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夏休みの課題図書『失敗の本質』

夏休みの課題図書『失敗の本質』

吉岡 綾乃

Business Media 誠で編集長をしています。本ブログ&Twitterでは、Webメディアや紙メディア、ネットビジネス、携帯電話、非接触ICなどについての話題が中心になる予定。


今日は終戦記念日......ということで、最近読んだこんな本をご紹介。

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失敗の本質』という本です。以前Kindleで買ったのですが、そのまま読まずにおいてあってようやく読み終わりました。この書影は中公文庫のものですが、私はどれくらいのボリュームなのかまったく知らずに読み始め(電子書籍はこれがコワイ)、読み終わるまでに1週間くらいかかってしまいました......。文庫版で413ページ、Kindleの標準表示だと4400ページ(!)というすごい読み応え。でも、読んで良かった。

昔から疑問だったのです。私は戦後教育を受けていますから「日本は物資などで圧倒的に劣るアメリカを相手に戦って負けた、沖縄、広島、長崎といった悲劇の後に敗戦を迎えた」と学ぶわけです。「なぜまったくかなわない相手、物資などで圧倒的に劣る相手と戦争しようと思ったのか?しかも短期決戦ではなく何年も戦うことになったのか?」と。ここが素朴に、すごく不思議でした。なので、なぜ日本軍が負けたのか、その分析をしている本ということで手に取ったのだと思います。で、読み始めたら......ちょっと意外な内容でした。

この本が出されたのは1984年。防衛大学校の教授や歴史学者など、6人の筆者による共著です。太平洋戦争で日本が負けた戦い6つを取り上げ、なぜ負けたのかその理由を分析するという内容です。本の中は大きく3つに分かれていて、

  • 1章 失敗の事例研究
  • 2章 失敗の本質――戦略・組織における日本軍の失敗の分析
  • 3章 失敗の教訓――日本軍の失敗の本質と今日的課題

という構成。ボリュームとしては1章「失敗の事例研究」で全体の半分以上を占めており、その中でそれぞれ、ノモンハン事件、ミッドウェー海戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ沖海戦、沖縄戦という6つの戦いについて、プロローグや作戦の目的、戦いの経緯、分析が書かれています。2章と3章は日本陸軍&海軍についての組織論なんですね。これがちょっと意外だった。しかもこれが、そのまんま現代日本に通じる内容なのです。

1章を読んでいると、悲しくなってくるというかなんというか......一つ一つの戦いについて詳しく述べられているので読み物としては面白いのですが、「こんなことで死んでしまった兵隊さんたちはあまりに可哀想だ」という怒りがひしひしとわいてきます。共通しているのは、「戦争の目的がはっきりしておらず、戦略が上官同士で共有されていない」「参謀本部と現地軍が違う動きをする」「陸軍と海軍が共同して作戦を立てない」「現場の意見がフィードバックされておらず、参謀本部は机上の空論」「短期決戦・奇襲しか考えていない」「武器や食料などが足りていないのに精神力&士気の高さで戦えと強いる」といったところでしょうか。こんな人たちが指揮とってる戦争に命を投げ出すなんて絶対嫌だ、このころ兵隊に行った人たちは本当に気の毒だ...と思いながら読み進めました。特にガタルカナル島の戦闘の悲惨さ(戦死者よりも、餓死者のほうが多かった)などは「こんなことを兵隊に強いたとしたら、将官はどうやって責任を取れるのだろう」と思わざるを得ません。

もうおなかいっぱい、というくらい日本軍の作戦の稚拙さ、戦い方の下手さ(というか古さ、ですかね。近代戦になっておらず、日清・日露戦争で時が止まっている)を思い知らされて2章を読み始めると、「あれ?これって今の日本でも同じなんじゃない......?」という気持ち、何とも言えない既視感に襲われるのがこの本の面白さ。アメリカ軍が、戦争に勝つためにいかに人材を発掘し、組織をリフレッシュし、新しい戦略を練り上げたかという方法論が書かれているのに対して、日本軍はどうだったか?という話がひたすら耳が痛い。官僚組織が硬直化してしまった結果、平時や、占領した地域を統治するための行政組織としてはうまくできていたが、戦争に勝つための組織としては機能していなかった、という指摘に「2014年の今もまるで事情は変わっていないぞ......日本人のメンタリティって70年前から何も変わっていないんだ」と愕然とするばかり。「大学の成績が極端に重視されて、能力があるかどうかで登用されない」「面白い意見を出す異端者がいても、異端者は組織の中で嫌われてしまって偉くなれない」などなどなどなど......(ほかにもいっぱいあります)。

「戦争に勝つ」という目的を達成するために、日本軍という組織をいかに運用していくか。本では陸軍・海軍となっているところを、そのまま「日本」とか「企業」とかに置き換えると平成の日本でもまったく本質的に変わっていないことにただただ驚きます。どのように人材を発掘すべきか、目的を共有することの重要性、などなど、いまの日本企業で課題になっていることが、70年前の日本軍にそのままあてはまるなんて......! 日本軍が勝てなかった理由を分析し、そこから今の私たちが学べることがたくさんある。これこそ「歴史に学ぶ」そのものなのではないでしょうか。

......と、ここまでが本書を読み終わった直後の私の感想。このブログを書こうと「失敗の本質」で軽く検索をかけてみたところ、この本、ビジネス書界隈では2010年、2012年など数回にわたり、組織論の名著としてかなり話題になっていたのですね。知りませんでした。勝間和代さんや、ローソンの新波剛史社長も推薦していたとか。

原著を読み通せなかった人向けなのか、ダイヤモンド社から『「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ 』という入門本?要約本?まで出ていました。「なぜ、今『失敗の本質』なのか?これから読むための7つのヒント」という特設サイトまでできていた......!

そんな前評判は全く知らずに読み始めてしまいましたが、とても読み応えがある本でした。1章は読み物として純粋に面白いですし、2章3章は今の自分や勤めている会社組織などを連想しながら読むととても考えさせられますので。長いけど別に難解ではないので、時間がとれるときにまとめて読んでみることをオススメします。よかったらぜひどうぞ。→『失敗の本質