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書評:上司が「鬼」とならねば部下は動かず

書評:上司が「鬼」とならねば部下は動かず

眞山 徳人

ベルギービールをこよなく愛する公認会計士。座右の銘は「できるときに、できることを、できるだけ」。

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こんにちは、今回もお読みいただきありがとうございます。

さて、社内外でリーダー的立場を引き受けることが多くなった32歳の私(笑)。しっかりとリーダーとしての矜持を身に着けねば!!と大慌てでいくつか本を買って読んだのですが、一番強烈だったのがこの本でした。




  • リーダーの「母性」と「父性」

ここ数年「コーチング」「傾聴」といった、相手を導いたり、相手が話しやすいような空気を作ったりするスキルが注目を集めています。上司と部下の関係においてこれらのスキルを用いるとき、部下はとても居心地のよさを感じるだろうと思いますし、コーチングや傾聴といったスキルは、部下が自分で考え、話しながら答えを見つけるという意味で、非常に効果の高いものなのだろうと思います。

一方で、そういった「優しい上司像」が、あたかも全面的に正しく、優れたものであるかのような価値観が生まれつつある、という実感もあります。「部長の大目玉」のような、おっかない上司のイメージというのは、少しずつ影を潜めつつある。その中で、まるで上司と部下は「対等で民主的な」関係になってしまっているという点について、本書では警鐘を鳴らしています。

コーチングや傾聴というスキルは、赤ん坊や子供に「できるかな~」「どうしてかな~」と教えてあげるママのような役割を企業や組織に持ち込む発想だ。だとしたら、こういった母性愛に満ちた人の育て方と同時に、「つべこべ言うな!やれと言ったらやれ!」という、父親的な厳しさを持った育て方も、存在しうるのだろう・・・。私は以前からそういう漠然としたイメージを抱いてはいましたが、まさに本書はそういったスタンスを力強く勧めています。


もちろん、ただ単に厳しくなるだけでは部下もついてきません。懐の深さ、根底にある部下への信頼や愛情・・・といった、「親父の背中」をしっかり持っていてこそ、初めて上司は鬼になることができるということも、本書では触れられています。



  • 分かりやすい「ケース」を用いた説明

たとえば、上に書いてあることだけを読んでも「よし、鬼になってやる!」と思える人はなかなかいないと思うのです。それは、上に書いたコメントが机上の話、あるいは言葉遊び的な色彩を強く持っているからだと思います。

その点本書では「部下がクライアントからクレームを受けたにもかかわらず対応が悪い⇒それを係長は代わりに謝りにいってやった」というような端的な事例をこまめに持ち出しながら、それが何故だめなのか?という点にまで丁寧に言及しているので、一つ一つの主張に非常に説得力があります。


  • 最近のリーダーシップの考え方と矛盾するわけではありません

最近は「サーバント・リーダーシップ」という言葉が流行っています。部下を支え、彼らのパフォーマンスを最大化させるというサーバント・リーダーシップの考え方は、どこか本書の発想とは対極にあるかのように見えます。

しかし実際にはそうではなく、両者は共存できる概念であると私は思いました。パフォーマンスを最大化させるために部下を支えるのは上司として当たり前の姿です。その手段は「アメ」かもしれないし「ムチ」かもしれない。たとえばその「最大化」がおぼつかなかったとき、あるいは長い目で見て更なるパフォーマンス発揮のポテンシャルを感じたとき、部下に適度な負荷を与えることも上司の大事な役割なのだろうと思います。


  • 「ムカつく上司」がいるあなたに、読んでほしい。

冒頭に「社内外でリーダー的立場を引き受けることが多くなった」と書きましたが、その時点で私は、実は「皆に好かれるリーダーになろう」と思っていました。しかし本書を読んでその意識は大幅に変わりました。同時に、「ムカつく!」とことあるごとに感じていた我が上司の厳しい指導が、実は本書に即してみると非常に考え抜かれたものだったことも思い知らされ、その上司を改めて尊敬することができた、というのも本書を読んで得られた良いギフトのひとつだと思っています。

上司がなんとなく理不尽に思えて「俺だったらこういう風に導くのになぁ・・・」と反面教師風に上司を捉えている方は、いったん本書を手にとってみると良いと思います。