誠ブログは2015年4月6日に「オルタナティブ・ブログ」になりました。
各ブロガーの新規エントリーは「オルタナティブ・ブログ」でご覧ください。

ベトナムの交通事情 ~海外進出ってどうよ7

ベトナムの交通事情 ~海外進出ってどうよ7

島田 徹

株式会社プラムザ 代表取締役社長。システムコンサルタント。1998年に28歳で起業し、現在も現役のシステムエンジニア、コンサルトとして、ものづくりの第一線で活躍しつつ、開発現場のチームとそのリーダーのあり方を研究し続けている。

当ブログ「そろそろ脳内ビジネスの話をしようか」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/noubiz/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。



さて、相変わらず「いいね!」も「RT」も少ないベトナムネタの第7段ですが、今日はちょっといいことを言います。いやかなりいいことを言います。

そのつもりでどうぞよろしくお願いいたします。


■ベトナムの交通事情

ベトナムに行ったことのある人なら誰でも、まず初日に度肝を抜かれ、そして滞在中ずっと抜かれ続けるのが、バイクの交通量の多さです。

バイクが多いと言うと、大所帯の暴走族のようにワンワンワワワンと低速で蛇行して走っているのを想像されるかも知れませんが、そういう感じではなく、バイクがまるで回遊魚のように、スムーズに、事故にならないレベルで最大限速く、流れるように走っています。

ロータリーでは、四方八方からの群れが合流して一度大きな群れになり、そしてまた四方八方へ散っていきます。回遊魚が海の中で決してぶつからないように、彼らも本当に感心するくらいぶつかりません。

バイクは、3乗、4乗は当たり前。運転手はお父さん、後ろのシートにお母さん、その間にまだ歩けないような赤ちゃんを挟んで、最後に後ろから5歳くらいのお兄ちゃんが立ち乗り、みたいなのが珍しくありません。

ベトナムでは、片側2車線の広い道路でもほとんど信号機がなく、もしあなたがそこを横断しようと思ったら、混んでるときの甲州街道くらいの交通量の中に目をつぶって身を投じてみるしかありません。

すると驚くべきことに何故か渡れてしまいます。迫り来るバイクや車の動きに合わせて、歩く速度を変えると危険なようです。ちょっとだけ空いた瞬間に、等速直線運動で、堂々と渡った方がよいようです。

(ただ、私も足かけ4日しかいませんでしたので、これはウソかもしれません。ベトナム人的には「そんなことやったら危ないって!ちゃんとよけないと!」と言うかも知れませんのでご注意下さい。)

こんな感じ。


日本人の私たちからすると、まあ危なっかしいことこの上ないです。

どうしたって

  • 「この国は日本より50年遅れている」
  • 「とても合理的な判断ができる民族ではないな」
  • 「こんなことやってる国ではまともな仕事はできないだろう」

などと思ってしまいますね。


■合理性の無いのはどちらか

しかし、日本に帰ってきて、夜中の全然車通りの無い中、信号待ちをしている人達を見て、ふと疑問に思います。

これが合理的な姿なのだろうかと。

ベトナムの交通事情は確かに遅れています。

そしておそらく今後、このような形で進化されていくと思います。

  • とりあえず、危険なので3乗、4乗は規制し、ヘルメット着用を義務づけよう。
  • 大きな道から来たバイクも小さな道から来たバイクも同じように合流していたら危ない。優先道路の概念を作ろう。
  • 優先道路を作ったら、優先じゃない方からなかなか交差点に出て行けなくなってしまった。信号機を作ろう。

これらは確かに正論で、日本もそうやって今のシステムになったように思います。

しかし、それで出来上がったものは何でしょうか?

  • 都市部はどこもかしこも交通渋滞
  • 交差点には他に誰も通っていないのに信号待ち
  • ちょっと空くと100kmとか出すので、死亡事故多発

という不合理な状態です。

ベトナムに今ある

  • 人間を運ぶのには、それに必要十分な動力だけを使用する
  • システムのために意味もなく停止を強制されない
  • 闇雲に飛ばさず、常に周囲に気をつけて走る

という合理性が、日本では損なわれてしまっています。

実際、平日、東京都内でタクシーに乗って5Km移動しようと思えば30分は見ておくべきですが、ホーチミンならタクシーで10分で確実に着きます。

これは短期的な個々の最適判断が、長期的には不合理な結果を生み出した結果かも知れません。


----------------

■会社組織にも同じようなことが起きる

こういうことは、実は会社組織にも言えて、起業したばかりの数名のメンバーは、無茶苦茶自由にやっている訳です。

みなメンバー各人の素性や行動様式を熟知しているので、変なルールに縛られることもなく、相手のことを思いやりつつ個々が最大のパフォーマンスを発揮します。

ところが会社が3年、5年と活動してきて、徐々に人が増えてくると、健康保険に入ろうとか雇用保険つけないとまずいとか言い始めるようになり、遅刻をしないようにとか、端末にラベルを貼ろうとか、社長の机が汚いのはどういうことなんですかとか細かい指摘が入るようになっていきます。

挙げ句の果てには、日報をつけようとか、個人のPCの持込を禁止しようとか、Pマークを取ろうとか、訳の分からない方向に進んでいくことが多いです。

そしてもっとも嘆かわしいことは、そういう活動をすることが会社を成長させていると勘違いしてしまうことです。

「個人のPCの持込を禁止することが本当に効率的・効果的に仕事をすることにつながるのか?」

そういうことをゼロベースで検討することなく、短期的な判断で「それはまあまずいよね」ということで禁止に突き進んでしまう。

こういう積み重ねによって、次第に会社は息苦しくなり、活力を無くして行きます。いわゆる「コンプライアンスが会社を潰す」という状態です。


日本人や西欧諸国の人達が多く進出しているベトナムでもいずれ、交通マナーというのが叫ばれるようになり、信号機が増え、3乗4乗が厳しく取り締まられるようになっていくかも知れません。

しかしそのとき、きちんとしてはいるけど爆発的パワーも個性もない都市になってしまうのは惜しいですね。

彼らは今きっと、彼らが持っている先進諸国にないパワーに気がついておらず、私はそれがとてももったいないことだと思います。

まあそこで、それを維持するために法整備やマナー向上を求めない訳にはいかないのでしょうけどね。にんともかんとも。