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うつに対するカウンセリング(前篇)

うつに対するカウンセリング(前篇)

大森 洋明

REBT心理士。うつ状態から回復した経験を経て、SEからカウンセラーへの転身を図りつつ、カウンセリングを世の中に浸透させようと奮闘中。座右の銘は、菅沼憲治先生に頂いた「生死一期」という言葉。

当ブログ「あなたが持つカウンセリングのイメージは間違っている!! …可能性が高いですよ」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/t2k/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


(※文章中にうつなどの単語が出てきます。 読んでいる最中に気分が悪くなった場合は、無理をせずブラウザのページを閉じてください。 どうしても内容が知りたい場合には、他の人に読んでもらって後で話を聞くと良いでしょう)

 カウンセリングと一言に言っても、療法・技術には様々あり、各カウンセラーがそれらすべてを学んでいるわけではありません。
 さらに、どの療法・技術でもうつに対して効果があるのかといえば、残念ながらそうではありません。 各療法・技術には当然のことですが、それぞれ得手、不得手があり、うつに対して効果があると証明されているのは、その中の一部なのです。
 つまり、ただ「カウンセリング」というだけでうつに効果があると思い込んでカウンセリングを受けたとしても、当たり外れ(恐らくかなりの確率で外れ)があるということです。

 では、うつに対して効果が証明されている療法とは、どのようなものでしょう。

 うつに対するカウンセリングは、主に認知療法・認知行動療法を使用します(絶対ではないです)。
 認知療法と認知行動療法がどう違うのかと思う方もいらっしゃるでしょうが、それを説明するのは案外ややこしくて面倒なのと、醜い大人たちの思惑的なことを書く羽目になりそうなので(怒られるかな?)、ここでは大体同じものと解釈しておいてください。

 認知療法・認知行動療法は、「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」を初めとした研究での数多くの優秀なエビデンスが評価され、当該療法に習熟した医師が1回につき30分以上の認知療法・認知行動療法を行ったとき、一連の治療につき16回を限度として診療報酬を算定できるようになりました。
 若干、「ん?」と思う表現ですが、一旦置いておきます。

 認知療法・認知行動療法は複数の認知的技法、行動的技法がパッケージになっており、うつの場合は基本的に手順に従って16~20回程度の構造化されたカウンセリングを行います(合う、合わないなど含めて個人差はあります)。
 うつに対するカウンセリングの場合、治療だけではなく再発の予防にも大きな効果を発揮します。

 治療の全体の流れは以下のようなものとなります。

治療全体の流れ

ステージ セッション 目的 アジェンダ 使用ツール
・配布物
1-2 症例を理解する
心理教育と動機付け
認知療法へsocialization
症状・経過・発達歴 などの問診
うつ病,認知モデル,治療構造の心理教育
うつ病とは
認知行動療法とは
3-4 症例の概念化
治療目標の設定
患者を活性化する
治療目標(患者の期待)を話し合う
治療目標についての話し合い
活動スケジュール表など
問題リスト
活動記録表
5-6 気分・自動思考の同定 3つのコラム コラム法
~考えを切り替えましょう
7-12 自動思考の検証
(対人関係の解決)
(問題解決技法)
コラム法
(オプション:人間関係を改善する)
(オプション:問題解決)
バランス思考のコツ
認知のかたよりとは
人間関係モジュール
問題解決モジュール
13-14 スキーマの同定 上記の継続
スキーマについての話し合い
「心の法則」とは
心の法則リスト
15-16 終結と再発予防 治療のふりかえり
再発予防
ブースター・セッションの準備
治療期間延長について決定する
治療を終了するにあたって

うつ病の認知療法・認知行動療法マニュアル(平成21年度厚生労働省こころの健康科学研究事業「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」) うつ病の認知療法・認知行動療法治療者用マニュアルより抜粋

 手順について、上の表に従ってざっとだけ説明します。

 まず最初に自己紹介、治療関係を結ぶ、治療に必要となる基本データの聞き取り・作成、認知療法・認知行動療法の説明、うつについての説明、治療への合意などを行います。 自殺念慮については、初回の時点でしっかりと確認しておき、その後も各回冒頭で調子や気分、伝えておきたいことなどを聞いて配慮します。

 必ず各回の最初の数分は、何についてどの程度話し合う、どの程度時間を割くなど、その回の内容を決めます。 カウンセリングの時間をより有効に使うためで、最初は若干面倒に思うかもしれませんが、同じパターンで始まるので慣れると楽になるでしょう。

 基本的な合意ができたら、うつになった状況などを聞きながら問題点を整理していきます。
 このとき見た目に分かりやすいように、図にまとめる場合が多いと思います。 サポート資源(問題の解決に役立ちそう、手伝ってくれそうな人、組織、物など)の確認も行い、紙に書くなどして分かりやすくまとめ、問題の全体像を確認し把握します。
 症例が概念化できたら、それを踏まえた上で現実的且つ具体的な目標を話し合いで決めます。

 同時に、散歩や軽い運動など、できる範囲で活動をして記録をつけていきます(基本的に、宿題)。
 うつには休みが必要なのになぜと思うかもしれませんが、動かなさすぎると気分が落ち込みやすく、さらに活動しにくくなるという悪循環にはまるので、無理せず時間をかけて活動量を増やしていきます(後もずっと続きます)。

 初回を含め恐らく毎回、最後に宿題が出ますが、これはカウンセリングという限られた時間では得られない情報を得たり、カウンセリングでは収まらない訓練をするためのものなので、できるだけやるようにした方が効果的です。 2回目以降のカウンセリングでは、この宿題の確認を最初に行います。 宿題というと嫌な感じがするかもしれませんが、できる範囲で難しいことはやりませんし、変に評価されたり怒られることも恐らくないので、身構える必要はないでしょう。

 症例の概念化、治療目標の設定ができたら、次に気分・自動思考の同定を行います。 自動思考とは推論の認知といわれるもので、何か出来事が起こった後、心の癖に基づいて自動的に意識に上ってくる後付けの推論的な思考です。
 しかしこの推論、人間が生き残るために必要と言えば必要なのですが、うつのときに限らず「普段でも」かなり行き過ぎることがあり、この推論に基づいて気分が左右されてしまう・・・つまり、現実から外れた妄想的思考に対して怒ったり落ち込んだりするという、厄介なものでもあります。
 この自動思考を見直すために、まずは出来事、気分、その気分を強く揺さぶる自動思考を見つけ出していきます。

 自動思考が同定されたら、次は検証を行います。
 同定された自動思考が本当に正しいか、根拠はあるのか、確信度はどのくらいか、矛盾点はないか、認知の歪み※註1の確認を行っていきます。 認知の歪みが確認された場合、より現実に適応した信じるに足る新しい考えを探します。
 上述の自動思考の同定と検証を合わせて、認知再構成法(コラム法)といいます。

 もちろん、推論だからといって全てがすべて間違っているわけではありません。 その推論に認知の歪みを含まず、正しいと考えられる場合は、変えることができる問題か、それとも変えられない問題なのか、問題が認知の修正以外で現実的に解決可能かなどを話し合い、別の方法で対応していく必要があります。

 認知再構成法を行う場合、カウンセラーの手を借りず、来談者自身が認知再構成法を利用出来るようになるまで繰り返されます。

 認知再構成法が一人で充分に行えるようになってきたところで、スキーマと呼ばれる心の癖を見つけます。 スキーマとは、その人の根底にある中核信念と、そこから築かれたルール、思い込みなどの媒介信念からなります※註2。 自動思考は、このスキーマに基づいて生みだされると考えられます。

たとえば、
中核信念
「私はダメ人間だ」
媒介信念
「仕事は人並み以上でなければならない」
自動思考
「こんな成果ではダメだ」「他の人はもっと上手くやっているに違いない」「こんな仕事もまともにできないなんて・・・」など

 認知再構成法と同様に、このスキーマを再検討し、より現実的な新しい信念に置き換えることで、感情を健康的に安定させると同時に、ストレスの感じ方を小さくします。

 最後に、カウンセリング全体の振り返りとして、技法の再確認、技法はうつ以外にも広く使えること、再燃・再発について、再発した場合にはどうするか、半年後・1年後などのフォロー(なにもなければメール連絡のみ、など)を話し合って決め、終結します。
(・・・ざっとの割には長くなりすぎましたが、これでもだいぶ端折ってます)

 

註1:うつ病の認知療法・認知行動療法マニュアル(平成21年度厚生労働省こころの健康科学研究事業「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」)(患者さんのための資料) p.13参照

註2:スキーマについての記述は書く人によって、中核信念のみをスキーマと呼ぶなど、スキーマに含める範囲が異なっている場合が数多くあります。 書籍を読むときには注意が必要です。
 スキーマは意識に上ってくる自動思考とは違って無意識的なものが多いですが、自動思考の中にスキーマが現れることもあります。


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