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目的意識を欠いた技術やノウハウには、なんの価値も無い

目的意識を欠いた技術やノウハウには、なんの価値も無い

島田 徹

株式会社プラムザ 代表取締役社長。システムコンサルタント。1998年に28歳で起業し、現在も現役のシステムエンジニア、コンサルトとして、ものづくりの第一線で活躍しつつ、開発現場のチームとそのリーダーのあり方を研究し続けている。

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私が24歳の頃、最初に就職したのは、東京から北に電車で1時間ちょっとの位置にある従業員規模50名ほどの小さなメーカーでした。

そのメーカーは、社長が戦後一代で築いた電子基板のアッセンブルを行う工場で、複数の大手メーカーからの依頼を受けて年間5億ほどの売上を上げていました。

時代は90年代中盤。その当時から徐々にこの手の単純な組立て実装は、海外生産に移行されつつありましたから、それでも受注を少しずつ伸ばしていたのは、この会社がおそらく地域で、かなり真面目で優秀であると評されていたからだと思います。

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学生時代から3年以上、公認会計士の勉強をしてきて、簿記と原価計算に自信のあった私は、入社すると上司である副社長に一つの提案をしました。
 

  • 今、社員やパートの人たちが、作業日報を書いているが、これを単なる「怠慢防止」のために使っているのではもったいないです。
  • これをきちんと集計して、製品毎の原価計算を行ってはどうでしょうか?メーカーで、原価計算をやるのは、当たり前ですよ。


生意気すぎて涙が出てきます。。

すると、副社長は、寛大にも私の意見を聞き入れてくれて、「やってみなさい。必要なものがあったら用意するから。」と言ってくれました。


それで、私は最新のOASYS(ワープロ)を用意してもらって、カルク(表計算ソフト)を使って各製品毎の作業工数を計算し、めんどくさがる経理から電気代や設備のリース料を聞き出し、部門毎に配賦するなどして、3ヶ月くらいかけてできる限り精緻に原価を計算しました。

副社長に「データがまとまりました」と言うと、彼は、本当にやさしい方で、その結果を役員会で報告しなさい、と言ってくれました。

小さい同族会社の役員会で、まったく外様(とざま)の小僧が発言できる機会などなかなかありません。

私は意気揚々と、各製品毎の利益率、各得意先毎の利益率、各部門毎の利益率等がまとまった報告書を役員の皆さんに配布し、説明し始めました。

10分くらい説明してきたあたりでしょうか。。なんとあろうことか、役員の方々が、一様に退屈な表情を見せ始めました。気の短い部長などは、もう資料など見ておらず、たまごっちにご飯をあげています。

私は悟りました。

小さいメーカーで、どの製品がどれくらいの原価で製造できているか、どの得意先が一番利益率の高い仕事を出してくれているかなどを知っても、彼らの意志決定にはまったく役には立たない!、、、ということを。

彼らは、「この仕事はやるべきか、やるべきでないか」を肌で感じ取っています。

長年の経験で、「この作業をやるのに、これくらいのお金をもらえれば、会社としては嬉しい」 これを知っているのです。

そして、その「嬉しい」とは、決して「直接的にこの仕事が儲かるかどうか」だけではなく、今後安定的に発注されるかどうか、得意先との結びつきを強める効果があるかどうか、最新の携帯電話に使われる基板であるなど名誉ある仕事であるかどうか、なども含まれます。

逆に言えば、利益率の低い仕事を嫌って、利益率の高い仕事だけを選べるような立場ではないのです。

そんな身勝手なことを言えば、利益率の高い仕事も出なくなるでしょう。

親会社から頂ける仕事を、とにかくやるしかありません。発注時に多少のネゴはしますし、直感的にどうやっても「割に合わない」と判断すれば断ることはあるでしょうが、細かい原価計算に基づいて見積を出すような時間もなければ、意味も無いのです。


私は自分の無能さを思い知りました。

目的意識を欠いた技術やノウハウに、なんの価値も無い

、、、それを思い知った初めてのケースでした。

 

(※)ちなみに、文中で「親会社」という記述がありますが、私の居た会社では、資本関係がなくても経常的に仕事を出してくれる大お得意様を「親会社」と呼んでいました。商法のそれとは違います。