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うつに対するカウンセリング(後篇)
あなたが持つカウンセリングのイメージは間違っている!! …可能性が高いですよ
うつに対するカウンセリング(後篇)
REBT心理士。うつ状態から回復した経験を経て、SEからカウンセラーへの転身を図りつつ、カウンセリングを世の中に浸透させようと奮闘中。座右の銘は、菅沼憲治先生に頂いた「生死一期」という言葉。
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(※文章中にうつや自殺などの単語が出てきます。 読んでいる最中に気分が悪くなった場合は、無理をせずブラウザのページを閉じてください。 どうしても内容が知りたい場合には、他の人に読んでもらって後で話を聞くと良いでしょう)
前回は主に、認知療法・認知行動療法の基本的な流れについて書きました。
この流れから、考え方を変えることで、うつの再発を防ぐことができるようになることが分かると思います。
・・・というのは、ウソです。
実は、そうではありません。
うつの再発には「○○でなければ、私はダメ人間だ」のような非機能的な信念や態度は、大きく関わってはいないのです。
以前にも書いたように、うつの再発はその回数を増すごとに直接的な原因との関連が希薄になっていきます。 うつ再発の引き金は原因に対する認知のあり方やその頻度ではなく、たとえ原因らしい原因がなくても再発するときはしてしまうのです。
うつの再発時に活性化している非機能的な信念や態度も、再発前までの期間においては健常者の非機能的な信念や態度となんら変わりはありません。 つまり、一度うつを経験した後は認知的反応性(些細な気分の変化でネガティブで反すう的で自己持続的な心の状態が起きやすい傾向)が高まり、まるで心にうつに対するぜい弱性が出来たかのような状態になっているのです。
ではなぜ、認知療法・認知行動療法はうつの再発予防に効果があるのでしょうか。
認知再構成法などを繰り返し行う中で、より素早く正確に自動思考を同定しようと、思考や気分から離れて客観的な視点から自分や物事を見つめるように、認知の捉え方がシフトします(脱中心化といいます)。 これが、気分の落ち込みなどを経験したときに起こる、ネガティブで反すう的で自己持続的な心の状態を断ち切ることにつながります。 逆に言えば、この脱中心化が促されるまで認知療法・認知行動療法の技法を繰り返し行うことが再発予防につながるのです。
(再発予防に重きを置いて、この脱中心化を体得するマインドフルネス認知療法というものもあります)
ここまで説明してきたうつに対するカウンセリングですが、気がかりな点がいくつかあります。
まず、多くのカウンセラーは、病気についての知識は自分で勉強していない限り持っていないことが多いという部分です。
様々あるカウンセラーの資格は現在のところすべて民間資格で、この資格がなければカウンセラーになれないというものはありません。 さらにその中で一部を除いては、病気について学ぶ機会が少ない(ない?)資格が多いように思います。
そのため、病気の知識を得るためにはカウンセリングの技法の勉強とは別に、病気についての勉強、病気に対するカウンセリングの勉強をする必要が出てくるのです。
そもそもカウンセラーのすべてが、うつや病気に対するカウンセリングを行うわけではありません。 病院以外でカウンセリングを行う場合、うつの知識をそれほど必要としない(持っている方がいいけど、マストではない)カウンセラーも多いのです。
よって、うつになったからといって、とにかくカウンセリングを受けようと思ったとしても、任意に選んだカウンセラーがうつの知識を持っている、うつに対するカウンセリングを行うことができるとは限らないということになります(事前に確認すればいいだけですが)。
次に診療報酬についてですが、診療報酬の算定が可能なのは前回記述した通り医師のみです。 医師の指導のもとカウンセラーがカウンセリングを行った場合については、算定の対象外となります。
恐らく治療を行う人間を病気について知識のある医師に限定することで、病気や危機に対する正しい対処を確実に行うことができるよう考慮してのことだと思うのですが、精神医学で薬物療法を学んできているのに、1回につき30分以上かけて心理学の認知療法・認知行動療法を、どれだけの医師が(片手間でなく)学んで実行しようと思うのかに若干の疑問があります(※個人の感想です)。 もちろんその数は少なくないとは思いますが、需要を満たすことができるかとは、また別な気がします。
ちなみに、16回を超える分には診療報酬は算定されません。
認知療法・認知行動療法を正しく使えない人が臨床を行っているという話もあります。
これは、認知療法・認知行動療法についてまだまだ勉強し始めの若輩者の私にしても耳の痛いところではありますが(変なこと書くと偉い人に怒られそう)、特徴の一つとして、そういった人たちは認知再構成法しか重要視していない(重要視しすぎる)というところがあるように思います。
たしかに認知再構成法は認知療法・認知行動療法において重要な位置を占めているとは思いますが、認知再構成法をより効果的に行うためには、その手前までの手順が非常に重要となってきます。 しかし、認知再構成法が認知療法・認知行動療法を学ぶ(かじる?)人間にとって非常に魅力的であること、認知療法・認知行動療法の代表的な技法はと来たら一番に認知再構成法が出てきてしまう位置にあることから、認知再構成法のみを集中して勉強したり、認知再構成法に早く行きたくてそれ以外の手順が疎かになったりするのだと思います。
実際、認知行動療法の人気が上がり始めてから有象無象の認知行動療法ビジネスが出てきましたが、「カウンセリングの基本+認知再構成法の勉強で認知行動療法の資格」のようなものまでありました。 来談者の視点で考えれば、それがいかに不親切で分かりにくいかが容易に想像できると思うのですが。
たとえもし、その治療がその場で上手くいったように思えたとしても、なぜそこに至ったのかが分からない場当たり的なカウンセリングであったり、手順の繰り返しが行われず脱中心化が促されていないのだとしたら、それは再発の危険が高い中途半端な治療となってしまうことでしょう(と、書いたついでに自分も戒め)。
最後に、薬物療法とカウンセリングのどちらを利用すればいいのか的な問題ですが、両方利用するのが最も効果が高いということになっています。 うつの薬は悪い噂を聞くからカウンセリングでとか、カウンセリングは何されるかわからないから薬でとかいう選び方よりは、とりあえず両方やってみれば個人差で薬の方が効果ある人もいるかもしれませんし、カウンセリングの方が効果がある人もいるかもしれませんし、互いを補いあったり、相乗効果があったりするかもしれません。
かく言う私も、かつて薬物療法で自殺行動というかなり取り返しのつかない副作用が出たことがありますが(もしそのとき丈夫なひもを見つけることが出来ていれば、いま私はこの文章を書いていないでしょう。 実際はすぐ頭上に洗濯ロープがあったのですが、見つけることはできませんでした)、そこまでの副作用が出てしまった場合、本人としては低い確率に当たってしまったことについて諦めるほかないのかもしれません(周りの人は、そうもいかないでしょうが)。
もちろん、簡単に自分の命を諦める気はありませんし、他人に命を諦めろと言う気も毛頭ありません・・・諦めなかったからここにいるので。
その上で、やはり薬は使っていますし、改善できる部分は改善してほしいと願っています※註1。
忘れてはいけないのが、薬物療法も認知療法・認知行動療法を含めたカウンセリングも(もちろん、認知再構成法も)、万能ではないということです。
当然、両方とも効果がない場合も想定されます。
薬もカウンセリングも効果がない場合には、電気けいれん療法や経頭蓋磁気刺激法などの選択肢もありますので、確認してみるのも一つの手かと思います。
2006年の精神保健の知識と理解に関する日豪比較共同研究では、日本人の多くがうつ病を心理的な問題とかストレス状態だとあいまいに見ており、うつ病を的確に認識できた率がオーストラリアに比べて半分未満と、日本人のうつ病の認識率は極めて低いことが明らかになっています※註2。
こういったことを踏まえて、今後、うつに対する理解が深まっていくことを願ってやみません。
(今回一連のうつ関連の内容は大うつ病性障害を念頭において書いています。 双極性障害や非定型うつ病には当てはまらないことがあります)
・・・私ももっと、勉強しよう。
(一連の記事を通しておかしな部分があった場合、ご指摘いただけると幸いです)
註1:薬は処方箋を守って、重篤な副作用が出た場合には、必ず即座に医師に相談しましょう。
註2:一般社団法人うつ病の予防・治療日本委員会 (2008). うつ病診療の要点-10 (Report). p.8
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