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違法?適法? 口コミマーケティング

違法?適法? 口コミマーケティング

弁護士 伊藤 雅浩

弁護士。内田・鮫島法律事務所。アクセンチュア等でのシステム開発やコンサルティングの経験をもとにした、システム開発、IT、ネット、知的財産に関する法律問題が専門。

当ブログ「ITビジネス法務の現場から」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/mito/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


 はじめまして、弁護士の伊藤雅浩です。「ビジネステレビ誠」の「教えて!ビジネス上のトラブル」のコーナーを担当させていただいています。このたび、ITビジネスにおける法律問題についてのブログを書くことになりました。よろしくお願いします。

 最初のテーマはIT固有の問題ではありませんが、新しい話題として口コミマーケティングを取り上げます。この問題は、2012年1月23日(月)21時からのビジネステレビ誠でも取り上げます。


【食べログ問題】

kutikomi1.JPG 新年早々、人気グルメサイト『食べログ』で、業者によってランキングなどを上げようとするための投稿があったことが報道されました。その後も、『ヤフー知恵袋』でも同様に、飲食店が業者に対し自らの店舗について好意的な書き込みをするよう、委託していたことが報道されています。

 そもそも、飲食店や旅館、メーカーなどが、自らの商品やサービスについて好意的な書き込みを匿名で行ったり、第三者に書き込むよう委託したりすることは法律上許されないのでしょうか。こうした行為はすでに報道などでも指摘されていますが、景品表示法上の問題が生じる可能性があります。


【景品表示法による広告規制とは】

 景品表示法とは、商品、サービス取引に関する不当な景品類、広告等によって顧客が誘引されることを防止し、一般消費者の利益を保護するという目的の下に制定された法律です。その中でこうした口コミに関して問題になりうるのは、4条の「不当な表示の禁止」という規定です。

 4条1項では、

1. 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。

となっており、

【1号】優良誤認(実際のものよりも著しく優良であると誤認させること等)
【2号】有利誤認(実際のものよりも著しく有利であると誤認させること等)
【3号】(略)

の表示を禁止しています。この規定は、飲食店の広告で「当店の鶏料理はすべて○△地鶏を使用!」と書かれていながら、実際には鶏料理には地鶏を使用していなかった、というような場合を想定したものです(優良誤認の例)。


【業者が書きこんだ口コミであっても広告表示になり得る】

 もっともこの規定は、事業者が自己のサービスの内容について行う広告を対象としており、一般消費者が口コミとして書いている限りは、たとえ誤った事実であったとしても景品表示法の問題は生じません。

 しかし、飲食店などの事業者が、口コミサイトにアルバイトや業者を使用して口コミ情報を書かせた場合は、その書き込みは、実質的には自己のサービスの内容について行う広告と考えられますから、実際のものより著しく優良、または有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には、景品表示法の不当表示となるでしょう 。


【不当表示をしてしまったら】

 景品表示法の不当表示をしてしまったときはどうなるのでしょうか。行政機関による執行が中心となりますが、具体的には、差止や表示の変更などの措置命令を出したり、措置命令に至らないケースで警告、注意がなされたりすることになります。措置命令に従わなかったときには、刑事罰(2年以下の懲役または300万円以下の罰金)もあります。

 ただ、こうした行政行為は事業者(上の例では飲食店)に対して行われるものであり、今回問題となった書き込みを行うヤラセ業者に対して行われるものではありません。したがって、現行法の限りではこうしたヤラセ業者に対する規制は十分ではないでしょう。

 また、飲食店と口コミサイトとの関係では、口コミサイトの利用規約に違反する可能性も出てきます。そうなれば解約されてしまう可能性もあり、顧客を増やすはずだったところが逆に露出が減ってしまうことになってしまいます。

 ヤラセ事業者に委託した飲食店としては、「委託料を返せ!」と言いたくなるでしょう。しかし、景品表示法の不当表示をさせる契約が直ちに無効であるとは限らないですし、仮に公序良俗に反して無効になるとしても、飲食店にも責任があるとなれば返還を求めるのは難しいでしょう(法的には不法原因給付といわれる問題です)。

 この問題は、食べログ問題が報道される前の平成23年10月28日の時点で、すでに消費者庁の「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項(pdf)」として指摘されています。


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