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【書評】『ノマドワーカーという生き方』
当ブログ「ビジネスライターという仕事」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/toppakoh/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
記念すべき666エントリー目を6月6日に出すことができた。狙っていたわけではないが、数日前に気づいたので調整しました。
今回は、書評なので、疑問は並ばない。
否定的な書評ならいいが、肯定的な書評を書くのに、「本当にそうなのか?」というブログタイトルはふさわしくないよなあ、などと思いながら書きます。
ノマドという言葉にあこがれる人もいれば、拒否反応を示す人もいる。地に足がついていない感じが拒否感につながるのだろう。
中には、何それ? という人もいるかもしれないので、簡単に説明する。
「遊牧民」という意味で、特定の組織に属さず、またオフィスなどをもたずに働く人を指す。ほぼほぼフリーランスと同義なのだが、ノマドを自称する人たちは、フリーランスよりも自由度が高いということを誇りにしている(そのあたりが鼻につく人もいるらしい)。
ノマドの出所を知らない人が多いと思われるので、多少の薀蓄を述べる。
元々は、フランスの大思想家(20世紀最後の大思想家・哲学者といっていい)ジル・ドゥールズの造語らしい。彼の造語かどうかを示す根拠は見つけられなかったのだが、ノマドという言葉を世に広めたのは彼で間違いない。1970年代ぐらいからのことだ。
日本では、坂本龍一さんが早くから自分を称してノマドと言っていた。彼は、ドゥールズを踏まえて、そう発言していたはずだ。
僕は最近、浅田彰さんの『構造と力』や『逃走論』を読み直している。1980年代前半の本だ。そこにも「ノマド」という言葉はよく出てくる。そちらからの引用を紹介しようとも思ったが、哲学書を読みつけていない人には難解でいやになるだろう(慣れの問題で、頭の良さとはあまり関係ない)。
と思っていたら、頭のよい学生がいて、彼がこのあたりのことを実に要領よくまとめてくれていた(上の薀蓄も彼の文章に依存するところが多い)。そちらのリンクを紹介しよう。
▼『千のプラトー 資本主義と分裂症』
http://atlantic.gssc.nihon-u.ac.jp/~e-magazine/017/book2.htm
※ただ、ある程度踏まえていないとやはり難解かもしれない。
彼の説明がノマドの本質を示している。ポイントだけ挙げると次の通りだ。
- (近代国家のしがらみからの)逃走ではあるが、脱出ではなく、最終的には支配を目指すポジティブな逃走
- 技術が武器
ノマドと聞くと、ネットとつながるガジェットを駆使して場所を選ばず働くとか、それも世界中を飛び回るとかというイメージがあるかもしれないが、まったく本質的ではない。
近代国家が産んだ従来の組織から離れつつも、専門技術・知識を武器にして世の中と関わっていくというのが本質なのである。その武器で、既存の組織や世の中を変えてやろうぐらいの気持ちがあるとなおよい。
それこそ大学ノートとボールペンからでも始められるし、自宅を中心に働いていても構わない。
ノマドは思想なのだと僕は解釈している。
さて、ノマドという言葉に抵抗がある人は、立花岳志氏の『ノマドワーカーという生き方』という本は、タイトルを見ただけで手に取ろうとも思わないだろう。
しかし、それはもったいない。
ノマドというのは、そういう人が思っているほど、「ちゃらい生き方」ではないのだ。
今の世の中、確かに会社に依存するのもやばい。しかし、退職して、フリーで仕事をするのが楽かといえば、そんなことはまったくない。それなら、みんなフリーになるはずだ。
フリーで生きるには、戦略がないといけない。僕のように無手勝流が戦略といういい加減なの(多少謙遜しています)もいるが、ほとんどのフリーランスは戦略的にやっている。
その中でも、ノマドと自称できるだけの自由度を確保しようと思ったら、一生懸命考えて、一生懸命行動しないといけない。そして、それを楽しめないと続かない。
『ノマドワーカーという生き方』には、一生懸命考えて、一生懸命行動するというのはどういうことがまず書かれている。ここまでは、どんな本にも書かれているようなことだ。ただ、かなり具体的に手の内を明かしてくれている。
同書がすぐれているのは、それを楽しむ方法についても書いてあることだ。
※画像はAmazonから拝借しました。書名および画像からAmazonアソシエイトにリンクしています。
ところで、ノマドといってもいろいろだ。人によって違うのがノマドの特徴といってもいいぐらいだ。
立花氏はどのようなノマドなのであろうか?
彼は、プロブロガーを自称する人である。職業がブロガーなのである。
▼立花氏のブログ「No Second Life」
http://www.ttcbn.net/no_second_life/
月間160万PVを超えることもあるということなので、アルファブロガーといって差し支えないだろう。
ブログを媒体にして、アフリエイトとイベントと企業コンサルで生計を立てている。
ここまで聞いて、やっぱり「ちゃらい人」と思ったかもしれないが、ちゃらい人が大嫌いな僕が、そんな人の本を紹介するわけがない。
特筆すべきなのは、彼はかなり後発のブロガーだということである。
本格的にブログを開始したのが、2008年12月。2010年6月(同書では2010年5月と書かれているが記憶違いだろう)にはじめてお会いしたときには、僕のアメブロよりはずっと読者数がいたが、アルファブロガーというにはまだ遠い数字だった。
それから2年も経たないうちに、月間160万PVのアルファブロガーである。
彼は、いったいどんな努力をしたのだろうか? 以下、ブロガーもノマド志望者も必読である。
立花氏が今のブログをはじめてから独立するまでのヒストリーと戦略を図(クリックすると拡大図)にまとめてみた。
二重線で囲んだ四角は、立花氏の転機。その際に考えた戦略上のポイントを噴き出しで示した。下の黄色い長四角は、戦略のベースとなる考え方を示している。詳細は、『ノマドワーカーという生き方』を読んでほしい。僕なりのまとめなので、多少間違いもあるだろう。
「なんだ。成功本の焼き直しかよ。森川、てめえ、嫌いなんじゃなかったのかよ?」と文句を言われそうだが、さにあらず。
僕が嫌いなのは、次のような人たちだ。
- (自分が論理的でないのは棚にあげるが)少々論理性のないことを言う
- それに、文句を言うと「斜に構えるな」と言い返してくる
- ありきたりだけど欲望を刺激するのには長けたコンテンツを無料でばら撒く
- 高額なセミナー料を払わうと本当の手の内を明かすとほのめかし、それも実はたいしたことがない
- そんな程度のことで儲かるのだと気づいたフォロワーを大量に生み出し、そいつらがまた同じことをやる
- 失敗者が文句を言うと、途中であきらめたからだとか、言われたとおりに行動しないからだとか、人の責任にする
立花氏のように愚直に(ではあるが、自分なりにアレンジしたうえで)努力を続けている人はむしろ好きなのである。
以前、僕は"成功業界"側には、教祖(およびその取り巻き)と僧侶の二種類がいると書いたことを憶えているだろうか。僕が嫌いと言っているのは教祖(と取り巻き)であり、僧侶は好きなのです。そういえば、立花氏は僧侶のような風貌だ(笑)。
さて、戦略上のポイントは、アルファブロガーを目指す人には参考になるだろう。僕は、やっぱりアルファブロガーにはなれないと思い知りましたが・・・。
ただ、ポイントはたくさんあるが、僕が思うに、彼の最大の成功要因は、赤字で示した「楽しみながら続けるためのガジェットの活用とそのコンテンツ化」の部分だと思う。それは、矢印で示したように「読者と自分の両方のために」という大方針から来ている。
最初に立てた方針がすばらしいのだ。
しかしながら、もっと重要なのは立花氏の人当たりの良さだと思う。
どういう人なら応援されるのかを知悉して、戦略的に人当たりをよくしている部分もあるのかもしれない。ただ、やっているうちに本当に人格が変わってこないと、化けの皮がはがれてしまう。
僕がこれだけ気合の入った書評を書いているのも実は理由があるのだ。
『ノマドワーカーという生き方』の75ページから76ページにかけて、はじめて参加したセミナーとして、僕の自分軸セミナーを載せてくれているのである(下図。クリックするとPDFが出ます)。
それで、上の図で「セミナー初参加」という四角を赤で塗ったのであった(いやらしいですか? だったらすみません)。
真面目な話、僕自身は、自分の自分軸が確立できないのに、人の自分軸を作る手伝いをするのってどうかなと思い、自分軸というコンテンツを封印していた。
だけど、これを読んで、そうか、自分のことはいいから人の手伝いができればいいんだと思い直した。僕のセミナーが役に立ったと言ってくれたことで、思わぬ方向性が見つかり、それが自己肯定につながる。要するに勇気付けられたのです。
立花氏は、自分の本の中でたくさんの人を持ち上げている。僕のような、彼から見たら追い越したと感じてもいいような人間でもきちっと取り上げてくれている。
なにしろ帯の推薦が、吉越浩一郎さんと勝間和代さんであり、彼らと実際に知り合いなのだ。僕のような者とつきあう必要性はない。
ステージが変わったら昔の知人は切り捨てるなどとのたまうバカ者が多い中、僕はそれがうれしくて、わざわざ図解まで書いて、気合を入れた書評を書いた。
ネットとリアルの融合と立花氏は書いているが、こういう配慮こそが「ノマドワーカー」には一番大事なことのように思う。
処女作らしい、思いの詰まった、また初々しさも感じるいい本です。
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