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日本のIT業界の歴史はロックの歴史だ
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以前、「日本はなぜIT後進国なのか」という記事を書いたが、僕は少し狭い範囲の話を書いていたようだ。いや、実はそのことは分かっていたのだが、他の世界の情報が少なすぎたのである。
今、20代、30代のIT起業家の人たちは、まったく違う動きをしていることが最近分かってきた。
プラムザの島田社長が最近なんとなく僕を避けているような気がしたので(本当は、ただただ忙しく僕にかまう暇がないだけだった。ホッとすると同時にうらやましい)、FBでメッセージを送ったら、今晩IT技術者の集まる飲み会があるので来ないかとのお誘いがあった。
ちょうど(というよりもいつも)予定がなかったので、飛びついた僕は、その夜新宿にいた。
新宿ワシントンホテルの1Fにある「ざうお」。生簀(いけす)で釣りができるというのがうけているのか、最近急激に伸びているチェーン店である。
ちなみに写真は僕の釣った伊勢エビ。魚はなかなか釣れないが、エビや貝はひっかければ釣れるので狙い目だ。ただし、高くつくけど。
そんなことはどうでもいいか......。
まあ、こんな場所に、新進気鋭のIT起業家が集まったのだが、僕はそこになぜかロックの歴史をみたのだった。
僕の最近の収入のほとんどは、IT企業を顧客とした、事例制作やコラム記事執筆などの執筆業である。
このような仕事は、社員数500人以上の大企業が発注してくれる(間にエージェントが入る場合が多いが)。多くは一部上場企業である。
僕も一部上場のIT企業にいた(僕は上場企業なんかに入りたくなかったし、入ったときは上場前だった。その後僕に断りなく上場したのである。断るわけないけど)。その会社は8年前に辞めたが、僕の顧客企業の社員は相変わらず当時僕自身がいだいていたような悩みから抜け出せていない。当時より、様相は悪くなっているかもしれない。
それでも一生懸命働いている担当者の姿に、僕は密かに胸を打たれているし、何とか役に立てればと思っているのだが、まあ、組織のしがらみみたいなものにお付き合いするのが関の山だ。
こういうことを言ってはいけないのだろうが、あまり明るい兆しを感じない。少しでも一緒に苦しんで、多少の知恵を出すぐらいが僕にできることのように思われる。
そういう状況をみて、日本のIT業界全体に危機感を抱いていたのだが、水面下では明るいことになっていたのだった。
その兆しを最初に感じたのは、冒頭の島田社長の会社、プラムザを取材したときだった。
取材内容は、下記をみてほしい。最近、パッケージのカスタマイズとか、運用・保守ばかりで仕事がつまらない、自分の技術力をフルに発揮したいというITエンジニアは必見だ。あなたの求めている選択肢の候補がここにある。
▼SEの未来を開く、フルスクラッチ開発術
http://jibun.atmarkit.co.jp/lskill01/index/index_fullscruch.html
※ちなみに、これはPRだが、上の連載終了後、引き続きこんな連載もしていて、結構好評のようだ。
▼ITエンジニアの市場価値を高める「営業力」
http://jibun.atmarkit.co.jp/lskill01/index/index_sales.html
正直、いまどきフルスクラッチ開発なんていうのは時代遅れだ。アイティメディアだから共感してくれて連載させてくれたが、日経BPにこんな企画を持っていっても載せてくれないだろう。こちらに行くときには、完全自動開発に取り組んでいる企業の記事の企画を持っていく。
これはどっちもアリなのだ。志さえ合えば、僕はどちらも取材する。
とはいえ、プラムザの取材をしていると、もはや技術者とは言えない自分の、残りかすのような技術者魂に火がつく思いがするのだ。俗な言い方をすると、ワクワクする。
時代遅れなのにワクワク感。どこかで感じたことがあるぞこれ、と心に引っかかっていたのだが、それがようやく分かった。
プラムザはパンクロックだったのだ!
パンクロックというのは、1970年代半ばのロックのムーブメントであり、ジャンルでもある。
重厚長大化し、産業化したハードロックやプログレッシブロックへのアンチテーゼとして、スリーコード中心のロックの原点に戻ることを提唱したものだ。
いまどきフルスクラッチ開発をやるというのは、ソフトハウスの原点に戻るということであり、まさに現在の業界へのアンチテーゼでもある。
僕は、プラムザの島田社長や内藤取締役の話に、パンクを感じていたのである。
そういえば、島田社長のブログは、まるで1976年ごろのジョニー・ロットン(セックスピストルズのボーカリスト)の発言のシニカルさと通じるものを感じる。二人ともインテリで、意外と(?)ビジネスマンであるところも似ている。
ただ、プラムザ=パンクロック説は、単独で思いついたものではない。
ざうお新宿店での、IT起業家たちの話を聞いてから、そう思ったのである。
彼らの話はとにかく面白かった。
北海道では小樽に新進気鋭のIT起業家たちが集まって、みんなでワイワイやっている、なんて話は、なかなか聞けないことだ。
某クラウドの障害修復で、一晩で数百万円稼いだ男も来ていた。かなり大きな事件だったのだが、その修復のために白羽の矢が立つ男なわけである。そんな風にはぜんぜん見えないのだが。
共通しているのは、金を稼ぐことよりも、みんな興味のあること、好きなことをやっているということ。それから、開発だけでなく運用にも関わっていること。
プラムザも運用ビジネスをやっている。
いま多くの中堅ソフトハウスが経営難に陥っているのだが、彼らはほとんど運用ビジネスに手を染めていない。そういうのは大企業、あるいはホスティングなどの専業業者がやるものだと思っている節がある。
運用のベースカーゴ(稼ぎの種)がないと、面白い開発はできない。
プラムザがパンクだとしたら、ざうおで会った彼らはニューウェイブ、あるいはもっと飛び越えてオルタナと言えるかもしれない。
僕のオルタナの理解は、メジャーでそこそこ稼ぎつつも、インディーズでは全開で好きな音楽をやっている連中ということだ。ざうおに集まった人たちも一方で大きな企業とつきあって稼ぎを得ながら、一方では先端の技術に取り組んでいるという感じなのだ。
この自由さは、まさにオルタナである。
ビットバレーの連中のような大きな稼ぎはないかもしれない。IPOなど目指している雰囲気もない(目指していてももちろんいいのだが、それが人生の夢みたいなガツガツ感はない)。
しかし、ゲリラ的に大きな案件に関わりつつ、一方ですごい一発逆転の可能性も感じさせる。仮に一発逆転はなくても、いつまでもしたたかに業界で生き残っている。
そして何よりも、彼らは確実なテクニックをもった技術者なのである。
ここで日本のIT業界の歴史を、ロックの歴史になぞらえるとよく似ていることに驚かされる。
まずは、IBMやユニバック(現ユニシス)、DEC(現HP)などアメリカ勢が日本のIT業界の基礎を作った。今でも当時の外資系OBたちの業界への影響力は強い。
これらはロック以前。クラッシック、あるいはジャズのビッグバンドと言えるだろう。大規模開発プロジェクトはオーケストラを思わせる。
日本の大手SIer、富士通・日立などは、彼らから直接影響を受けた。最近はモダンジャズやロックなどもやるようになったが、基本的にはオーケストラが得意だ。
昔はプロパーだけでオーケストラをやることもあったが、今ではプロパーは指揮だけで、演奏は外部の演奏家がやっている。外部の演奏家にあまりお金を払わないのが特徴だ。
僕が「日本はなぜIT後進国なのか」で書いたのは、まさにこの世界のことである。
ロックが出てきたのは、ITバブルの少し前。ビットバレーに"ドリーム"を持つ若い起業家たちが集まったころからである。
ここで現在にも続く、ビートルズやレッド・ツェッペリン(ロックの世界ではどちらもいなくなったがCDはいまだに売れている)クラスの新興企業が現れた。
彼らは、大企業に属していなくてもビッグになれるということを証明したという意味でロックなのだ。
ロックの世界でもビートルズにあこがれて、ビートルズもどきのバンドが雨後の筍のように出てきたが、日本のITバブル時代も楽天やライブドアにあこがれて次々と若い起業家があらわれた。それらがすべて消えてなくなったのも、よく似ている。
生き残ったプレーヤーたちはどんどん重厚長大化していき、巨大産業化していった。巨大産業になると下支えの人たちが必要になる。たくさんの人をかき集めるわけだから高いレベルの技術は期待できない。彼らでも簡単に開発ができるツールが整備されていく(もちろん、それらのツールを期待以上の高いレベルで使いこなす人たちも出てくる。言ってみれば楽器はできないが打ち込みでは達人という人たちだ)。
そんな中で、ムーブメントというのには程遠いにしても、プラムザのようなパンクロッカーたちがあらわれてきた。
そして、今や20代、30代を中心に、自由なオルタナの世界で遊びつつ稼ぐ人たちが出てきたのが日本のIT業界の現状なのである。
※そういえば、おネエのIT企業の社長がいたなあ。あの辺がニューウェイブかもしれない。
彼らは、スタバでウルトラブックやiPadで仕事をしている人たちよりも、本来の意味――その遊牧民的自由さでノマドだ(きっと、ノマドと言われることを嫌がるだろうが、僕はノマドという言葉は復権させないといけない言葉だと思っている)。
なんだか面白いことになっている。目が離せない。
今後どんどん話を聞き、記事にしていく予定だ(誠ブログじゃないところで、たぶん)。