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studygiftは火だるまになるほど極悪なサービスだったのか

studygiftは火だるまになるほど極悪なサービスだったのか

島田 徹

株式会社プラムザ 代表取締役社長。システムコンサルタント。1998年に28歳で起業し、現在も現役のシステムエンジニア、コンサルトとして、ものづくりの第一線で活躍しつつ、開発現場のチームとそのリーダーのあり方を研究し続けている。

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5月の中旬、studygiftという学費に困っている苦学生を支援するというファンドサービスがリリースされたという話がtwitter経由で目に入ってきました。

「ほうほう、それはいいことだなー」と思っていたら、間もなくしてというかほぼ同時に、このサービスに対するネガティブな情報もたくさん入ってきまして、あっという間にあちこちから火の手があがり、火だるまになりながらこのサービスは一瞬でクローズされてしまいました。

なんとオープンから11日目のことと言います。この顛末について詳しく知りたい方は、こちらによくまとまっていますのでご覧ください。



私は、システムを作る側の人間としてこのようなサービスの立ち上げにはこれまで多数関わってきましたので、僭越ながら私なりの見解をば述べさせていただければと思います。



■そもそもビジネスモデル的にどうなのか

そもそもこのstudygiftのビジネスモデルはどうだったのでしょうか?そんなに火だるまになるほどの極悪なサービスだったのでしょうか?

このサービスは、簡単に言うと学費に困っている学生と、お金に余裕があるが支援先がないという方々とをマッチングさせ、金を移動させる際に事務手数料(サービス利用料)をもらい受けるというモデルです。

お金に困っている学生はたくさんいます。また、お金が余っていて若者を支援したいという方々もたくさんいるでしょう。法人としても学生を支援しているというのは聞こえがいいので是非協賛してみたいと思うでしょう。

そして、これまではそのマッチングというのがなかなか難しかったのですが、ITを使えばそれが可能になるということろに事業化の可能性があります。しかもこれまでの「あしながおじさん」などのレガシーな募金方法と違い、お金の使われ方がダイレクトにわかります。支援した学生の方から直接の感謝の声も聞けるでしょうし、その後の経過も追えます。

そして、システムの開発がそれほど難しくありません。これが実装に3ヶ月とかかかるようなシステムだと技術力のある人でも辛いですからね。

これはちょっと考えても面白そうです。


ただここで

「事業とは言っても、そのような善意によって成り立つものであれば、手数料を取るというのは間違っていないか?」

こういう意見もあるようです。

しかし、事業が善意を持った人の存在に依存していることと、事業者がタダでやるというのはまったく別問題です。NPO法人も独立行政法人も、公共性の高い事業をやっていても必要経費はきちんと取ります。民間企業の行う事業なら尚更で、価格設定も自由です。

また、もしこのサービスの手数料率が高すぎるというのであれば、別の起業家が安く参入してくればいいだけのことでしょう。

また、

「マッチングサイトなら学生の身元をきちんとチェックし、運営会社が保証すべきではないか?」

この意見が非常に多かったようです。

これも私は特別そんな必要はないと思います。

「保証している」と言いながら「実は虚偽でした」であれば、「保証してると言っていたな?保証とはなんだ?倍返ししてくれるのか?」という話に展開していきますが、そもそも保証すると謳ってないなら「ウソも含まれているかも知れない」と思うべきです。信じる信じないは自己責任です。

求人広告、グルメ雑誌、タウン誌などなど、どれもウソが書かれている可能性があります。

またそもそもが、支援というのは、清廉潔白な人間にしか施さないというものではないでしょう。

もし

「馬鹿だなー、そこは事業として完璧に保証しなきゃダメだろう」

と思うのであれば、これも後発の起業家がそれを改善してサービスを立ち上げればいいだけです。



■直感的にもの凄く優れたビジネスモデルと感じる

私は、あまり家入氏という人を知らなかったのですが、このサービスはさすがと唸らざるを得ないプロの考えたモデルだと思います。

もちろん実はこのビジネスモデルは、二番煎じ、三番煎じであることは知ってます。



その他にもファンドサイトというのはいくつもあると思います。当然それでいいと思います。

二番煎じ大好きです。

サービスは基本的な機能は同じでも光の当て方でまったく別の見え方になります。セグメントを絞る・広げる、機能を絞る・付加するで、注目される・されない、利用される・されないに大きく影響します。

このさじ加減が難しいのですが、このstudygiftはセグメントを思い切り絞り、機能もシンプルにして、分かりやすくしています。飛びつきやすい大きさになっていて見事だと思います。



■一人だけ取り上げたのは正解なのか

この点が私は今回の騒動の一番のミソだと思います。

「なぜ苦学生を救おうというなら、複数の学生を載せないんだ?」

と多方面からお叱りを受けてますね。これは、ネットリテラシーの高い方々からも結構批判されているところです。

上記日経の記事内にも

「もしもスタディギフトが、彼女の支援だけでなく、彼女も含めた5人や10人の支援募集から始まっていたら、結果は変わっていたかもしれない。」

とあります。

しかし、私はこのサービス内容であれば、スタート時に1人をピックアップして集中的にリソースを突っ込むというは、まったくもって当然なやり方だと思います。

起業の際によくスモールスタート(小さく産んで大きく育てる)を目指せと言われますが、そのお手本がここにあります。

何も少ないお金で始めるということがスモールスタートではないです。今使える資源から何ができるかを考えることこそが大事だと思います。

机上の企画を綿密に立てて、それに合わせてコンテンツやリソースを集めるのがどれくらい大変なことか。私はこれまで、何度もそういう失敗パターンを目にしてきました。

コンセプトも新しく、ニーズもあると思われ、システムも必要最低限で不具合無く作り込み、、、晴れてリリースに漕ぎ着けたものの、その先、コンテンツを集めるのに偉い苦労をして、必死で自分達でサクラ記事を書き続けるも一向にコンテンツは集まらず、数ヶ月後にあえなく閉鎖となってしまったサービスもありました。

ありましたというか、こんなことは日常茶飯事です。

また別のケースでは、開発途中で「今までサービスの内容ばかり考えてきたけど、プロモーションの仕方がわからない」と、急に不安になったとのことで突然の開発中止。無期延期になってしまったこともあります。

今回のstudygiftは、私がこの日経の記事も含めて想像すると、この元女子大学生(以下、Aさん)との話の中でポッと出たジャストアイディアを膨らませたものだと思います。

・Aさんが学費に困っているという
    ↓
・学費を支援してくれるマッチングサイトを作ろうよ
    ↓
・Aさんが顔出しで1発目のモデルケースになってよ
    ↓
・そしたらプロモーションもしやすいから

たぶんこんな流れだったのではないかと、勝手に想像します。

Aさんも主催者の方々に厚い信頼を置いていたのでしょう。そういう人というのは希少です。スタートアップ時の貴重なリソースと言っていいです。

一人を成功事例にして注目を集め、サービス自体の認知度を高め、次に3人5人の学生を集め、ここにもリソースをそこそこ注ぎ、それがうまく行けば完全公募する。これが、一番リスクがないでしょう。

あるいは、サイトのコンセプトやブランディングを大事にするのは、完全公募はやらなくても全然いいと思いますし。

何度も言いますが、それがダメだというのであれば他の起業家がそこを改善してサービスを出せばいいのです。

ここまでのところで、火だるまにして叩きつぶすに値する理由はまったくないです。



■では何が失敗だったのか

これは極めて些細なところだと思います。

一人の絶対に裏切らないだろうと思えるAさんを前面に押し出すのは、非常に合理的な行動だと思います。

でも、信頼関係があったからこそ事実確認を怠ってしまった。

Aさんが、どの時点で復学は難しいことに気づいたか分かりませんが、サービスが現実のものになればなるほど言い出しにくくなってしまった可能性があります。あるいは、「大学にお金を持っていけば退学が取消になる」と本気で思ったのかも知れません。

そんなことはよくある話です。Aさんを責められません。

社会人経験のない学生を使う以上は、大人である主催者の方がそのあたりのリスクを潰しておくべきだったと思います。気づくべきタイミングは何度かあったと思います。

あと、学生のコミュニティは恐ろしいですね。個人情報とかばんばんネットに上げてしまいます。社会人なら「なんだ、うまくやってるな」で済むところでしょうが。

ここも大きな誤算だったのではないでしょうか。

問題はまあこの2点だけであって、あとは非常に素晴らしい事業で、私はこういう事業がどんどん生まれていって欲しいと思います。

基本的に困っている人を応援するっていうのは気持ちいいことじゃないですか。

そもそもが、応援するというのは、我々裏方の開発屋にとっては企業理念そのものなところがあります。

一生懸命頑張る企業や人を応援するのが我々受託開発の会社ですから。


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しかし、いつも思いますが、成功すればするほど、目立てば目立つほど批判を受けやすくなるのは日本の良くないところですね。

本来は、新しい試みに対して皆で惜しみない賞賛の拍手を与えて、徐々に改善を待つか、あるいはなかなか改善されないのをチャンスと見てより良質な後発サービスが出てくるというのがあるべき姿だと思います。

今回のようにフルボッコにしてしまえば、改善するも何もサービス自体が潰れてしまいますし、改善サービスを立ち上げようという後発の起業家も尻込みしてしまいます。

私は、こんな過酷なフィールドで果敢に戦いに挑む日本のベンチャー起業家を本当に尊敬します。

先の日経の記事では、家入氏達は「夏頃までにリベンジするかも」と言っていますが、モチベーションを維持できますでしょうかね。

私は勝手に期待はしていますが、別に社会起業家という訳でもないでしょうから、あまり無理をなさらないようにと願うばかりです。