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【次世代PR試論】タンタンと書くための訓練法
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前回は、「タンタン」と書こうと提唱した。
タンタンとは、一文を短く、単一テーマで書こうということだ。これを心がけるだけで、あなたの書く日本語の文章はかなりわかりやすくなるはずだ。
しかし、「タンタンと書け」と言われてすぐ書けるかというと、これが意外と難しい。そこで、今回はタンタンと書くための訓練法を紹介したい。
● 日本語の文の基本構造
訓練法を紹介する前に、文の書き方がテーマなので、まず日本語の文の構造について確認しておこう。
このシリーズでは何度も強調していることがある。それは、日本語の文には、英語のような「S(主語)+V(動詞)」という基本構造はないということだ。
では、どうなっているかというのが下図である。
見れば分かるように、必須なのは述語だけであり、他は述語に掛かる修飾語(句・節)という構造になっている。
もちろん例外はある。感嘆詞や名詞だけで終わる文もある。また、接続詞のように述語を修飾しないで文と文の関係を示すだけの単語もあるし、文全体を修飾する副詞も存在する(※)。
ただ、これらを除けば、一般的な文はこのような構造になっていると言っていい。
なお、これは僕のオリジナルの説ではなく、本多勝一氏の『日本語の作文技術』に書いてあったことだ。この本を読んだのは予備校生時代だったが、それまで日本語にも「主語+動詞」という英語的な構造があると思い込んでいたので、この説明に大きなショックを受けた。なので、はっきりと憶えている。
僕のその他の日本語論もこの本から大きく影響を受けていると思われるが、これ以外は自分なりに考えたことが含まれている。他の本の影響も受けているであろうが、もはや血肉化しているので、具体的にどの本のどの部分の影響というのは難しい。
※重文という複数の文が1つの文の中で並列関係になっているものもある。また、複文という1つの文の中に他の文が入れ子構造になっているものもある(複文では、入れ子の内側にあり、述語を修飾しているとみなされるものを「節」という)。タンタンと書くという観点からは、重文はできるだけ避け、複文では節をできるだけ短くするということを推奨する。
● テーマと「主語」は別物
具体例を見てみよう。ちょっと長めの文を手元の本から探してみた。
煮えたぎった釜の中に、むくんだひげ面が、器用に箸にまいた生ラーメンを、散らさないように輪をかきながら、そっと静かに流し込む。(安部公房『燃えつきた地図』より)
これを図解したのが下図である。
修飾句が5つあり、これらが全て述語である「落としこむ」を修飾していることが分かるだろう。
いわゆる主語にあたるのは「むくんだひげ面」になるが、これがなくても日本語の文としては違和感がない。「誰が」やったかが示されていないだけのことだ。
どちらかというと、「(器用に箸にまいた)生ラーメンを、」が省略されるほうが違和感を感じないだろうか? このように省略すると違和感を感じるものが、その文のテーマであることが多い。
● 読点も基本的な文の構造で考えれば間違えない
例題としてあげた文では修飾句が連続しているため、作者の安部氏はその区切りで読点を打っている。この打ち方は極めて正しい。
読点(、)はこの構造を意識していれば正しい位置に必ず打てる。要するに、述語を修飾する塊の区切りで打てばよい。
場合によっては必ずしも打つ必要はないのだが逆にこの構造を意識しないで読点を打つと、読者に違和感を与えてしまうだけでなく、意味が変わってしまうこともある。
先ほどの文で言えば、こんな打ち方だ。
煮えたぎった釜の中に、むくんだひげ面が器用に箸にまいた、生ラーメンを散らさないように輪をかきながら、そっと静かに流し込む。
意味は取れるかもしれないが、かなり気持ちの悪い文である。しかし、こういう文は結構よく見かける。
悪文の多くはこのようなものだ。日本語の文の基本構造を壊してしまっているのである。なので、読点の打ち間違いで悪文になっているケースがとても多い。
● 箇条書きをマスターしよう
前置きが長くなったが、以下に必要なことなのでお許し願いたい。
タンタンと書くための訓練法という話だった。
これ自体は簡単で、まずは箇条書きをマスターしようということである。
僕はライターであるが、実は文章修行というものをしたことがない。
日本語に関する本や文章読本は結構読んでいる。しかし、よく言われる「写経」(文章の達人の本をまるまる書き写すこと)をしたことはないし、ライター教室に通ったことはない。
一番の文章修行は多読だと思う。とはいえ、テクニカルな訓練は皆無ではない。僕にとっては、小学校の国語の時間にやった箇条書きというものが、その訓練だった。
今でこそいきなり文章を書き始めるようになったが、ライター仕事を始めた頃は、必ず先に箇条書きをしたものだった。
この箇条書き、バカにする人がいるかもしれないが、なかなか難しいものである。
自分がこれから書くものをいきなり箇条書きしろと言っても、出来る人はほんとうに少ない。
まずは、人の書いた文章を箇条書きにする練習から始めることだ。
箇条書きをする際には、前回の「日本語の文章の入れ子構造」(下図)を参考にして欲しい。
テーマ毎にまとめるのが1つ。そして、箇条書きの個々の条は、「詳細テーマ+記述」という形式になっていることが1つ。この2つが守られていればいい。
今回、前置きが長かったのは、今まで「記述」の部分についてはほとんど述べていなかったからだ。
既にお分かりと思うが、記述の部分では「述語」が中心となる。
したがって、箇条書きの個々の条は、最低限「テーマ」(見つけ方は前述した)と「述語」があればいいということになる。なお、箇条書きの中では「述語」の部分は体言止めでも構わない。
具体例がないと分かりづらいという方のために、今回の記事の箇条書きの例を書いておくので参考にしてください。
● (出だし)
- 前回は、タンタンと書こうと提唱
- タンタンとは。短・単
- タンタンの実践は意外と難しい
- タンタンの訓練法を紹介
● 日本語の文章の基本構造
- 文の書き方がテーマにつき先に、文の構造を確認しておく
- 必須なのは述語だけで、あとは全て述語への修飾語(句・節)
- 例外はあるが、ほとんどがこの構造
- オリジナルは、『日本語の作文技術』
● テーマと「主語」は別物
- 具体例で文の構造を示す
- 「主語」がなくても違和感はない
- ないと違和感があるのがテーマであることが多い
● 読点も基本的な文の構造で考えれば間違えない
- 読点は、述語を修飾する塊の区切りに打てば間違いはない
- この区切りを無視すると、おかしくなる
- (具体例)
- 悪文は、日本語の文の基本構造を壊してしまった文
● 箇条書きをマスターしよう
- タンタンと書くための訓練法は、箇条書きのマスター
- 筆者は、文章修行をしたことがないが、唯一箇条書きの訓練はした
- ライター仕事を始めた当初は、必ず先に箇条書きをした
- 箇条書きはなかなか難しく、いきなりやれと言われてできる人は少ない
- 人の書いた文章を箇条書きにする練習からはじめよう
- 箇条書きをする際には、前回の図が参考になる
- 箇条書きの個々の条は、最低限「テーマ+述語(体言止め可)」になっていればよい
● まずはコアを明確に
箇条書きは、文のコアになる部分である。
コアがはっきりしている文章は分かりやすい。まずは、コアがはっきりしている文章を書けるようになることだ。そのために箇条書きの訓練をお勧めしている。
文章の上手い下手を、コア以外の修飾部分の巧さで評価する向きもあるが、そんなのは二の次なのである。
☆☆☆
PRのための文章の書き方がシリーズのテーマなのだが、日本語論が長くなった。僕が文章を書く際に心がけていることはこのぐらいである。
ということで日本語論については、ひとまず措くこととし、次回から本論に入っていく。