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空港で裸の写真を撮られた(?)話

空港で裸の写真を撮られた(?)話

吉岡 綾乃

Business Media 誠で編集長をしています。本ブログ&Twitterでは、Webメディアや紙メディア、ネットビジネス、携帯電話、非接触ICなどについての話題が中心になる予定。


正月休み、数年ぶりにアメリカに行ってきました。帰り、ラスベガスのマッカラン空港で、ちょっとびっくりな体験をしたのでその話を。

朝早い便だったこともあり、空港はそれほど混んでいなかったのですが、チェックインして預け入れ荷物を託し、手荷物検査&ボディチェックのところに来ると、一人当たりの時間がかなりかかるために、やや混雑&混乱気味でした。列が増えたり減ったり、並んでいるところを動かされたりしながら順序を待っていると、ようやく列の先頭にたどり着きました。

荷物をトレイに載せ、ベルトコンベアへ流します。携帯電話やノートPCは取り出して別のトレイの上へ。今回は「PCの電源を入れて見せろチェック」はありませんでした(これがあると時間がかかって大変)。アメリカでは靴も手荷物検査に通さないといけないので、靴も脱いでトレイに載せます。

●半透明な筒の中で「ホールドアップ!」

手荷物を機械に通したら今度は自分の番です。今回はベルトなど金属探知機に引っかかりそうなものはすべて外して、セーターにジーンズだけで自信を持って通ろう...と思ったら、男性職員に手招きされ、金属探知機の横を通されました。

通常は「金属探知機に引っかかる」→「ボディチェック」の順ですし、女性客のボディチェックには女性の職員が付きます。「なぜ?」と思いながら呼ばれたところへ行くと、半透明な筒のような機械の中へ入れと言われました。床には靴の形の足跡が書いてあり、そこに合わせて足を肩幅よりやや広めにあけて立ち、両手を頭の後ろに挙げるように、と指示されます。

「どうしてこんな格好をさせられるんだろう...」といぶかしく思っていると、半透明の筒の周りを機械がグルン!とすごいスピードで回り、「OK、通っていいよ」と言われました。金属探知機を通したかばんの中に携帯とノートPCを戻し、ゲートから飛行機に乗り込みました。

ay_tsa01.jpgのサムネール画像●「テロとの戦い」が理由なら何でもアリ?

その後、機内で「アメリカから<自由>が消える」という本を読んでいたところ、「あっ!」と思わず声を出して呟いてしまう箇所があったのです。それは、2009年12月にアムステルダム発デトロイト行きのデルタ航空機内でナイジェリア人が爆破テロ未遂事件を起こして逮捕されたことを受け、2010年初めからアメリカの14の空港に「ミリ波スキャナ」が設置されている、という話でした。テロ犯が金属探知機で見つけられない爆弾を使おうとしたため、非金属の不審物も発見できるよう、電磁波を使って衣服を透過して撮影できる機械を導入することになった、というのです。

なるほど、あれはミリ波スキャナという機械だったのか。事情は分かりましたが、さっきの機械が何をしていたのかを知って、なんともイヤーな気持ちに...だって、撮ってる画像、これですよ?

l_ay_tsa02.jpg

写真はTSA(アメリカ運輸保安庁)から持ってきたもの。ミリ波スキャナが動く動画と合わせてここに載っています。WIREDの記事によれば、もっと露骨というか、生々しい写真も......私もこんな写真を撮られていたのかと思うと、いい気持ちはしません。

TSAの説明ではプライバシーを配慮して顔は分からないようになっている(写真参照)とか、画像をチェックする係員は別室にいるので乗客と顔を合わせることはないとか、撮影した画像はすぐに破棄しているということなのですが、上述の堤さんの本によれば「ボディスキャンチェックの部署に男性の応募が殺到し、実際に勤務している男性が12歳の少女への性犯罪で逮捕された」「芸能人のスキャン写真を空港職員がネットに上げたものが出回り、その写真をプリントしたものを持って本人にサインをねだる人が現れた」といった事件があったとのこと。き、気持ち悪い......


アメリカでは9.11事件以来、空港のセキュリティチェックや入国審査がものすごく厳しくなっています。機内への液体物の持ち込みが厳しくなったのも、トランクに鍵をかけてはいけないことになったのもそうですし、今回アメリカへ入国したときには、両手10本の指の指紋を採られたのにも驚きました(今までこんなことはなかったはず)。データベースには膨大な人数のテロリスト容疑者の情報が登録されているそうで(恐ろしいことに、簡単に知人を「あいつは怪しい」と登録できるらしい)、指紋&パスポートデータの照合にはものすごく時間がかかっていました。

テロを未然に防ぐことはもちろん大事です。金属以外の爆弾を発見するための機械の導入が必要という理屈は分かります。でもこれは明らかなプライバシーの侵害(あまりこの言葉好きじゃないんですが)というか、「テロとの戦いが理由ならそこまで許されるの?」というレベルの話ではないでしょうか。

今回のミリ波スキャナを導入したのはアメリカやイギリス、オランダなどということなので、日本には関係ないのかとも思ったのですが、そんなわけはありませんでした。調べたら国土交通省が2010年夏に成田空港でボディスキャナ5種の実証実験をしていたのですね。成田で導入となれば、「アメリカには行かないから関係ないよ」という話ではすまなさそうです。これから飛行機に乗る度にこういうことが起きるのかと思うと、なんとも納得のいかない気持ちになったできごとでした。