もの応募があったそうです。
さらにヤフーでは2011年の震災直後に社員個人単位で被災地に行っていたところ、地元の方々から「自分たちの商品を売りたい」という声が挙がったとのこと。これをキッカケにネットショップの仕組みで『復興デパートメント』を立ち上げ、もともとは電子部品工場だったというアストロ・テック社がバッグ販売を開始。そのバッグのデザイン発注にクラウドソーシングを活用し、オリジナルバッグ『Ordinaire』が商品化されたそうです。
さまざまなシーンで、クラウドソーシングを事業活用された3社。ディスカッションはモデレーターによる質疑応答形式となったため、それぞれの質問に対する各社からの回答をご紹介します(一部抜け有り)。
<ヤマハ>
・クラウドソーシングを利用したキッカケ
上司の通っている大学院研究室での繋がり
・クラウドソーシングを利用して良かった点
社内クリエイターや固定業者以外に業務委託の幅が広がった、選択肢に入らなかった業務まで委託できるようになった
・クラウドソーシング活用に当たっての工夫
事例をプロジェクト内に蓄積している(文章共有システム、依頼業務に対する成果、委託先評価 など)
・クラウドソーシングに対する今後の期待
人材調達の新しい形として一般化し、企業が当たり前のように使えるサービスになってほしい(新しいものの導入にはハードルがある)
<パナソニックコンシューマーマーケティング>
・クラウドソーシングを利用したキッカケ
業態自体は後輩がランサーズに設立当初からジョインしていたため知っていた
・クラウドソーシングを利用して良かった点
多様なデザインを短期間で調達したいという目標に対して成果があった(200〜300件と見ていたが、実際には1300件)、デザインコンテスト中はサイトアクセス数が倍増した(=マーケティング効果)
・クラウドソーシング活用に当たっての工夫
仕様書を工夫した(サイズなど技術面、著作権抵触に関する事例提示 など)
・クラウドソーシングに対する今後の利用可能性
デザイナーとのやり取りで、「楽しい企画をありがとう」「Lomixのファンです」「Panasonic好きで嬉しいです」といったコメントをもらい、依頼者であると同時にお客さんだという認識を持った。そのため、"共に何かを作り上げると共に広げる"ということが普及していくと思う
<ヤフー>
・クラウドソーシングを利用したキッカケ
復興デパートメントの立ち上げ前にクラウドワークスへ相談した
・クラウドソーシングの利用で大変だった点
被災地はパソコンが得意ではない人が多く、メールのやり取りだけでは不安なことが多かった(→実際に会ってもらった)
・クラウドソーシングについて今後の利用可能性
地方中小企業など新規採用が難しい場合に、クラウドワークスによる人員確保やPC得意ではない事業主のサポート要員として活用できそう
・クラウドソーシングに対する今後の期待
地方で、もっとユーザーを拡大してほしい
■まとめ
今回のキックオフイベントを通じ、クラウドソーシングの将来における可能性を感じると同時に、まだまだ克服すべき課題があることが分かりました。しかし企業・個人双方の側から見ても、今後"働き方"が大きく変化していくことは間違いないでしょう。
尚、イベントでは最後にクラウドソーシング関連の事業を手がける6社からそれぞれ5分間のライトニングトークが行われました。クラウドソーシングと言っても、その中で実現されるものは多様です。紹介された事業の簡単説明と企業名のみとなりますが、ご紹介しておきましょう。もしかしたら、ここから新しい何かが生まれるかもしれません。
欧米では数多く実施されているクリエイティブ・クラウドソーシングである、コンテスト型の動画広告クラウドソーシング『Redrock』
ママの新しい働き方を提案するインターネット上のお仕事サービス『mama&crowd』
専用封筒にレシートを入れて投函すればデータ化される、日本一簡単な経理サービス『MerryBiz』
個人事業主・中小企業ビジネス向け経理・会計サービス『MFクラウド』(会計、確定申告、請求書)
・日本PayPal株式会社
26通過(国内22通過)に対応するオンライン決済サービス『PayPal』
クラウドソーシングによるPOI情報の集取・提供サービス『minpoi』
人々が働き方を選び、そして充実した生き方を選んでいくうえで、クラウドソーシングの成長は大きな土台になるのではないでしょうか。私自身フリーランスとして活動しながら、法人として多くのフリーランスワーカーの方々とお仕事をさせて頂いていますが、その土台の一端を担えるよう努めていきたいと改めて感じさせられました。
尚、基調講演で取り上げられた数値データ等の資料は、追ってクラウドソーシング協会のホームページ上でも閲覧できるようになるとのことです。非常に面白いデータになっていましたので、興味のある方は是非ともご覧ください。