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心地よいことを言うマーケッターに騙されたくはない
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「スリード事件」をご存知だろうか?
僕は、つい昨日まで知らなかった。新聞や雑誌をほとんど読まないので知らなかったのだと思うが、少なくともテレビで話題にはならなかったように思う。
なので、ほとんどの人は知らないのではないだろうか。
あまり騒がれなかったので、事件というのはふさわしくないのかもしれない。ただ、他に言葉も思い浮かばないので、事件と呼ばせてもらう。
こういう事件だ。
第162回国会の郵政民営化に関する特別委員会(平成17年6月29日)で、共産党の佐々木憲昭委員が郵政民営化担当大臣の竹中平蔵氏と以下のようなやり取りをしている。
○佐々木(憲)委員 だから、私はこれを紹介したんです、聞いているか聞いていないかは、それは別として。こういう戦略というものは国民を愚弄した戦略じゃないのか、そう思いませんかと聞いているんです。考え方を聞かせてください。
○竹中国務大臣 民間の企業の企画書でございますから、私はコメントをする立場にはございません。政府としては、そのような話を政府の中でしたという事実もございません。(衆議院会議録情報より)
佐々木委員が「国民を愚弄した戦略」と呼んでいるのが、有限会社スリードが作成した「郵政民営化・合意形成コミュニケーション戦略(案)」である。
同文書から、「国民を愚弄した戦略」をもっとも端的に説明している図を引用する。
当初、この文書は偽文書との噂もあった。
ところが、その後スリードが謝罪広告を出したため、実在することが逆に明らかになった。同時に、竹中氏の上の発言は嘘であるか、あるいは記憶違いであるかどちらかであることも判明した。
戦略について、僕の言葉で要約する(僕の受け取り方なので、公平を期すため「郵政民営化・合意形成コミュニケーション戦略(案)」も併せて読むのが望ましい)。なお、「既に(失業等の痛みにより、)構造改革に恐怖を覚えている層」は命名されていないが、便宜上D層と呼ぶ。
- B層は「具体的なことはわからないが、小泉総理のキャラクターを指示する層」(つまり、政策ではなくムードで投票する層と規定)
- B層は、IQが低いので、徹底してわかりやすいキーワードを繰り返し、それを憶えこませる
- B層は、IQ、EQ、ITQ(ITリテラシ)が低いので、媒体としてはフライヤー(チラシ)が良い(新聞も雑誌も読まないし、ネットも使いこなせないからということ。ただし、実際のB層は少し違う。新聞・雑誌・ネットに目を通している人も多い)
- B層を取り込むために、A層を起用したイベントを開催する(B層はテレビなどに出ている有名人の言うことを鵜呑みにするため)
- C層、D層は無視
一番票になるのは、一番人口の多いB層だから、そこに集中する。逆にいえば世の中はIQ、EQ、ITQの弱い人たちがマジョリティと言っているわけだ。
確かに「愚弄」している。 竹中氏は、知らぬ存ぜぬ、ノーコメントで押し通すしかなかっただろう。
そして、実際この通りの戦略を自民党(というより小泉一派が正確か)は、郵政民営化選挙で展開したのだった。
僕がこの事件のことを知ったのは、適菜収氏の『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』を読んでのことだ。また、今回リンクした資料については、Wikipedia「B層」でその存在を知った。
適菜氏の意見の中には、僕のような者にでも極端だなと思うものがあり、すべてに賛成ではない。
だが、現代が民主主義の最終段階である衆愚政治に陥っていて、もう取り返しのつかない状況にあるという問題意識には頷ける。
ただ、今回の記事で書きたいテーマは日本の政治状況批判や大衆批判ではない。
この図を見て、僕が以前から主張していることと似ていると思ったので、それについて書く。
その前に、タイトルを思い出してほしい。「心地よいことを言うマーケッターに騙されたくはない」だった。「騙されないようにしよう」とは書いていない。「騙されたくない」人に向けて書きたいということだ。
騙されている人は、僕の文章ぐらいじゃ目は覚めない。もっと強いきっかけで気づくしかない。
下図は、以前に書いた「成功者が人をありがたいと考えているとは思えない理由」 に載せた図の一部に書き加えたものだ。
僕が、パターン1、パターン2と呼ぶ人たちがA層に、パターン3と呼ぶ人たちがB層に、見事に対応している。
B層の特徴を適菜氏は、以下のように述べている(前掲書)。
B層は「改革」「変革」「革新」「革命」という言葉が大好きです。「改革」というキーワードがついていれば、なにを改革するかは別として、そのまま誘導されていく。(P28)
彼らは《理念》や《抽象的概念》が大好きです。その一方で、歴史によって培われてきた《教養》《中間の知》《手のわざ》を軽視する(P33)
B層は絶対に反省することがありません。無制限に拡大した権利意識と被害者意識がB層の行動を規定します。(P35)
素人が玄人の仕事に口を出すようになり、誰もが当然その権利をもっていると信じ込んでいる。(P36-37)
自分たちが《合理的》《理性的》《客観的》であることに深く満足している。(P49)
たとえば、絆、坂本龍馬、ドジョウの持ち味、相田みつを、友愛、EXILE、米百俵の精神、X JAPAN、埋蔵金、民営化、人権の党、韓流、アジェンダ......。(P153、筆者注:「B層の琴線に触れる言葉」として)
これらは、パターン1や2(つまり成功屋)が、パターン3(今後B層と呼ぶ)をだまくらかすときに重視する性向でもある。
成功屋は、以下のような言葉でB層に語りかける。
一緒に日本を変えていこう!
理念がお客様を感動させるんだ。感動すればお客様が口コミでお客様を呼んでくれる。
あなたの言うことを100%受け入れるよ。君らしくやればいい!
誰だってあきらめない限りプロになれる。
僕の言うことがわかる人は少ない。君たちは本当にすばらしい!
坂本龍馬の精神で行こうよ!
前項で挙げたB層の特徴に、順に対応させてみた。
さて、このブログで今まで書いてこなかったが、一番警戒すべきなのは、B層に響く言葉を多用するマーケッター(もちろん成功屋)たちである。
スレードの提案も、マーケティングの手法を駆使している。
2軸のマトリクスを書いてターゲットを絞り込むのは、マーケッターのもっとも得意とする手法だ。見つけ出した2軸がすばらしければ、そのマーケティング戦略は高い確率で成功する。
スレードという会社にはいろいろ怪しいところもあるようだが、マーケティング的観点から見れば、この2軸は見事であり、自民党が大勝したのも頷ける。
しかし、やはり大衆を愚弄しているのには間違いない。
なので、下に再掲するようなことをいつも言っている集客コンサルタントなども、実はクライアントを心の中では愚弄していると言って差し支えない。だって、マーケッターであるコンサルタントが見つけ出した2軸によってターゲットとされたカモが、彼らのクライアントなのだもの。
一緒に日本を変えていこう!
理念がお客様を感動させるんだ。感動すればお客様が口コミでお客様を呼んでくれる。
あなたの言うことを100%受け入れるよ。君らしくやればいい!
誰だってあきらめない限りプロになれる。
僕の言うことがわかる人は少ない。君たちは本当にすばらしい!
坂本龍馬の精神で行こうよ!
愚弄されているのを知って、こいつのノウハウだけ利用してやろうということなら騙されない。こういう人はA層だ。
しかし、尊敬して言うことを聞くだけのB層は、いいカモがきたと思われているだけなのである。
僕は、A層もB層も好きになれないので、このようなコンサルタントに、僕が愛する人たちが近寄らないでほしいと日夜願うしかない。
「ところで、お前はどの層なんだ?」
嫌な質問をしますね。
僕は、元々はC層だったが、知人の某にA層になれると騙されて、実際はB層となり、破産寸前で気づいて、今はC層に戻りたいD層となりました。