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栃木でダントツ№1サトカメの自分軸

栃木でダントツ№1サトカメの自分軸

森川 滋之

ITブレークスルー代表、ビジネスライター

当ブログ「ビジネスライターという仕事」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/toppakoh/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


下の記事を読んでから興味を持っていたサトーカメラ(以下、サトカメ)に昨日行ってきた。

▼喧嘩上等のカメラ店が「ど素人」に教わった商売の極意
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/29764

会員登録が必要なサイトにも関わらず、ツイートが5,400以上、いいね!が1.4万(2013年11月16日現在)もついている。よく読まれている記事だ。実際面白い。

ちなみにサトカメは、栃木でダントツ№1のカメラ専門店。カメラとその関連商品しか扱っていないが、それらの商品カテゴリに関していえば、コジマ、ヤマダ電機、ケーズデンキ、ヨドバシカメラなどが乱立する栃木県の中で一番の売上高を誇っている。

基本的に値引き販売もしないので、利益率も高いはずだ。

ちなみに値引きについては面白い話がある。

以前、「他店のほうが2,000円ぐらい安いけど」と言ってきたお客がいたのだそうだ。

佐藤専務はそういうときは交渉するのも面倒なので、「その値段でいいですよ」と答えるらしい。値引きを全くしないわけではないのである。

しかし、そのお客が言ったのだそうだ。「いや、おたくの値段でいい。実は、××とか○○とかに行った後にここに来たんだけど、この店の客になるほうが楽しそうだから」と。

こういうエピソードだけでも、サトカメがどんな店か想像がつく人も多いだろう。

さて、訪問した目的は、佐藤勝人専務からダントツ栃木№1の理由を直接聞くため。

佐藤専務のブログ「佐藤勝人の経営一刀両断」から彼にセミナー依頼ができるようになっている。同じように興味を持っていた僕の友人が申し込んでくれた上、誘ってくれたのだった。

 

●佐藤氏自身は「ライフスタイル提案」と呼んでいた

 

佐藤専務の話は、期待以上の面白さで、3時間のセミナーの間、まったく退屈することがなかった

ビジネスの潮流という大きな話から、現場で実際にあった日常的なエピソードまで、すべてが示唆に富んでいた。

実は今回参加したのは、経営や営業などのコンサルタントばかりだったのだが、全員が口をそろえて絶賛していた。

細かい話のほうがすぐに役に立つので聞きたい方も多いかもしれないが、そこはお金を払ってでも聞きに行って欲しい。中小企業が大企業に勝つというような話に関心がある人にとっては、貴重な時間になることは保証する。

今回は、大きいが根本的な話に終始したいと思う。

2013111601.png▲戦後の商売の歴史を紐解く佐藤勝人専務

 

佐藤氏は前提知識として、戦後の商売の歴史をわかりやすく解説してくれた。

最初は業種ごとの御用聞き販売から始まったという。そこにダイエーなどが現れて、「ローコストオペレーション、便利、セルフ」の3つのキーワードで店舗の総合化を図って成功した。

しかし、ダイエーの繁栄もつかの間のこと。世の中は、すぐに専門店化の流れに向かっていった。一方でダイエーらが追求した「ローコストオペレーション、便利、セルフ」についてはネット通販が取って代わることになった。

現在は、ユニクロやヤマダ電機などに代表される専門店チェーンの時代がまだ続いているが、一方で新しい勢力が台頭しつつある

それが、サトカメなどの「ライフスタイル提案」型の商売である。

誤解を恐れずに一言で言ってしまえば、顧客一人一人と向き合って圧倒的な接客をし、顧客をファンにしてしまう商売のやり方だ。

お客のニーズに応えるのではなく、お客の人生を変える」(佐藤専務)ような接客をするのがポイントなのだという。

 

●小阪裕司氏ならマスタービジネスと言うだろう

 

この話を聞いて、勉強熱心な方は、何かと似ていると思ったに違いない。

そう。日経MJなどでおなじみの小阪裕司氏の「ワクワク系マーケティング」である。

小阪氏は、いろいろな演出によって顧客をファンにしていくマーケティングを提唱しているが、その中でも重要な概念が「マスタービジネス」というものである。店長(社長)が伝道師(エバンジェリスト)となって、顧客をファンとしていくやり方だ。

ファンになった顧客は、店長・社長が伝えてくれる情報が欲しくて店に集まってくる。というよりも店長や店員との会話自体を楽しみに足を運ぶと言ってもいい。

そのうちに顧客同士の交流も始まり、顧客はその店を中心としたコミュニティから離れられなくなる。もはや人生の一部だからだ。

なので、顧客は当然のように店が提示した価格で商品を買う。それどころか、いつもいいものを勧めてくれてありがとうとまで言うのだ。近所の安売り店など見向きもしない。

ほとんど利益の出ない額で安売りしているのに、顧客に文句まで言われるというような店長や営業マンにとっては、信じられない話だろうが、こういう事例は実際にいくつもあるのだ(嘘だと思ったら小阪氏の本を読むといい)。

サトカメのビジネスも同じである。

顧客をファンにするためのさまざまな仕掛けをし、実際に顧客はファンになり、言い値で買い、お礼まで言うのである。

2013111602.png

▲サトカメ本店。顧客を楽しませるための様々なシカケが施されている

すみません。少しピンボケしているが、上がサトカメ本店の内装である。

赤線で囲った部分で女性なにやら作業をしているが、これは顧客用のエリアである。顧客はここにきてプリントした写真を切ったり、貼ったりして、自由に自分の作品を作ることができる。

我々はデジカメの写真ならPCで加工すればいいと思いがちだが、写真をプリントして、コラージュなどを作るのはとても楽しいのだという。特に若い女性に受けているらしい。

実際、サトカメの顧客層は20代30代の女性が圧倒的に多く、ついで50代60代の男性なのだそうだ。普通のカメラ店とはまったく違う顧客層を開拓しているのが分かる。

なお、このようなサービスを店内でしているのは、ハードディスクなどに死蔵しがちになるデジカメ写真をプリントさせるのがねらいなのは言うまでもない。そのために、新しい楽しみを提案しているのである。

ただ、マスタービジネスと言い切ってしまうのは表面的だろう。

佐藤氏が小阪氏と一線を画するとしたら、それは顧客の人生(ライフスタイル)を変えるからには、使命感が必要だと力説しているところである。

もちろん小阪氏もビジネスにおける理念や使命の大切さについては重要視しているのだが、それはマスタービジネスの本質ではない。マスタービジネスはどちらかというとテクニックとそれを裏付ける考え方を重視しているというのが、僕の考えだ。

※と書くと、小阪氏はもちろん反論するだろうが、「売るための考え方」ということを小阪氏が第一においているのは間違いないと思う。小阪氏の一番の楽しみは、そういう事例を科学的に解き明かすことだ。彼は感性工学という学問を研究する学者でもあるのだ。

 

●手前味噌だが自分軸が素晴らしいのだと思う

 

佐藤氏の理念は、「日本の写真文化を守る」(もっと広く、日本を文化国家にしたいという言い方もできる)ということである。

佐藤氏に言わせると、カメラの周辺機器(たとえばレンズフィルターなど)で本当にいいものを作っているのは中小企業なのだそうだ。

規模も小さい上に品質の高いものを作っていれば、当然だがコストがかさむ。

大手メーカーが10円で作れるものが、15円になる。

ところが全国展開している大型量販店は、中小メーカーにはブランド力がないという理由で、安く買い叩いて、さらに安売りしてしまうのだという。

安売りされてしまうと、消費者にはその価値は分からない。安かろう悪かろうと思ってしまう。せっかくいいものを作っている中小メーカーの悲しみは想像以上のものだろう。

そこで、佐藤氏はそのような製品を中小メーカーの言い値で直接仕入れる。そして、これはいいものだからと大手メーカーの商品以上の価格で顧客にも販売する(その販売力がサトカメにはある)。

そうしないと、中小メーカーはドンドン潰れていき、日本の写真文化は滅んでしまうのだというのである。

実際、大型量販店には卸さないで、サトカメだけに卸したいという中小メーカーが次々と話を持ってくるのだという。

これは、結果としてサトカメの差別化に繋がっていく。サトカメに行かないと売っていない商品があるということだからだ。

僕は手前味噌だが、サトカメの場合も自分軸が素晴らしいのだと思う。

僕は、「誰に・何を・なぜ」提供するのかを自分軸と呼んでいる。サトカメの場合、それが明確なのだ。

  • 誰に:栃木県内のサトカメに出会うまでカメラに興味のなかった人
  • 何を:人生の思い出を写真という媒体を通じて美しく残すこと
  • なぜ:日本の写真文化を残すため

佐藤氏は、こういう商売に特化していて、全くブレがない

僕にとっては、自分軸の持つ力に関して、さらに確信を深めたセミナーであった。

 

追記

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