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ファシリテーションとリーダーシップと宮本武蔵
当ブログ「ビジネスライターという仕事」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/toppakoh/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
自分軸発見ワークショップ(以下、WS)というのものを主催している。
昨年の8月から月1回開催してきて(2013年1月は開催しなかった)、先日2月2日に第6回目を開催した。
1回のWSで4人ぐらいの支援が限界なので、なかなか広がっていかないという危惧があった。昨年10月の懇親会で、参加者にこの危惧について話したら、自分もWSのファシリテーターをやりたいという方がいた。そこで、メルマガ読者に向けてファシリテーターを公募したところ、7人の方から応募があった。
それでは実際に場数を踏んでもらおうと、今年からはこの方々にWSのファシリテーターを務めてもらい、僕はそのサポートをすることにした。
横で見ているといろいろなことが分かる。傍目八目(おかめはちもく)というやつで、僕がものすごく優れたファシリテーターというわけではないのだが、いろいろと指摘をさせてもらった。
その指摘内容は、本日発行のメルマガでシェアさせてもらった。
■ ふと『五輪書』を開くと |
メルマガの内容について簡単にまとめると、気づくたびに指摘事項をメモしていたのだが、それをまとめなおしてみると、手順・態度・タイムマネジメント・スキルの4つの観点で指摘していることが分かった、ということである。
ただ、なんとなく、まだ消化不良だった。もう少し、観点を整理する必要があるように思えた。
メルマガを発行したあと、たまたま、宮本武蔵の『五輪書』をパラパラとめくった。
すると、次の一節が目に飛び込んできた。
果敢(はか)の行き、手ぎわよきといふ所、物事をゆるさゞる事、たいゆう知る事、気の上中下を知る事、いさみを付くるといふ事、むたいを知るといふ事、かやうの事ども、統領の心持に有る事也。
意訳すると、こんな感じだろうか。
「仕事がはかどるということ、手ぎわがいいこと、どんな些細なことにも心が行きとどいているということ、ツールや人の効用や適性を知ること、(部下や参加者の)それぞれのやる気のレベルを見極めること、モチベーションを高めるということ、無理や限界をわきまえること、などがリーダーの心得るべきことである」
■ 適材適所の話であることはもちろんだが |
「五輪書 地之巻」にある、この一節は、直前に以下の通りの文章があるため、通常は「適材適所」を説いたものだとされるようだ。
統領におゐて大工をつかふ事、其上中下を知り、或(あるい)はとこまはり、或は戸障子、或は敷居・鴨居・天井已下(いか)、それぞれにつかひて、あしきにはねだをはらせ、猶悪しきにはくさびをけづらせ、人をみわけてつかへば、其はか行きて、手際よきもの也。
訳さないが、上手な人には難しいところをやってもらえばいいし、下手な人にも必ず仕事はあるということが書いてある。
また、その前には、本当の意味(?)での「適材適所」についても書かれている。こちらには、どんな材木(まさに「材」だ)でも使い道があり、よい大工の棟梁(統領)は、それを見極めるというようなことが書いてある。
なので、適材適所の話であることはもちろんなのだが、僕が最初に引用した部分も適材適所の話だと思ってしまうともったいない。この部分は、リーダーの心構えについてまとめてあると捉えるのがよいと思う。
■ 「統領」を「ファシリテーター」に置き換えたら |
先ほどの意訳の部分を再掲する。
「仕事がはかどるということ、手ぎわがいいこと、どんな些細なことにも心が行きとどいているということ、ツールや人の効用や適性を知ること、(部下や参加者の)それぞれのやる気のレベルを見極めること、モチベーションを高めるということ、無理や限界をわきまえること、などがリーダーの心得るべきことである」
リーダーは「統領」の訳だが、これを「ファシリテーター」に置き換えても、そのまま意味が通じる。僕はそのことに驚いた。
ファシリテーションについて考えていたら、この一節が目にとまった。できすぎた話だが、人間あることに一生懸命になると、答えが向こうからやってくるということがよくある。その一例だろう。
ちょっとまとめなおしてみよう。
ファシリテーターの心得 ■ 目標・ゴールを共有する |
"■"は僕が付け加えた。ファシリテーションスキルを身につけようと思う人は、以上を印刷して、常に心がけるといいだろう。
■ リーダーにファシリテーションスキルが求められる理由 |
この「ファシリテーターの心得」は、参加者をメンバーに置き換えたら、そのまま「リーダーの心得」に早変わりする(当然ですが)。
僕は会社員時代ダメなリーダーだったと思うが、当時はファシリテーションという言葉は知っていても、何だか流行を追いかけるようなのがいやで避けていた。
今になって思えば、あの頃ファシリテーションのスキルがあったら、もうちょっとマシなリーダーになれたように思う。
当時は、ファシリテーション=会議術という誤解もあった。そうではなく、メンバーからアイデアとやる気と納得を引き出すスキルなのだ。
であれば、リーダーのやっていることは日々ファシリテーションということになる。
ファシリテーションこそ現代のリーダーに求められるスキルだとよく言われるが、まさにこれがその理由なのである。
こういうことを、僕は『五輪書』を読んで初めて理解した。日本の古典は豊穣である。