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「ほめて伸ばす」って、どうなの?

「ほめて伸ばす」って、どうなの?

大森 洋明

REBT心理士。うつ状態から回復した経験を経て、SEからカウンセラーへの転身を図りつつ、カウンセリングを世の中に浸透させようと奮闘中。座右の銘は、菅沼憲治先生に頂いた「生死一期」という言葉。

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 行動療法というものをご存知でしょうか?

 行動療法とは、人間の行動は後天的な学習によって獲得される※註1という、学習理論を基礎とした療法です。 不適応行動は、不適切な行動を経験から反復的に学習した結果であり、適切な学習を行うことにより、不適応行動を減らしたり、適応的な行動を増やしたりする、問題解決志向の強い療法です。

 この行動療法ですが、主に以下の2つの条件付けと呼ばれるものを応用しています。

  • レスポンデント条件づけ(古典的条件づけ)
  • オペラント条件づけ(道具的条件づけ)

 あまり聞きなじみのない言葉かもしれませんが、条件づけという部分で、なにかが思い浮かぶ人もいるのではないでしょうか?

 そう、パブロフの犬です。
 犬に食事を与える前にベルを鳴らすと唾液分泌が云々というやつです。

 と書いてしまうと、「ああ、あれね。 もう分かったわ」と分かった気になって考えるのをやめてしまいそうですが、できればもうちょっと興味を持ってください。
 ・・・とか偉そうに書いていますが、行動療法自体は私も現在のところREBTの補助的な使用を想定して勉強している程度なので、行動療法を中心に勉強されている方々と比べられると、まったくもって手も足も出ないのですが。

 しかし、初歩の初歩程度でも勉強すると見えてくることが多いのも、この行動療法の特徴だと思います。
 その1つが、タイトルの「ほめて伸ばす」です。

 例として、子供の勉強を考えてみましょう。

 言うことを聞かずに勉強をしない子を叱りつけ、勉強をさせます。
 子供は叱られるのが嫌で勉強を始めます・・・間違いなく効果があります。
 しかし、それを繰り返すと、どうでしょう?
 子供はどんどん勉強を逃れようとし、勉強から逃げるために様々な手段を用いるようになるのではないでしょうか。

 当然です。 勉強のたびに叱られるということは、勉強と叱られるという(恐らくほとんどの子供にとって)嫌な出来事がセットで学習されてしまうからです。
 また、子供が問題を間違えた時に「なんで、こんな問題もできないんだ!」などと言うことも、この学習を加速させるでしょう。

 さらに、勉強から逃避するために有効な手段を経験として学習します。 嘘をついたり、逃げたり、遊びまわったり・・・それらの行為が成功すると、成功した行為が効果的であると学習し、また、それらの行為を咎めると、さらに勉強に結びついた嫌なイメージが学習されます。

 初めは効果があると思われた、叱る方法・・・長期的に見て、いかがでしょう?
 この例を見る限り、勉強をさせようとするほど勉強から遠ざかる構図が出来上がっており、とてもいいようには見えません。
 しかし、結論を急いでしまうと(最初のうちは効果があるので)、叱りつける方法の方がいいように思えてしまうのです。 ・・・それが後々、子供を苦しめることにつながるのですが。

 職場でよく怒鳴る上司なども、短期的な成果を結論に結びつけて学習した成果かもしれません(部下に学習させているつもりでも、自分も「怒鳴る効果」を学習しています)。 が、怒鳴り声が聞こえる職場では生産性が激減しますので、上司としての能力に疑問符がつくことに気づいていないのが残念なところです。

 逆に、「ほめて伸ばす」を実践して、効果がないと思った人もいるのではないでしょうか。
 これにはいくつか理由が考えられます。

 まず、学習には時間がかかるということです。

 ほめて伸ばすためには、対象者が適切に学習を行う必要があります。 もちろん、学習には時間が必要です。
 学習が身についていないのに結果を求めても、その行為には何の意味もありません。 数学で方程式を覚える前に、方程式をつかった問題を出して、「解けてないじゃないか、これは効果ないな」と言っているようなものです。

 また、それまで叱られていた場合は、それまでの不適切な学習を消去する必要もあります。 当然、時間がかかります。
「ほめて伸ばす」方法は、(効果が出る前も、効果が出てからも)継続が必要となるのです。

 次に、ほめ方が適切であったかどうかです。

 この文章の流れだとさすがにわかると思いますが、学習理論に基づいて適切にほめる必要があります。 ところが、ほめる、叱るといったことはごく身近に存在し、やろうと思えば手軽にできてしまうため、それ以上を考えようとしない方が多い気がします。

 簡単そうな、入口が広いものこそ、奥の深さに気づいた方がいいでしょう・・・と書いている私も、学習理論を知らなければ、考えることもなかったかもしれませんが。

 中には、ほめ方が分からないという方もいらっしゃるようですが、子供や部下に成果を求める前に、どうほめればいいかを自分がまず勉強してほしいと思うのですが、これは素人考えでしょうか? 相手が子供であるにしろ部下であるにしろ、その人の人生に大きく影響するかもしれませんし、調べようと思えば、たかだか数千円の本を買って読むだけで調べられるのです。

 ほめるところがないと相手のせいにする方もいますが、視点を変えれば、現時点でほめるところがない分だけ伸ばせるところはいくらでもあるはずなので、むしろ何でもできる人よりほめやすいくらいかもしれません。 恐らくは、目標設定の方法さえ分かれば、どうにでもなるのではないでしょうか。
 もちろんこちらも、簡単に調べられます。

「ほめて伸ばす」については賛否様々あると思いますが、経験や感覚で決めつけて思い込みで語ろうとする前に、さらには子供や部下の成長のために、とりあえず理論部分とその応用方法を調べてみると、色々なことが見えてくるかもしれません。


註1:産業カウンセラー養成講座テキスト 改訂第5版 p.57


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