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日本も「べからず国家」になるべきなのだろうか

日本も「べからず国家」になるべきなのだろうか

吉岡 綾乃

Business Media 誠で編集長をしています。本ブログ&Twitterでは、Webメディアや紙メディア、ネットビジネス、携帯電話、非接触ICなどについての話題が中心になる予定。


今年はカレンダー通りに休んでいるGW。天気もいいしせっかくの休みだから......と、日帰り温泉を巡るドライブ小旅行に行ってきた。

1日3軒×2、2日間で合計6か所の温泉に入ったのだが、驚いたのがそのうち3軒の温泉の洗面所で「ドライヤーは○○の備品です。持ち帰らないでください」という張り紙を見かけたこと(○○にはそれぞれの施設名、温泉名が入る)。確かに家にあるような普通のドライヤーなのだが、しかし......このような張り紙があるということは、実際にドライヤーを持って帰ってしまう不心得者がいるということなのだろう。ううむ。


●「べからず」国家、シンガポール

髪を乾かしながら思い出したのは、シンガポールで初めてMRT(電車)に乗ったときのことだ。シンガポールへ行ったことがある方はご存じだと思うが、彼の国では街のあちこちに「○○禁止、罰金××ドル」の張り紙がある。MRTの中であれば"No Smoking FINE 1000$"とか"No eating and drinking FINE 1000$"といった具合。今から10年くらい前の話だが、今も罰金制度は続いているはずだ。FINEに「罰金」という意味があることを私はシンガポールで初めて知ったのだが、それ以上に驚いたのがこのシステムそのものと罰金の高さだ。たばこを吸うなとかポイ捨てするなとか、車内で飲食するなとか果てはチューイングガムをペッと吐き捨てるなとか(シンガポールではガムの販売・持ち込みが禁止されています)、日本の公共交通なら「マナー広告」の範囲内であろう内容に、とんでもない罰金が科せられていることに驚いた。

そのときの感想を正直にここで再掲すると、「『○○しちゃいけません』をこんな高い罰金をかけて本気でとりしまってるなんて、ばっかじゃないの?小学校じゃあるまいし」だった。車内でのたばこや飲食を禁止するのは分かる、でも大人なんだから、ポスターに書いておきさえすれば十分だ、。やっちゃいけないことであることくらい、子どもだって分かる。罰金まで科す必要はないだろうに――当時の私はそう思っていたのである。

あれから10余年が経ち、「もう『ばっかじゃないの?』とは言えないなあ」と思っている自分がいる。自戒を込めて書くけれど、車内でマズイ行為を見かけても、私には勇気がなくて注意なんかできない。東京メトロのマナーポスターのような現場に出くわして、皆が顔をしかめているのに、誰も注意するでもなく、皆でじっと我慢している......という光景を見ることはよくある。それならいっそ、「○○禁止、罰金××円」と張り出してしまえばいいのではないかと思うのだ。

manner_metro_s.gif

東京メトロのマナーポスター

それともう一つ、こういった仕組みができた背景としては、シンガポールは多民族国家であり、さまざまな文化的背景を持った人たちが混在する都市国家だということもあるだろう。中華系の人、マレー系の人、ムスリム、ヨーロッパから働きに来ている人、日本から来ている観光客......シンガポールにはいろいろな人がいる。何を良しとして何はマナー違反と思うか、そのレベルもいろいろだ。多様な人たちにマナーを守ってもらうには、シンプルなイラストと簡単な英語で書かれた「べからずポスター」はかなり効果があるだろう。

最近では日本にやってくる外国人観光客が本当に増えた。日本語の横に、英語、中国語、韓国語が書き添えられた案内看板を見かけることも増えている。「畳に靴で上がってはいけない」とか「お風呂には全裸で入れ」とか、日本文化の"常識"をイラスト入りのポスターににして、旅館や観光地などに配ってあげるのは良い試みかもしれない。

●シンガポールを見習うべき?

先月だったと思うが、電車の中でカップラーメンを食べている女性の写真がtwitterで流れていたことがあった。まさに上のイラストのような状況で、「マナーとしてどうなんだ?」「お湯を入れたラーメンをどうやって持ち込んだのだ?」「確かに悪いが、顔がばっちり写っている写真がこうしてネットにばらまかれるのもどうなんだろう?」など、さまざまな感想もまたtwitterで流れていた。そのとき私は「カップラーメンを車内で食べるのはありえないだろう......とはいえ顔写真がばらまかれちゃうのはさすがに気の毒かな」と思ったものの、「車内飲食禁止、罰金××円」と書いてあればこれも防げた話だとは思う。

公共施設に置かれたドライヤーを持っていってはいけないことくらい、わざわざ張り紙をするまでもなく当たり前のこと。電車の中でカップラーメンを食べないのも普通のこと。しかしそれが守られないのなら、日本もシンガポールに倣って、べからずポスター&罰金システムを導入すべきなのかもしれない。とはいえまだ心の底では「小学校じゃあるまいし......」と、ちょっと思ってはいるのだけれど。