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八百長は何故起こるのか?サッカー界における「不正のトライアングル」 2/2

八百長は何故起こるのか?サッカー界における「不正のトライアングル」 2/2

眞山 徳人

ベルギービールをこよなく愛する公認会計士。座右の銘は「できるときに、できることを、できるだけ」。

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こんにちは、今回もお読みいただきありがとうございます。


まずは、前回の記事のまとめから。
  • サッカー界の八百長は2008年から2011年までに680試合も見つかっている
  • 八百長は多くの場合審判の買収により行われる
  • 審判が八百長に加担する背景には「不正のトライアングル」がある


審判の買収について、前回はこういう記載をしました。

多くの場合、審判は「1試合あたり12万円」という形で報酬を受け取っています。12万円というのはJ1リーグの主審の場合ですが、そもそも年間での試合数が限られている中でのこの報酬水準は決して高いものとはいえません。日本ですらこうですから、他の国ではもっと過酷な条件下におかれているかと思われます。

そんな審判に対して「ホームに勝たせるように工夫して欲しい」と100万円程度の報酬で働きかけたら、なびいてしまうこともあるだろうと思います。


・・・ここで考えなければいけないのが、「なぜ大金を出してまで審判を買収するのか?」ということです。


単にチームを勝たせたい、そういう意識でオーナーやスポンサーがお金をだしているのか?・・・そんなこともあるかもしれませんが、実はほとんどの八百長は、ある犯罪組織が取り仕切っているようです。その犯罪組織の根城は、ICPOによるとシンガポールにあるのだとか。

彼らの「不正のトライアングル」とその対応策を、分析してみることにしましょう。


  1. 動機・プレッシャー
    普通に暮らしているとあまり意識することはありませんが、実はサッカーの試合をネタに賭博を行う違法な組織が存在しています。その胴元として、上に書いた犯罪組織が鎮座しているわけです。

    サッカー賭博のサイトを通じて賭け金が集まってきます。詳細は分かりませんが、スコアや勝敗の予想をして、そこにBetするのでしょう。賭けが外れた人がつぎ込んだお金を原資に、賭けが当たった人に分配をするわけですが、たとえば実力差の離れているチーム同士の試合であれば、ほとんどが強いチームに賭けることになりますから、胴元としては分配原資が足りずに赤字になってしまうことが考えられます。

    そこで、審判を買収して引き分けにしたり、得失点差を操作したりすることで、収益を確保するわけです。

  2. 機会
    このような不正が可能になっている「機会」の要素は色々とあります。それこそ、インターネット上の賭博が可能になっている技術的環境も含まれますし、審判に接触して取引を持ちかけることができるような状況も、不正を助長する機会といえます。さらには前回記事に触れたように、審判が不正に携わってしまうような苛酷な労働環境も、不正に拍車をかけることになっているようです。

  3. 正当化
    世界中で愛されているスポーツ、サッカー。八百長でなくても、サッカー界はもともと巨額のマネーが動きやすい環境にあります。一流選手の年俸、スポンサー収入、グッズ収入、放映権・・・。「甘い汁をすすっているやつがこんなにいるんだから、俺たちも巻き上げてやろうじゃないか」・・・犯罪組織はこういう捻じ曲がった信義をとおすことで、組織だった不正行為を行うための指揮命令系統を整えていきます。

それではこのような八百長を根絶するためには、どんな対策が考えられるでしょうか?
  1. 動機・プレッシャーの芽を摘むには、犯罪組織のマネーの動きを食い止める国際的な働きが必要になるでしょう。ICPOが今回の会議を開いたのも、そういった目的があったはずです。たとえば通報者への報奨制度を導入することで、違法賭博サイトや八百長の摘発は非常にやりやすくなります。

  2. 機会の芽を摘むには、まず「どの試合にどの審判員がつくのか?」を事前に悟られないことが大事です。審判員のアサインを機密情報として扱うための具体的手法はいくらでも思いつくはずです。さらには審判員が外部と接触しないように、試合前数日間の行動を規制することも必要になるかもしれません。

  3. 正当化の芽を摘むのは、組織犯罪に対しては非常に難しいものがあります。1.2.への対策を通じて、八百長へのやる気を削いでいくのが一番現実的だろうと思います。


私たちはスポーツを楽しむとき、何に感動するのでしょうか?トッププロのスーパープレー、強豪チームを打ち負かす番狂わせ。そういったものの根底にはやはり、フェアプレーの精神が根付いています。お互いが汚い手段を使わず正々堂々とプレーすることが前提としてあるからこそ、私たちはスポーツを心置きなく満喫できるわけです。

世界的な広がりを見せるサッカー人口。サッカーそのものが興行として非常に大きな規模になっている今、その「フェアプレーの精神」をより強固なものにするためには、精神論だけでなく、しっかりとした仕組みを構築すべきなのではないかと、私は考えます。